Qolyアンバサダーのコラムニスト、中坊コラムの中坊氏によるコラムをお届けします。
連帯貢献金制度についての解説(前編)
ここ数年、日本人選手のヨーロッパサッカー界への凄まじい進出、そして見事な活躍ぶり、それに伴っての高額移籍金発生が起きている。
この一連の流れの中で、日本のサッカーファンおよびJリーグクラブのサポーター達から注目度が集まるポイントは「連帯貢献金、いくら入るの?」だろう。
連帯貢献金は、海外で選手が移籍した際、その移籍金の一部が12歳から23歳まで在籍していたクラブに振り込まれるというもの。
20代中盤で高額の移籍金でヨーロッパ間移籍をした日本人選手がいた場合、かつて在籍していたJリーグクラブや大学・高校・町クラブに数千万円が連帯貢献金として請求権が発生するのだ。
毎年必ず起きる一方で、サッカーファンの間であまり熟知されていない、なんならサッカー界を生業とするライターや選手関係者ですら誤解をしている状況なので、多数の具体的事例も挙げながら、圧倒的な情報量で完全版としてまとめていきたい。「これさえ読めばすぐ理解」、という内容にした。
目次としては以下の通り。パッと見てわかるように、結論も一緒に書いている。
より詳しく知りたい方はこの後も引き続きお読みいただければと思う。
1.連帯貢献金と育成補償金は違う
育成補償金は一度だけ発生するもので、金額も固定。連帯貢献金は何度でも発生するし金額は青天井
2.海外移籍後は同国内移籍でも連帯貢献金は発生
例えばJリーグクラブからブンデスリーガ移籍後、さらに同国内(ドイツ国内)で移籍した場合も連帯貢献金は発生する
3.どのようにしてクラブや学校法人に振り込まれるのか
かつては請求できなかった事例もあったが、今はJFAが一括手続き。しかし今後は懸念あり
4.あとがき
サッカー関係者からの誤ったツッコミ事例
今回の前編では1と2について記載し、3と4については後編で記載する。
早速、解説していこう。
1.連帯貢献金と育成補償金は違う
似たような名前なのでややこしいのだが、「連帯貢献金」と「育成補償金」は似て非なるものである。
先に育成補償金(トレーニングコンペンセーション)について説明したい。
これは、大学もしくは高校を卒業した選手が直接海外移籍した場合、「移籍先のリーグレベルによって決められた金額を各ユース、学校法人に払うべし」というFIFAの規程である。
12歳から21歳まで選手を育てた育成組織に対して、移籍先クラブが補償金を払うというもの。
★具体例
2025年の夏に筑波大学からJクラブを経由せず、デンマークのブレンビーへ入団した内野航太郎選手は以下の計算式となる。

12歳 SCHFC 10,000ユーロ
13歳 横浜F・マリノスJrユース 10,000ユーロ
14歳 横浜F・マリノスJrユース 10,000ユーロ
15歳 横浜F・マリノスJrユース 10,000ユーロ
16歳 横浜F・マリノスユース 60,000ユーロ
17歳 横浜F・マリノスユース 60,000ユーロ
18歳 横浜F・マリノスユース 60,000ユーロ
19歳 筑波大学 60,000ユーロ
20歳 筑波大学 60,000ユーロ
21歳 筑波大学 60,000ユーロ
この計算式のため、マリノスには21万ユーロ(約3,800万円)、筑波大学には18万ユーロ(約3,200万円)が入る。
次に「この1万ユーロや6万ユーロといった金額はどこからきたのか?」という疑問について答えたい。
これはFIFAによって決められた金額だ。
カテゴリーⅠ:90,000 5大リーグ、ベルギー、オランダ
カテゴリーⅡ:60,000 オーストリア、デンマーク、ギリシャ、ハンガリー、ポルトガル、スコットランド、スウェーデン、スイス、トルコ
カテゴリーⅢ:30,000 セルビア、クロアチア、ラトビア、ポーランド
カテゴリーⅣ:10,000 その他
内野航太郎はデンマークのクラブに加入したので、カテゴリーⅡ、なので6万ユーロとなる。
そして15歳以下は全てカテゴリーⅣ扱いとなるため、1万ユーロとなる。(なお、2部の場合は一段階下がる。例えばイングランド・チャンピオンシップのクラブに移籍した場合はカテゴリーⅡとなる)
つまり、加入先がメジャーな5大リーグなら多くのお金が入り、マイナーな国のクラブへの加入だと金額はだいぶ下がる、という仕組みだ。(実際、2023年に興國高校からポーランドのグールニク・ザブジェへ加入した宮原勇太の例もあるがこの時は興国高校に9万ユーロ:約1,400万円の分配となる)
育てたクラブユースや学校法人に対して対価が支払われる仕組みで、これは海外移籍した「一回きり」発生するもの。
最近はJリーグクラブを経由せず、学校を卒業した後に直接ヨーロッパのクラブへ入団する選手も多いので、この育成補償金発生のケースも多い。
ただ、金額はFIFAの規程通りとなっているので大きくは変動しない。
一方、連帯貢献金は育成補償金とは異なる。
まず「移籍の都度、発生する制度」だ。一回ではない、何度も発生する。
選手が移籍した際、その選手が育成期間である12歳から23歳まで在籍していた組織に対して、移籍金額の総額5%が按分されて請求権が発生する。
★具体例
2025年の夏にフランスのリーグ・アン:レンヌからイングランドのチャンピオンシップ:バーミンガムへ1,000万ポンドで移籍した古橋亨梧選手は以下の計算式となる。

12歳 桜ヶ丘フットボールクラブ 0.25% 25,000ポンド
13歳 アスペガス生駒FC 0.25% 25,000ポンド
14歳 アスペガス生駒FC 0.25% 25,000ポンド
15歳 アスペガス生駒FC 0.25% 25,000ポンド
16歳 興國高校 0.5% 50,000ポンド
17歳 興國高校 0.5% 50,000ポンド
18歳 興國高校 0.5% 50,000ポンド
19歳 中央大学 0.5% 50,000ポンド
20歳 中央大学 0.5% 50,000ポンド
21歳 中央大学 0.5% 50,000ポンド
22歳 中央大学 0.5% 50,000ポンド
23歳 FC岐阜 0.5% 50,000ポンド
当時1ポンド198円だったため、以下の請求権が発生する。
桜ヶ丘フットボールクラブ:495万円
アスペガス生駒FC:1,485万円
興國高校:2,970万円
中央大学:3,960万円
FC岐阜:990万円
トータル約1億円が日本のクラブおよび学校法人に入る仕組みだ。
しかもこの連帯貢献金、前述の通り育成補償金と違って、移籍のたびに発生する。
つまり、以下の通り古橋の場合は高額の移籍金が発生する移籍を今まで3度も行っているので、その度に日本のクラブおよび学校法人に連帯貢献金が発生する形だ。
ヴィッセル神戸→スコットランド:セルティック(移籍金7億円)
セルティック→フランス:レンヌ(移籍金19.5億円)
レンヌ→イングランド:バーミンガム(移籍金20億円)
金額はいずれも推定ではあるが、しっかり請求した場合、トータルで以下の金額を手にすることとなる。
アスペガス生駒FC:約3,500万円
興國高校:約7,000万円
中央大学:約9,000万円
FC岐阜:約2,300万円
古橋亨梧さん、メチャクチャ孝行息子と化している。
一個人の寄付金額とは桁が違う金額が振り込まれる。銅像が建ったり、校内に肖像画が飾られたり、学校紹介のパンフレットに写真が差し込まれるレベルだ。
自分が学校関係者であったなら名誉卒業生として表彰したいし厚く御礼したい。大学の校舎名がネーミングライツよろしく古橋にちなんだ名称に変わったりするかもしれない。それほどまでに育成した組織の恩恵は大きい。
こういった経緯から、ヨーロッパの移籍シーズンにおける夏・冬においては「うちのクラブに連帯貢献金いくら入る?」とサッカーファンの間で話題になるのだ。
特に、予算の厳しいJ2やJ3のクラブからすれば大変ありがたいボーナスである。
