4年ごとに開催されているFIFAワールドカップ。様々なものがこの大会をキッカケにアップデートされるが、その中でも最も注目される用具の一つが「ボール」だ。
そのサプライヤーとなっているのはadidas。1970年代から大会ごとに新しいデザインのボールを投入しており、1986年メキシコ大会のアステカ遺跡をモチーフにしたグラフィックや、1994年アメリカ大会の月着陸25周年を記念したデザインなど、見た目の変化が主だった時期もある。
しかし、2006年ドイツ大会の『チームガイスト』で大きな転換期を迎える。従来の32枚パネルから14枚へと激減し、縫い目のないサーマルボンディング製法を採用。これにより吸水を防ぎ、試合中にボールが重くなるのを回避できるようになった。
それ以降のボールはパネルの枚数を減らし続け、表面の質感を工夫することで進化を模索してきた。だが、その中で大きな議論を呼んだモデルもあった。それは2010年南アフリカ大会の『ジャブラニ』だ。多くのGKから「軌道が予測不能で、急激に変化する」と猛烈な批判を浴びた。
『technologyreview』によれば、研究者グループのジョン・エリック・ゴフ教授はその原因を「表面が滑らかすぎたこと」にあったと話しているという。表面が滑らかなボールは、スピードが一定以下に落ちると急激に空気抵抗が増し、失速したり軌道が乱れたりしやすいとのこと。
近年の公式球はこの教訓を活かし、表面に細かな加工を施すことで安定性を高めてきた。2014年の『ブラズーカ』はわずか6枚のパネルながら、縫い目の全長を長くすることで表面の粗さを確保。
そして2026年に向けてデビューした新たなボール『トリオンダ』は、史上最少となる4枚のパネル構成でありながら、各パネルに3本の深い溝を刻むことで、より複雑な形状を持たせているとのこと。この最新ボールはいくつかの面で過去のモデルを上回る進化を遂げている一方で、「ロングキックの飛距離が従来よりも落ちる可能性がある」という興味深いデータが示されたという。
実験の結果、『トリオンダ』は2010年以降のモデルで最も低い速度域まで安定した飛行を維持できることが分かった一方、表面の粗さを増したことで、高速走行時の空気抵抗そのものが過去のモデルより高くなっているという。
つまり、蹴り出された直後の高速域で減速しやすく、ロングキックの飛距離は数メートル短くなる可能性があるそうだ。ジョン・エリック・ゴフ教授はこのように説明しているそう。
「簡単に言えば、トリオンダは極端な飛距離に対してはわずかに不利に働くかもしれませんが、正確なテクニックに対しては素直な軌道という報酬を与えてくれるでしょう。GKやロングパスを供給するDF、そして遠距離からゴールを狙うシューターたちは、これまでのボールとの違いを真っ先に感じることになるはずです」
ただ、これはそれほど適応が難しいものではないという。2020年に発売されたNikeの「FLIGHT」と特性が似ているほか、選手たちには数ヶ月前からこのボールに触れる機会があったとのこと。
最新のテクノロジーが惜しみなく注入された「トリオンダ」。空気抵抗が大きいために飛距離やスピードは出にくいが、その分弾道が揺れにくい…という特性があるこのボールで、選手たちはどんなドラマを起こしてくれるのだろうか。
筆者:石井彰(編集部)
画像提供:Getty Images
