田中順也の帰国に寄せて
ジョルジュ・ジェズスを迎えたスポルティングは、タイトルの獲得に向けてチームを大きく変化させることを選択した。
その流れの中でいくらかの選手が割を食うことになり、田中順也もその一人だ。もちろん、実力でその状況から這い上がることが出来なかったことは事実だが、スタートから彼はかなり厳しい立場に追い込まれていたといえる。
ただ、このような事はサッカーでは起こり得るものでもある。柏へのレンタル移籍は1年半という長期であり、買い取りオプションも付随しているとのことだが、スポルティングとの契約は2019年まで残っている。
ウイングとして活躍出来ず怪我にも苦しみ、エストゥディアンテスに貸し出されていたエンソ・ペレスは、復帰後にボランチへと場を移して大きな成長を遂げた。かつてのエンソはこのような動画でまとめられるような選手だった。
慣れ親しんだ古巣柏レイソルでの活躍を続けるか、あるいはスポルティングに戻って第2のエンソ・ペレスを目指すのか。どちらにしても、田中順也にとってこの移籍は決して後退ではない。アピールする機会さえない場所に留まるよりは柏レイソルで継続的にプレーした方が代表にも近くなるだろうし、森岡や太田のように海外を目指せる可能性もある。
「実力が足りない」――そう言うのは簡単だ。善し悪しを見分けるには分析が必要だが、売れ行きならば一瞬で判断できるように。
メッシやクリスティアーノ・ロナウドの実力や才能があれば、どのようなクラブであろうとも起用され、そして活躍するだろう。
しかし、人間は誰もがスターになれるわけではない。できることとできないことを整理した上で、周りの環境に恵まれてチャンスを与えられなければ、大半はその世界で生きていけない。それはサラリーマンでも同じである。違うのは、それでも給料がもらえるかどうかだけだ。
スポルティング・リスボンで過ごした1年半の経験は誰もが持っているようなものではない。一回り大きくなった田中順也を2016年のJリーグで見ることが出来るのかどうか、それを期待してこの項を終わりとしたい。