その(1)からの続き。

 

◯学びの場と淘汰の必要性

状況の改善には、一方通行なアプローチでは足りない。

2つの側面から正しい施策を打ち立てる必要がある。

まず、指導者の意識改善や、正しい指導法の教育を受けられる場を設けることだ。

実際に複数の指導者と会ってわかったことだが、指導者は必ずしも現行のサッカーシーンに通じている訳ではない。先述した

「プレーする者と観戦する者、あるいは学び、知ろうとする者はイコールではない」
というのはこのことである。

コーチの中には、Jリーグの試合を一試合もまともに観戦したことがないという方もいた。実話である。彼らはせいぜいが日本代表の試合を、民放での中継があることに気 が付いた場合のみ、他に視る番組がなければ垂れ流しにする程度だという。

断っておくが、これは一部の例外ではない。

様々なレベルの、10数名を超える指導者の方々とお会いした際、実際に確認した結果なのだ。

ここで言えることは、プレーすることに喜びと、観ることの喜びは、まったく似て非なるものということだろう。

自分がやることには夢中になれるが、自分がその中に入れもしないのに観戦していても面白くもなんともない――そういった方は、少なからず存在するのである。

更に、その中で
「学び、知ろうとする者」
は、より少なくなってくる。

本来、教育者・指導者とは、彼人自身が学び続けなければならない人種である。

これはサッカーに限らず、すべての文化で適用できる不文律だ。

学ぶことを止めた、あるいはサボる指導者の教えは、時が経つにつれ粗が目立つようになっていく。時代の変化に対応できなくなるためだ。

守るべき伝統、例えば一子相伝の伝統芸能ですら、これは例外ではない。例えば需要、受け手である市場に関する勉強を欠かしていては、誇り高くエゴを保って、滅び行 く未来に身を任せる他に道はなくなる。

その点で考えてみると、あるいは人にとって、生きることは学ぶことと同義であるのかもしれない。

だが現状、多くの指導者たちが置かれている状況は過酷だ。

学びたくても学べない者も多くいる。

学ぶことの必要性は理解していても、日々の仕事や生活の余裕の無さが、学ぶためのエネルギーを奪ってしまう側面もある。

学ぶためにかかるコストが、決して安くないことが最大の問題点だ。

時間・金銭・労力……すべての点において、モチベーションや犠牲に対する見返りがあまりにも少ない。

指導者たちもまた、正しい教育指導を必要とする存在なのだ。にも関わらず、世間の要求に対して、彼らが応えるために支払わなければならない代償が、あまりにも高す ぎるのが問題なのだ。

この状況を改善するためには、教育体制の補助、ライセンスの簡略化等、複数の取り組みがいよいよもって必要となってくるはずである。

言わずもがな。このレベルの問題を国家単位で解決するには、個人レベルの工夫ではどうにもならない。協会レベルの取り組みが、これまで以上に具体的な形で必要とな ってくるだろう。

もう一つのアプローチは、保護者たちの要求・意識改革である。

ここからは僭越なことを充分承知しながらも、意を決して申し上げることにしよう。

さて……

習い事でサッカーをやらせることにかかるコストは、直に体験した者でなければなかなか理解し難いことだ。

時間。金銭。労力。

そのどれもが莫大である。

休日に練習や試合ともなれば、ほぼ丸一日を費やさなければならなくなる。道具一式に月謝を計算すると、家計簿への圧迫をひしひしと感じずにはいられない。

弁当の準備や洗濯などの家事然り、他の保護者との付き合い然り……

日々を忙しく働く現代人にとって、嬉々として受け入れるのはあまりにも制約が多すぎると言わざるを得ない。

「子どもがサッカーをプレーする場と権利を」
等と、口にするのは容易いことだ。

多くのサッカーファンが、好んで使う常套句ですらある。だが、そこでいかに保護者の苦労・苦悩が蔑ろにされていることか? 

この点、おおいに問題があると言える。

しかし、だ。

しかしである。その事実を踏まえた上で、あえて申し上げたい。

そうした中でも、犠牲や義務として習わせるのではなく、より子どもたち自身のためにフットボールライフを確立するには、保護者の皆様方の力がどうしても必要になる 。

傍観者として、第三者として“そこにいる”だけでは無理なのだ。惰性ではなく当事者の一人として、より深い所まで関わっていって欲しいと願う。

具体例をあげて言うならば、例えば所属チームについては

・当事者である子ども自身の欲求を知り、
・チームの目的・目標を知り、
・普段の練習の質、試合での方針を知る

ことにより、精査を行う必要があるということである。

子どもの欲求はなんだろうか。楽しくボールを蹴ることで満足するのか? 

では、その楽しさの質とは何か? 技術の向上が喜びを与えるのか? 共に学び、ボールを追える友だちを欲してのことなのか?

チームのコンセプトは何なのだろうか。勝つためのチームか? 成長するためのチームか? 

レベルはどのようなものだろうか。立地条件は、送迎の許容範囲にあるか? 

何より、子どもたちがサッカーを楽しむ権利は阻害されてはいないか……?

普段の練習の質はどうか。ボールを追う楽しさを学ぶための場所か? それとも、ボールを追う楽しさを既に知った者たちのための、技術研鑽のための場所か? 

試合の方針は何か。全員が実戦を経験し、成長するための試合なのか? ベンチにいる者、そこにすら入れぬ者も含め、集団が一体となって、目前の試合に勝つための試 合なのか?  ミスが不当に責められてはいないか? ミスから学べる環境は整っているか……?

……こうした目を、意識を、日頃から是非に磨いていって欲しいと願う次第である。

ここ数年少しずつ、本当に少しずつながら、幼少期サッカーの現場に触れる機会を得られた。そのことで現実を知り、子どもがいない身ながら、子にサッカーを習わす皆 様の苦労の一端を垣間見てきた。

その上で夢想するのは、教わる者と教えさせる者――つまり保護者と子と、双方の喜びだ。 故に、保護者には惰性やお義理ではなく、本質を見極める目をもって子どもたちのフットボール・ライフに携わって欲しい。

「ああ、このチームに入れてよかった」

と、習わせる者である保護者の皆様方にも、大きな喜びを掴んで欲しいと思うのである。 そのためには、目を養い、意識を高く持つことが欠かせない。宝石の原石を預ける以上、研磨職人は目的のカットに合った資質の持ち主でなければならない。

チーム選び、コーチの見極めとは、まさしくそういうことではないかと思うのだ。

 

~あとがき~

幼少期の育成人材の確保、環境の整備というテーマは、今回触れた内容では、その一端すらカバーできぬ程深く、広い。そして重い。

今回詳しく触れられなかったコーチ側の苦労としては、例えばモンスター・ペアレンツの問題がある。

昨今話題のこの単語だが、登場するのは、何も学校等の教育現場だけではない。 「何故自分の子どもを起用しないのか!?」 と憤って暴挙に出る親は、街角の極々小さなサッカーチームですら見受けられる。

愛するフットボールに少しでも関わり、その発展に貢献するため、地域チームのコーチ業を無償で引き受けた者が、このストレスに耐えかねて、とうとう潰れてしまった 実話も知っている。

あるいはこの手記に目を通してくれている皆様方の中にも、同種の苦労を抱えるコーチがいらっしゃるかもしれない。それほどまでに、ありふれた身近な問題となってい るのだ。

保護者側の苦労ならば、例えばお手伝いさんの優遇に纏わるジレンマがそうだ。

同じプレーレベルの子どころか、多少プレーレベルが落ちる子どもであっても、保護者が率先して頻繁にチーム運営を手助けしてくれる家庭であれば、その子の扱いが優 遇されるのは半ば当然の成り行きだ。

勝つことが目的のチームでなければ、多くの現場でそれはもはや必然にすらなりつつある。ただでさえチーム運営に多くのコストがかかる以上、それを広範囲でカバーしてくれる保護者の存在ほど、 コーチにとってありがたいものはない。

プロフットボールクラブのスポンサーと契約選手の関係にも似た、クオリティ以外の要素がそこには介在する。教える側の事情も知る筆者から言えば、それは決してすべ て批判に値する選択とはならない。綺麗ごとだけで社会が回らないのは、このレベルのコミュニティにあっては、むしろ当然の理ですらあろう。

しかし、それで正当な評価を受けられない子と、その保護者の感情はどうか?

面白くなくて当然である。さっと踵を返し、純粋な実力勝負が可能なチームで、思う存分プレーさせてあげたい。庇護者の切実な願いと言っていい。

だが、前述した莫大なコストが、そうした希望を押し潰す。仮に移籍可能な条件を整えていたとしても、保護者間の付き合いや陰口恐さに、二の足を踏んでしまうような 状況は、決して珍しいものではない……

根は深く、複雑に絡み合っている。

だがそれを少しずつでも解きほぐし、正しい手立てを打つことなくして、今後の日本サッカーの発展は望めない。

この手記が、十人と言わず一人でもいい、読んでくださった方への励ましとなることを。

あるいは、どこかで誰かのために、何よりも子どもたちのために、問題提起のきっかけになってくれればと切に願う。

<了>

 

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筆者名:白面

プロフィール:だいたいモウリーニョ時代からのインテリスタだが、三冠獲得後の暗黒時代も、それはそれで満喫中だったりします。長友佑都@INTERの同人誌、『長友志』シリーズの作者で す。チームの戦術よりも、クラブの戦略を注視。

ブログ:http://moderazione.blog75.fc2.com/

ツイッター:@inter316

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