世界には数え切れないほどのサッカークラブがある。それだけあれば、我々の常識では考えられないような出来事も起きる。

「麻薬密売組織の首謀者」として追われた男がプロクラブの中盤でプレーしたり、代表チームそのものが“偽物”だったり、フェリーの甲板でダービーマッチが開催されたり……。作り話のようだが、いずれも実際にサッカー界で起きたエピソードだ。

英誌『FourFourTwo』は8月30日、ジャーナリストのポール・ワトソン氏による著書『Around the World in 80 Clubs』から、世界各地の風変わりなサッカーストーリー20件を紹介している。

「麻薬王」がプロクラブのMFに

舞台は2021年のパラグアイ。デポルティーボ・カピアタの中盤に、ひときわ異色の選手が加入した。それはウルグアイ出身のセバスティアン・マルセットだ。彼はもともとサッカー選手を志していた人物だったが、その一方で、世界でも最も悪名高いコカインや違法薬物の密売人でもあった。

高級車で練習場に現れ、チームメイトに金銭を渡して自らの先発起用を支持させた。そして本名で試合に出場し、プロサッカー選手になるという夢を叶えた。

しかしその後、マルセットは国際的な逃亡生活へ。2026年3月にボリビアで拘束され、その日のうちに米国へ移送された。

相手はトーゴ代表…と思ったら全員偽物だった

2010年、バーレーン代表は親善試合でトーゴ代表と対戦し、3-0で快勝した。ところが、バーレーンのヨゼフ・ヒッケルスベルガー監督は試合後に違和感を覚えたという。

W杯にも出場した国の代表とは思えないほど相手の動きが悪く、エマニュエル・アデバヨールら有名選手の姿もない。

バーレーン側がトーゴサッカー連盟へ問い合わせたところ、衝撃の事実が判明した。なんとトーゴはA代表チームをバーレーンへ派遣していなかったのである。実際にプレーしたのは“偽トーゴ代表”。試合は八百長に関与したマフィアの一員によって仕組まれ、元トーゴ代表監督が偽チームを率いていたという。

フェリーの甲板で行われた「島ダービー」

ホーム&アウェイという概念を、誰よりも公平に解決したのがエストニアのサーレマー島とヒーウマー島。両島には昔からライバル意識があり、2013年にサッカーで決着をつけることになった。

双方がホームアドバンテージを譲らなかった末に決まった会場は、なんと両島を結ぶ旅客フェリー「M/S Muhumaa」の甲板だった。船上に人工のピッチを設置。ただし通常の11人制を行える広さはなかったため、5人制で対戦した。

なお、結果はヒーウマー島が4-1で勝利。文字通りの“中立地開催”となった。

300試合以上連続の敗北…弱すぎてリーグ追放に

普通、クラブがリーグから追放されるとなれば、不正や規則違反を想像する。しかし、スペインのスエカ・ユナイテッドは違った。その理由は「弱すぎた」ことだった。

俳優パウ・コディナによって設立されたクラブは、通常なら出場機会を得られない人々にもサッカーを楽しむ場所を提供するというユニークな理念を持っていた。

しかし、当然ながら競技レベルでは苦戦。11シーズンで300試合以上連続で敗れ、失点は4000以上。その平均スコアは「0-24」だったという。そして2023年9月、40-0という敗戦を受けてバレンシア州サッカー連盟から大会を除外された。

試合前に選手が「海難救助」へ…8人で30失点

南大西洋に浮かぶ英国海外領土セントヘレナ島。ナポレオンが晩年を過ごした島として知られるが、ここにもサッカーリーグが存在する。

2020年、クリスタル・レンジャーズはローヴァーズに0-36、ベルボーイズに0-30という猛烈なスコアで敗れた。ただし、そこにはまっとうな事情があった。

いずれの試合も出場できたのはわずか8人。島で海難救助が発生し、試合前のウォーミングアップ中に複数の選手が救命艇へ向かわなければならなかったのだという。

世界最高のピッチ!?酸素ボンベが必要な試合

南米ペルーのセロ・デ・パスコは標高4000mを超える鉱山都市である。そこを本拠地としていたウニオン・ミナスの武器は、選手でも戦術でもなく、「標高」であった。

本拠地エスタディオ・ダニエル・アルシデス・カリオンは標高4300m。訪問チームにとってはサッカー以前の問題で、ハーフタイムのロッカールームでは酸素マスクが頻繁に使われたという。

この圧倒的ホームアドバンテージもあり、ウニオン・ミナスは1998年に一時ペルー1部の首位に立ったことも。

リーグ優勝すると「ライバルの葬式」を開催

マルタの名門ヴァレッタFCは、国内リーグを25回制覇している強豪だ。2000-01シーズンには国内大会でなんと「6冠」を達成した。

ただし、このクラブがライバルから嫌われる理由は強さだけではない。リーグ優勝を果たすと、サポーターたちは敗れた相手の“葬式”を街中で開催するのだ。ライバルのエンブレムを付けた棺まで用意し、優勝パレードならぬ「葬送行進」を行う。

そんなヴァレッタが2023-24シーズンに史上初の2部降格を経験した際には、他クラブのサポーターたちが大いに喜んだという。

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