この蕎麦が食べられる場所で……(日本語版ウィキペディアより)。
タイトルについてのテーマの後編です。(前半はこちら)
前編では「思い付き」からいろいろと書き飛ばしてみましたが、この後編ではもうちょっと足に地を付けて、フットサルが抱えている問題を検討してみました。でも、最後はちゃんと(?)、ファンタジーに戻りますので(笑)。
◎ネタでは済まない「女子問題」
今回、いろいろと調べるうちに気付いた大きな障害は、「女子フットサル」の普及の遅れです。
五輪の球技系競技にマインドスポーツを加えた各競技で、五輪や世界選手権・W杯での男女別初実施年をまとめてみました。
<表> 各競技の五輪と世界選手権・W杯での男女別初実施年
確かに、「フットボール」だと別の競技になってしまう「サッカーマム」の国、アメリカを別として、サッカーは長らく男性のものでした。そもそも1970年代までイングランドやドイツでは女子選手がグラウンド練習すらできず、第1回の女子W杯実施は1991年、夏季五輪で実施されたのは1996年のアトランタ大会。「東洋の魔女」に金メダルを取らせるため日本が要望し、1964年東京大会で男女同時採用、しかも女子初の球技となったバレーボールは別としても、かなり遅い五輪への登場です。フィジカルコンタクトの激しさではフットサルよりも苛酷なラグビーでも、五輪で採用される7人制では女子W杯が2009年に初開催されています。実は15人制になると男子1987年、女子1991年で、さらに性別の差がありません(それ以前のラグビーは、二国間のテストマッチの積み重ねと西欧の「五カ国対抗」で「世界最強を推定」する方式)。
そしてFIFAによるフットサルの第1回世界選手権は1989年に行われましたが、2016年大会も恐らく男子だけの開催になりそうです。女子は2010年から「世界フットサルトーナメント」が毎年12月に開催され、2013年にも第4回が行われましたが、本大会には9カ国のみの参加でした。
今のIOCにとって、「女子スポーツの振興」は最も重要なテーマの一つです。非常に危険という事で競技人口が非常に少なかったスキージャンプでも、ノーマルヒルのみながらソチ大会で女子種目が正式採用になりました。そんな中、フットサルでは今でも競技団体が主催する公式の女子世界大会が開けないという状況は相当のマイナスです。いや、このコラムの「フットサルを冬季五輪に!」は完全なネタ記事ですが、「女子の影が薄いフットサルの現状」はかなりまずいなと、調べながら考えました。
五輪を見ながらこのテーマを思い付き、パラリンピックを横目にいろいろ調べている間、先週末に全日本フットサル選手権が行われていました。名古屋オーシャンズが見事に2年連続で三冠を独占しましたが、第10回全日本女子フットサル選手権は2013年11月に北九州で行われ、近畿代表のアルコインス神戸が2度目の優勝を飾っています。ここで活躍した選手の中からフットサル女子日本代表、「なでしこ5(ファイブ)」が編成され、12月の世界フットサルに出場しました。日本はこれまで4大会連続で世界フットサルに出ています。
ただ男子のようなリーグ戦がないので、継続的な強化は難しいようです。世界フットサルでも日本はまだ準決勝に進めていません。また、どのチームにどんな選手がいて、普段はどんな活動をしているのかをつかむのもなかなか大変です。
それでも、この「アルコイリス神戸」のブログを見ていると、色々と面白い事に気付きました。これについても、また別の機会でちゃんと取り上げようと思います。
『arco-iris KOBE』の魂ブログ
http://ameblo.jp/arco-iris-2008/
◎逆転の発想!「第二の常呂」を目指せるか?
ここまでいろいろと書いてきましたが、大きな可能性は秘めているものの、やはりすぐにフットサルがすぐに冬季五輪に入るのは難しそう、でも何かアイディアはないか……と思って検索を続けたら、これがヒットしてビックリしました。
「音威子府村 村名改称50周年記念事業」
第1回全日本雪上サッカー 音威子府大会
(~ALL Japan Snow Futsal Festival~)
●日時 2014年3月2日(日)
●会場 北海道音威子府村 クロスカントリー本部棟前
●主催 音威子府村村名改称50周年記念事業実行委員会、全日本雪上サッカー音威子府大会実行委員会
●共催 音威子府、音威子府教育委員会、音威子府体育協会
●後援 NHK旭川放送局、北海道新聞社、音威子府商工会、音威子府観光協会、NPO法人ecoおといねっぷ、札幌テレビ放送網(株)
●協賛 サッポロビール(株)、(株) 千見寺商店、(有)蔦木、北海道コカ・コーラボトリング(株)、(株)梨澤組
●内容 雪上のフィールドで行うフットサル競技
●資格 18歳以上の社会人・学生で構成されたチーム(男女混成も可)
●優勝 賞金5万円
●参加料 1チーム6000円
●申込先 音威子府村役場総務課地域振興室内 「全日本雪上サッカー音威子府大会実行委員会」
「全日本雪上サッカー」!
見ての通り、「第1回全日本雪上サッカー・音威子府大会」の文字が!確かにこれなら堂々と、胸を張ってフットサルを冬の五輪で開催できます!
しかも後援や協賛には地元企業に交じって大手の名前まであります。これは一体何だと思って、北海道の上川総合振興局北部にあるこの音威子府村(おといねっぷむら)に電話取材しました。
快く対応して下さった村役場総務課地域振興室の大竹氏によると、これは村の名前が音威子府になってから2013年で50周年になったのを記念した一連の行事の締めくくりでした。実は鉄道ファンにとって「音威子府駅」はよく知られた場所で、かつては日本海へ出る宗谷本線とオホーツク海に向かう天北線の分岐点、今でも特急が止まる拠点駅です。ここの名物はこのページの冒頭に載せた、機関士や乗り換え客、そして全国の鉄道ファンに長く食べ継がれた真っ黒い駅蕎麦。
しかし、1904年にこの地区へ日本人(和人)の農業入植が始まり、1916年に村ができた時の名前は「常盤村」(ときわむら)でした。蕎麦屋の名前も「常盤軒」です。その後は「国鉄の村」として発展しましたが、JR北海道への民営化と天北線の廃止で職員が大幅に削減されると「音威子府村」になった1963年には4千人近かった人口は激減し、今年1月末では822人です。しかし、北海道大学の演習林をはじめ、森林が面積の8割を占めるこの村にアトリエを作ったアイヌの彫刻家・砂澤ビッキの遺作なども活かし、現在は「森と匠の村」としての発展を目指しています。この村名改称50周年事業では、村にある美術工芸高校の卒業生によるアート&クラフト展、記念列車運行と「鉄道の村」記念イベントなどをやっていました。
大竹氏の話に戻ると、そんな改称記念事業の締めくくりになる冬のイベントを考えていた時、近くの(といっても100km近く南ですが)和寒町でやっていた「雪上玉入れ」に参加した経験から雪上スポーツ大会を思いついたそうです。
この音威子府にはクロスカントリーコースがあり、吉田圭伸はインターハイで優勝した後、ソチ大会で村最初のオリンピック代表選手になりました。ノルディックの男子40kmリレーで日本チームの第2走者として出場しました(16位)。この改称記念事業でも2013年8月にトレイルランニング大会をやっています。
日刊スポーツ2014年2月18日付
「吉田圭伸は音威子府村822人の誇り」
http://www.nikkansports.com/sochi2014/crosscountry/news/p-sochi-tp0-20140218-1259259.html
neppu.com(吉田圭伸の個人ブログ)
http://ameblo.jp/neppu-neppu-no1/
クロスカントリーコースは圧雪されているので、他の競技も可能です。ならば普通にスキーをするのではなく、フットサルもできるじゃないかと気付いたのが大竹氏。トレイルランニングとのセットで村外の企業をスポンサーにし、あとは「『全日本選手権』は言ったもん勝ちですから」。音威子府は北海道有数の豪雪地帯で、ソチの様な雪不足の心配もありません。この大会の時も積雪162cmでした。
18歳以上なら男女問わず参加可能で、村外からも参加を募っていました。試合開始時刻は朝の9時ちょうど、受付は8時から8時30分なので、村外からの参加チームの多くは音威子府に前泊が必要です。これも大きな経済効果ですね。
そして、記念すべき「第1回全日本雪上サッカー選手権大会」はjJ2の開幕戦と同じ3月2日、オープン参加の地元高校生も含めて15チーム、約150人の選手で争われました。試合は7分ハーフ、GKを含め同時に6人でプレーする特別ルールでしたが、それ以外はJFA「フットサル競技規則」に沿って行われました。参加チームは全て道北からだったようですが、一番遠い旭川の「辻本会」が優勝しました。音威子府のチームでは「ネップFC」の4位が最高でしたが、美術工芸高校のブログには大会でにぎわう様子がアップされています。
asahi.com 北海道記事 2014年3月4日
「雪上の大会、参加者熱く」
http://www.asahi.com/area/hokkaido/articles/MTW20140304010200003.html
北海道おといねっぷ美術工芸高等学校blog
「2014.3.2 第1回全日本雪上サッカー音威子府大会」
http://otokoh.blogzine.jp/blog/2014/03/201432_935c.html
冬のスポーツで盛り上がる町は、北海道には他にもいくつかあります。同じ上川地域にはスキージャンプの「レジェンド」葛西紀明が出た下川町や、高梨沙羅や原田雅彦がいる上川町。そしてオホーツク沿岸に行けば、ソチ五輪にも女子チームの小野寺歩・船山弓枝など4人を送った「カーリングの町」、常呂(ところ)があります。
このレベルにまで雪上サッカーが国際的に広がるかは、それこそ雲をつかむ様な話です。ただ、北見市の一部となる前に常呂町役場がカーリング普及を始めたのは1980年代、カーリングの五輪復帰が決まるかなり前でした。アイディアは豊富なこの「北海道で一番小さい村」も、「第2の常呂」になれる可能性は秘めているでしょう。
大竹氏が電話で「成功したら検討します」と言っていた次回大会ですが、翌日に投稿された村のFacebook記事では「来年も開催します、既に決定してます」とはっきり書かれています。
札幌から乗り換え無しのJR特急が1日2本、3時間少しで着くのはさすがに鉄道の村。旭川や稚内からだと約1時間50分で行けます。
「雪上サッカー発祥の地」音威子府で行われる第2回大会に、札幌や本州からも含め、もっと多くのチームが参加する事を、私も期待しています。
音威子府村Facebookページ 2014年3月3日付
https://www.facebook.com/otoineppu/posts/601811413239311
今回も長文にお付き合いいただいて、ありがとうございました。
次回は、延々と伸びている新国立問題……の前に。
「細かいミスを見つけたら突っ込むのがサッカー」という事で、UCLのお話にします。
筆者名:駒場野/中西 正紀
プロフィール: サッカーデータベースサイト「RSSSF」の日本人メンバー。Jリーグ発足時・パソコン通信時代からのサッカーファン。FIFA.comでは日本国内開催のW杯予選で試合速報を担当中。他に歴史・鉄道・政治などで執筆を続け、「ピッチの外側」にも視野を広げる。思う事は「資料室でもサッカーは楽しめる」。
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