Qolyアンバサダーのコラムニスト、中坊によるレポートをお届けします。

先日、メンバー発表があった2024年パリ五輪サッカー日本代表メンバー18名。日本は候補選手の中で所属先の海外クラブとの交渉に苦戦し、主力選手の招集断念およびオーバーエイジについても招集ゼロとなったことで大きな話題を呼びました。

主力選手を招集できなかったことに、JFAの交渉力を批判する声もありますが、この五輪メンバー招集苦戦は日本サッカーが進化していることに他ならない、ポジティブな発展で、それに伴う一つの問題に過ぎないと言えます。その内容について、解説します。

年代別代表の主力、松木玖生と鈴木彩艶の落選

今回、五輪代表メンバーから落選となった松木玖生と鈴木彩艶については大きな衝撃をもって報道されました。落選理由について大岩監督からは明言は避けたものの、山本昌邦NDが補足として松木の海外移籍の可能性に言及したことで

「松木(+鈴木)はこの夏海外移籍する見込みであること。また、その移籍先の海外クラブが五輪へ派遣することを拒否する可能性が高いため、五輪登録メンバーに選出しても所属クラブが認めず代表に帯同できない事態に鑑み、落選となった」

という解釈がなされました(同時に、選手の機微な情報を漏らした山本NDに対する人間力も問われました)。

当初は「1クラブ2選手まで」という縛りのせいで落選かとも言われましたが、FC東京側がJFAからの事前打診を受けて「3選手(野澤、荒木、松木)の選出について了承」という意向を示していたことも明らかになったため、海外移籍による落選という理由が確実となりました。

他にもヨーロッパで活躍中の鈴木唯人や久保建英、内野貴史…等々20名以上のヨーロッパクラブ所属選手が落選しています。

また、オーバーエイジについても遠藤航選手らが候補になっていたものの所属先のリヴァプールから招集拒否をされ、結果としてオーバーエイジなしで挑むこととなりました。

五輪に対する概念、世界の強豪国と日本の違い

「金メダルを目指すと言いながらベストメンバーを組めないのか」という批判・失望の声がファンから挙がっていましたが、個人的にはこれは日本代表が強豪国に近づいた証とポジティブに捉えています。

そもそも、世界各国で五輪代表にフルメンバーを招集できる強豪国はまずありません。フランスは開催国であるのに、レアルマドリードとの交渉の末、エムバペの招集は断念しました。既にA代表招集されている23歳以下の選手は過密日程の兼ね合いからもA代表を優先、そしてそのレベルの選手は欧州ビッグクラブに所属しているケースが多く、クラブ側も容易には五輪へ送り出しません。

また、五輪自体に対する注目度も優先順位も低く、五輪という大会に是が非でも主力を送り込まなければと意気込む強豪国のファンはそう多くありません。W杯と五輪では比較にならないほど重要度が違います。

この五輪に対する概念が、なぜ世界の強豪国と日本では違うのか。生じていた理由は大きく2つ。

(1)日本の23歳選手でヨーロッパのクラブに所属が今まで少なかったこと

(2)日本人は五輪に対する注目度が高く重要視するファンも多かったこと

(1)に関しては過去の五輪大会における招集メンバーの所属先を見れば明らかで、ほぼ大半が国内Jリーグクラブ所属。Jリーグ側はJFAと協力関係にあるため招集については基本的に全て応じる形でした。なので23歳以下選手のベストメンバーを編成できる状況で、JFA側もそれが当然と認識。しかし今やヨーロッパに所属する選手が一気に増え、また、ヨーロッパのクラブに対して五輪招集の強制権もJFAは擁しておらず、クラブが協力する姿勢も国内Jリーグクラブに比べれば雲泥の差。このヨーロッパ所属選手の比率が一気に高まったことが招集困難の大きな理由です。

(2)については、これはサッカーに限らず五輪全体に対する国民感情の違いであり、データで見ると以下の通りです。

・五輪開催2年前の調査

日本:東京五輪に「関心あり78%、関心なし22%」
フランス:パリ五輪に「期待している37%、期待していない57%」
さらに、今回のパリ五輪について各国にToluna社がアンケートをとった結果で、
パリ五輪を視聴する意向の人:フランス64%、日本69%

つまり、日本人は五輪好きであり重要視している一方、ヨーロッパ(フランス)においてはそこまで五輪の重要度は高くなく冷めているという結果が出ています。それはそのまま五輪サッカーに対する国民熱意に直結します。

今後、五輪全体はともかく、ことサッカーに限れば日本も国民感情・熱意は変化していくのではないかと推測します。つまり、五輪のサッカーは「フルメンバーを全力で招集しなければならない大会」ではなく、「難交渉の末、招集できたメンバーの中でベストを尽くす大会」に概念が変わっていくのではないでしょうか。

過去の五輪日本代表では2016年リオ五輪において、久保裕也が当時所属していたスイス・ヤングボーイズがUEFACL予備予選に挑む重要な時期だったため久保の招集を拒否、リオ五輪への出場断念になった事例が驚きをもって伝えられました(結果、久保はシャフタール・ドネツク相手に2得点を挙げ、CL予備予選で大活躍)。

ただ、今回のように何十人ものヨーロッパ所属選手が落選したことはないため、今大会を機に大きく潮目が変わったものと考えます。つまり、ファン側も「ヨーロッパ所属選手を五輪に呼ぶのは相当難しいんだな」と共通認識に至るようになるのでは、と。

また、国民感情で言えば日本代表が今まで何十年も五輪に出場できなかったことも大きな要因でした。1996年アトランタで28年ぶりに五輪出場の切符を掴むことになり、大きな熱狂を産みましたが、今やそれ以後8大会連続で出場する五輪常連国となっています。「出ることが叶わない夢の舞台をもぎ取った」から「アジアの予選を突破して当然、五輪に出て当然」へ変わっていった、これも大きな変化です。

日本サッカーファンも1990年代、2000年代に比べれば相当目が肥えてきて、五輪代表に全力を注ぐ形よりはクラブでの立場を配慮する目線も増え、各強豪国のメンバー編成を見た上で「五輪はそういう位置づけの大会なんだ」と認識し始める人が増えてくるのではないでしょうか。

代表招集の難しさは、日本が強豪国に近づいた証

個人的には既に「難交渉の末、招集できたメンバーの中でベストを尽くす大会」という位置づけで五輪を見ているので、今回の主力選手落選については理解も納得もしています。そして元々自分はオーバーエイジ不要派であり、5月の報道では遠藤航が招集濃厚と言われてたものの、クラブに拒否されて良かったと思っています。五輪でメダル獲得も重要ですが、リヴァプールでの新シーズンポジション争いの方を優先すべきだと思います。開幕前に疲労や怪我のリスクもあるし、欧州メガクラブ所属からわざわざ呼ぶべきではありません。

それはそれとして、五輪自体はどこまで日本が結果を出せるかを楽しみにしています。何人か欠けてはいるものの、このメンバーが世界相手にどれだけ通用するのかは日本サッカーの指標としても、また、単純にエンターテイメントとしても楽しみなのは間違いありません。

さらに、五輪サッカー競技自体のレベル低下について冷めた目で見ているかというとそうでもありません。一部強豪国を除けば、「世界のスカウトの目に止まる絶好の舞台、自らの力を存分に見せつける」「国のためメダル獲得を本気で獲りに行く」と意気込む各国の選手達は大勢います。

1996年アトランタで優勝したナイジェリア、2000年シドニーで優勝したカメルーン。当時のメンバーが、あの優勝をどんなに誇らしく思っているか、一国だけでなくアフリカ全体での大きな偉業として認識しているのは数十年経過した後のインタビューでもよくわかります。また、2004年アテネで準優勝のパラグアイは同国史上初のメダルがこのサッカーにおける銀メダルであり、2024年現在も夏季五輪で獲得した同国唯一のメダルとなっており、国としてとてつもなく重要な功績となっています(日本はGLで対戦し3-4で敗れている)。

メンバー編成においても、今回のパリ五輪でアルゼンチンはマンチェスター・シティのフリアン・アルバレスを招集していますし、2012年ロンドン五輪でウルグアイはカバーニとスアレスの超強力オーバーエイジ2トップで挑んでいます。

このように全力で優勝を狙って挑む国は当然いるため、五輪サッカーのレベル低下や存在意義をそこまで冷めた目でみることはありません。

繰り返しますが、この招集困難ぶりを見て日本サッカーはまた一つ進化したのだと感慨深く思いました。

海外クラブから「この選手はうちにとって重要な戦力orステップアップの移籍交渉中だから五輪には行かせない」と招集拒否され続けるのは日本サッカーの成長そのものであり、それだけ各選手がクラブから戦力面で重要視されていて、誇らしいことです。

ライター:中坊
1993年からサッカーのスタジアム観戦を積み重ね、2023年終了時点で962試合観戦。特定のクラブのサポーターではなく、関東圏内中心でのべつまくなしに見たい試合へ足を運んで観戦するスタイル。日本国外の南米・ヨーロッパ・アジアへの現地観戦も行っている。
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