現役時代、数々のドラマを経験し人々に感動をもたらしてきたデイヴィッド・ベッカム。

2002年6月、北海道は札幌での出来事も彼のキャリアを彩る貴重なワンピースだ。

時は日韓共催のワールドカップ。

ベッカムは直前に行われたUEFAチャンピオンズリーグのデポルティーボ・ラ・コルーニャ戦でアルド・ドゥシェルからタックルを受け、左足の第二中足骨を骨折し本大会に間に合うかどうか微妙な状況だった。

しかし、ベッカムは酸素カプセルといった最先端の医療技術を用い、苦しいリハビリにも耐え無事本大会に間に合わせる。イングランド代表は“死のグループ”と呼ばれたグループFに振り分けられるも、初戦のナイジェリア戦に勝利。そして7日、大一番のアルゼンチン戦を迎えていた。

札幌ドームで行われた試合は0-0で前半が終了しようとしていた。

すると43分、ペナルティエリア内でマイケル・オーウェンがファールを受けイングランドがPKを獲得。キッカーに名乗り出たのは、もちろんベッカムだった。

ピエルルイジ・コッリーナ主審がホイッスルを鳴らした瞬間、ベッカムは一目散にボールのもとへと向かった。

それもそのはず。

ベッカムにとってアルゼンチン代表というチームは、4年前のフランス大会で苦汁をなめた相手である。

善戦していた試合でベッカムはディエゴ・シメオネに蹴りを入れてしまい、退場処分となったのだ。試合は結局イングランドが敗れ、英国メディアから「10人のライオンと1人の愚かな若者」というバッシングを受け、国内外から大きな批判を浴びたのだ。

そういった悔しさを挽回するチャンスが、4年越しにやってきた。

ペナルティスポットにボールを置いたベッカムはただただ集中し、主審の笛を待っていた。そしてホイッスルがスタジアムにが鳴り響くと、ボールを蹴り込みチームメイトともに雄たけびをあげた。

誤解を恐れずに言えば、ベッカムのキックはややコースが甘かった。しかし、そのキックには力強さのようなものがあり、迷いのようなものは一切感じられなかった。「魂のキック」とはおそらくこういうことを言うのだろう。

結局試合はこのゴールが決勝点となり、イングランドが1-0で勝利。ベッカムは4年の歳月を経てアルゼンチンに“リベンジ”を果たし、その波瀾万丈なキャリアに新たな一ページを刻んだ。6月7日という日は、ベッカムにとってキャリアの転期でもあるのだ。

なお余談だが、この時ペナルティエリア内でオーウェンを倒したアルゼンチンの選手は、現在トッテナムの監督を務めるマウリシオ・ポチェッティーノである。

この試合にも出場していたリオ・ファーディナンドは先日現役引退を発表し当時22歳だったパブロ・アイマールは現在35歳となりリーベル・プレートへの復帰を果たした

あれから13年・・・。こうしてみると、やはり時の流れを感じてしまう。

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