幾多のスーパースターを見てきた希代の名将にも「スペシャルワン」と認めさせた。アフリカ史上最高のストライカーは、選手としてだけでなく人としても偉大なパーフェクトレジェンドだ。

先週、チェルシー所属の元コートジボワール代表FWディディエ・ドログバ(36)に新たな栄誉が授与された。

1月25日にロンドンのサボイ・ホテルで開かれたフットボール記者協会の年次総会。現役選手ながらメディア向けのこの場に招待されたドログバは、これまでの傑出した功績を称える意味で同協会から大々的に表彰された。

式典後、複数の関係者が彼のキャリアを振り返るコメントを出したが、ジョゼ・モウリーニョは愛弟子の人間性にスポットを当てた話を披露し、これがファンの心を強く打った。チェルシーサポーターのみならず全てのフットボールファンに紹介したい感激エピソードの全文を、改めて振り返る。

【モウリーニョのドログバ評】

和訳:藤永 雅彦(チェルシーサポーターズクラブ・オブ・ジャパン会長)

※筆者小松の編集・校正により多少意訳になっている部分があります。

「ディディエ(ドログバ)は2400万ポンド(約42億8000万円)でスタンフォード・ブリッジにやって来たが、この契約はチェルシー史上最も価値のあるものだったと言えるだろう。今でも移籍が決まるまでの状況を鮮明に覚えている。

私は2004年夏にチェルシーの監督に就任した。その際アブラモビッチ氏に計画書を提出し、ディディエを含む何人かの獲得して欲しい選手を挙げさせてもらった。

当時のチェルシーと言えば、ビッグネームが次々と入団していた頃だ。

例えばその前の夏にはクロード・マケレレをレアル・マドリードから、エルナン・クレスポをインテルから連れてきた。それらの大物に比べればディディエはまだあまり知られていない方で、そういう意味ではかなり高額な移籍金だったかもしれない。

しかしながら私はこのとき既に、彼こそ自分の必要としている選手であることをはっきりと理解していた。だからこそフロントにその高額な移籍金を支払うよう強く説得したわけだが、長年にわたる彼の業績を振り返るとチェルシーにとって最も価値のある契約だったことは明白だし、クラブに対する貢献は今も終わっていない。

私とディディエの関係は、ポルトの監督を務めていた2003-04シーズンにチャンピオンズリーグのグループステージでマルセイユと同組になったことを機に始まった。

当時のマルセイユのエースストライカーはディディエだ。対戦する前に様子を視察すべくマルセイユまで行ってパリ・サンジェルマン戦を観戦したのだが、彼が持つ大いなる可能性に大変驚かされた。

ポルト対マルセイユ戦の当日、キックオフ前にピッチまでの入場通路で会った。私から話しかけたことをよく覚えている。

『残念ながらポルトには君を連れて来られるほどの予算がない。だからコートジボワールで埋もれている君と同じぐらいフットボールが上手な従兄弟でも紹介してくれないか?』

巨漢のディディエが初めて私の肩に腕を回したのはその時だ。彼の返答は強く心に残るものだった。

『確かにポルトの予算では僕と契約できないかもしれません。でも、こうして話しかけてくれたあなたがもしそれだけのお金を持っているビッグクラブに移ったら、そのときは一緒について行きますよ』

そのシーズン私はポルトでチャンピオンズリーグを制し、次なる舞台としてチェルシーを選んだ。そして直ちにディディエを獲得する交渉を始めたんだ。そのくらい色濃く印象に残っていた。

チェルシーでのディディエとの思い出を振り返ると、彼の人間性を象徴する出来事が三つ浮かんでくる。選手としてスペシャルなのは言うまでもないが、人としても非常に素晴らしい人物なのだ。

一つ目は、彼がチェルシーの契約書にサインするためにファーンボロー空港に到着して会った時のこと。なんと、いきなり私に抱きつき何度もお礼を言ってきた。

新しいクラブに着いたばかりの選手が監督にいきなりそのようなことをするなんて常識的には考えられない。だが、ディディエは実際にそうした。おそらく、チェルシーと契約したあの瞬間に彼の人生が大きく好転することを理解していていたのだろう。

二つ目は、2006-07シーズンのFAカップ優勝時の出来事。我々チェルシーはウェンブリー・スタジアムでマンチェスター・ユナイテッドと戦い、延長戦の末に1-0で勝った。決勝ゴールを決めたのはディディエだ。

試合が終わり、喜び称えあっている選手たちをグラウンドに残して、私はロッカールームに向かった。電話で家内と話をしていると、突然大きな影がすごい勢いで飛び込んで来た。ディディエだ。そして叫ぶように言った。

『お願いです。一緒に来て下さい! 選手たちだけでFAカップを受け取るわけにはいきません!!』

私は、優勝カップを掲げる栄光の瞬間は激戦を戦い抜いた選手たちだけで楽しんで欲しいと考えていた。だから行かなくても良いと伝えたのだが、さらに必死になって言ってきた。

『このチームは皆でひとつなんです! だから自分の意思で来てもらうか、それとも僕が無理矢理にでも連れて行くか、そのどちらかしかありません!』

あの言葉に、私は心を大きく動かされた。

そして三つ目は2007年に私がチェルシーを去った時のこと。ディディエは泣いていた。それも号泣だ。あの大男が私の退団を理由に赤ん坊のように泣きじゃくる姿を見て、居ても立ってもいられない気持ちになった。

このように、ディディエは常人離れした素晴らしい人格の持ち主なんだ。彼の母国を訪問した際には、 コートジボワール国民にとってだけではなく、西アフリカ全ての人たちにとって偉大な英雄であることを目の当たりにした。

私は、選手としても一人の人間としても、ディディエがどれほど素晴らしい存在であるかを理解しているつもりだ。だからこそ、ここで改めて証言する。

私はこれまで、キャリアの中でどの選手が一番のお気に入りか言及することを避けてきた。なぜなら、心血を注ぎ全身全霊を捧げて共に戦ってきた仲間が本当にたくさんいるからだ。

だが、もしここでフットボール選手として、そして人間として、求められる全ての要素を持ち合わせた人物を一人だけ選ばなければならないとすれば、私は迷わず断言する。

改めて言おう。

ディディエ・ドログバは、チェルシー史上最も価値のある選手だ」


著者名:小松 輝仁

プロフィール:長野県在住のサラリーマン。中学時代にチェルシーに魅せられ、サッカーの「観る楽しさ」に気付く。その魅力を広く伝えるため一度はサッカーメディアに拾ってもらうも、途中で無謀な夢を抱いて退社。現在はその夢を叶えるために修行中。

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