長くイングランド代表の悩みの種だったスティーヴン・ジェラードとフランク・ランパードの共存問題はファビオ・カペッロ監督の就任でようやく決着がついた。カペッロはランパードを中央に置き、ジェラードに左サイドからウェイン・ルーニーをサポートする役目を与えることで、キャラクターの似た2人を同時に使うことに成功したのだ。
しかし、同時に新たな問題が生まれた。ランパードのパートナーとなるべき存在がいないのだ。チェルシーでの彼の活躍もクロード・マケレレやマイケル・エッシェンのような“盾”が背後に控えているからこそ。彼らのように確実にボールを奪ってくれる存在があって初めて、守備が得意でないランパードは持ち味を存分に発揮できるのだ。
イングランド代表はどうだろうか?カペッロのファーストチョイスであるギャレス・バリーはポジショニングが良く、チャンスの芽を未然に摘むことに長けている。前線に鋭いパスを通すことも可能だ。しかし1vs1の強さに欠け、中盤のフィルター役としては物足りない。ジャーメイン・ジーナスと組んだブラジル戦(11月14日)でも、バリーはブラジルの波状攻撃に対して力不足を露呈していた。
ではマイケル・キャリックは?彼も同じことだ。バリーよりパスに長け、ポジショニングセンスも天才的。しかし線の細さもバリー以上で、ランパード以上に盾を必要とする選手だ。タックルの鬼、スコット・パーカーは守備、攻撃ともに悪くないが、相次ぐ怪我に全盛期の輝きを奪われてしまった。凡ミスと欠場が多すぎて妥協案の域を出ない。オーウェン・ハーグリーヴスがドイツW杯の活躍を再び見せることができるならポジションは彼のものだが、まずは怪我からの復帰が先決だ。
若い世代に可能性を求めてみよう。アストン・ヴィラのナイジェル・レオ=コーカーは今のところ期待外れ。確かにフィジカルに優れたランナーだが、彼もどちらかといえば攻めの選手だ。エヴァートンの18歳ジャック・ロドウェルは可能性を感じさせるが、代表に呼ぶには早すぎる。現時点ではタックルもプレスも世界で通用するレベルにはない。トム・ハドルストーンはDF出身だけあってタックルもうまく、空中戦にも強い。さらに強力なミドルも備えている。しかしフィルター役を任すには守備範囲が狭すぎる。足の遅さをカバーするほどの戦術眼を持ち合わせていないのだ。
そこで推薦したいのがリー・カッターモールだ。もっともカペッロはすでに彼に注目し、何度も視察に訪れてはいるのだが。絶対に屈服しない強い意志と強烈なタックルが売りのMFは、昨シーズンウィガンで一気に才能が開花。底なしの運動量で広い範囲をカバーし、つなぎも上手い。今シーズン加入したサンダーランドでも、スティーヴ・ブルース監督の下で飛躍を遂げた昨シーズンの勢いそのままに輝きを放っている。
カッターモールの意志の強さを表すエピソードがある。数シーズン前、彼が当時所属していたミドルズブラはアーセナルとの試合で大量のゴールを叩き込まれ、すでにほとんどの選手が試合を投げていた。しかしカッターモールだけはふがいないチームメートに喝を入れるかのように、懸命にボールを追い、鋭いタックルを繰り返していたのだ。かつて代表でこのポジションを担ったポール・インス、ニッキー・バットがそうだったように。
W杯本番まであと6カ月半。カッターモールが南アフリカでランパードのパートナーを務める可能性はゼロに近いだろう。まったく新しいメンバーを代表に加えるのは厄介な作業だし、カッターモール自身にもまだ欠点は多い。しかしW杯以降を見据えるなら、彼を代表に加えてみる価値はある。イングランドに欠けている“盾”となれる可能性を最も感じさせるのは、この21歳だ。
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