崩れてしまったロッカールームのバランス

ジョゼ・モウリーニョは、クラブの全員と積極的に対話するタイプというよりも、そういった役割をチームの中心選手に任せるタイプと言われている。

例えば優勝したシーズンは、ジョン・テリー、ジョン・オビ・ミケル、ディディエ・ドログバ、ペトル・チェフというメンバーが、ジョゼ・モウリーニョと積極的に会話し、彼らがチームのバランスを保っていたようだ。

実際ジョゼ・モウリーニョは、テリー後のキャプテン候補としてミケルの名を挙げた事があるし、自分が指揮した前回からチームに残るテリー、チェフ、ミケル、ドログバへの愛情を感じさせるコメントも少なくない。彼らを「王者」と呼び、成功を知る者としてチームの柱とする。それがチェルシーの強さを支えていた。

しかし、チェフとドログバが一気に抜ける事となると、チームの意思伝達機能が狂ってくる。テリーとミケルだけでは、どうしても他のメンバーにジョゼ・モウリーニョの意思を伝え切れない。

不調の状況では、彼らも自分のプレーへと集中しなければならなくなる。本来ならばこういった役割を任せたい、もしくは任された事もあったであろうイバノビッチも、「チェフは、一緒にプレーした中で最高のGKだった。」と述べるなど、友人の移籍に苛立ちを見せていた。開幕からパフォーマンスも不安定で、精神的支柱にはなれなかったのだろう。

機能不全になると、精神的に脆い若手や新加入選手には疑念が生まれやすくなる。ジョゼ・モウリーニョ監督はベテランだけを愛し、自分達を冷遇しているのではないかという疑念だ。実際はそんな事が無かったとしても、それをフォローして宥められる余裕がある選手はいない。

気付けばチームは絶不調の中で、頼るべきものを失っていた。

ジョゼ・モウリーニョは人心掌握能力を失ったというより、彼を理解し、察した上でチームを纏め上げる仲間達を失っていたのだ。また、自らが過去に作り上げたチームの中心選手を、信頼し過ぎてしまったのかもしれない。

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