プレッシャーを与えすぎず、攻撃を誘導する「緩」。スローカーブの意味。

そして、興味深かったのが迎撃に出てしまうと「枚数が足りなくなりかねない」場面だ。

具体的にはマティッチや、相手のサイドバックが組み立ての中でボールを持った場合。この場面で無理やりにボールを奪いに出て行ってしまうと、アザール、ウィリアン、セスクという3アタッカーが中央に雪崩れ込んだ際に、守備の枚数が足りなくなってしまう。実際プレミアではそういった場面が散見される。激しいプレーが美徳とされるプレミアでは、中盤がより積極的にボールホルダーへプレッシャーをかける傾向があり、数的不利が作り出されてしまうのだ。

では、PSGの中盤、具体的にはマルコ・ヴェッラーティは、どのようにこれに対応したのだろう。

これが、タイトルとして採用した「緩急」における「緩」となった仕掛けである。小気味良い速球にスローカーブを混ぜるように、ヴェッラーティはチェルシーの攻撃をコントロールしてしまった。

まずは、マティッチがボールを持った場面だ。ここでヴェッラーティはセスクの時のようにある程度厳しめに距離を詰めるのではなく、背後に走り込むプレイヤーへのパスコースを消すようにポジションを取る。

近距離でプレッシャーを浴びている訳ではないので、そこまでマティッチのミスを誘発出来るような場面ではないが、潰されているコースに対してパスを出すことは難しい。

ここまでウィリアンが近い位置に来ていても、彼よりも下がって守備をしようとしないのは、出し手へのプレッシャーを与える効果を狙っているものだ。

このような位置取りをすることで出し手の選手にミスからのカウンターを意識させ、全体が攻撃に向けて押し上げてくるような場面を牽制している。出し手のボールに対して厳しいプレッシャーをかけるというよりも、1つのコースだけにプレッシャーをかけている形である。

この場面もそうだ。ウィリアンへのパスコースを切ることによって攻撃を牽制。こうなると、チェルシーはマテュイディとダビド・ルイス、というフィジカル自慢の2人の方向へ展開することが多くなる。どうしても、出し手であるマティッチは左への展開を選ぶことが難しい。

【次ページ】チェルシーの対応。受ける前のフェイクと、クッションプレー。