Qolyアンバサダーのコラムニスト、中坊コラムの中坊氏によるコラムをお届けします。

3.どのようにしてクラブや学校法人に振り込まれるのか

前編では「育成補償金との違い」、「海外移籍後は同国内移籍でも連帯貢献金は発生する」点について解説した。続けて後編でも解説していく。

前編を読んだ方々は、以下の感想を持つだろう。

「連帯貢献金制度って最高では!?」

「でも、街クラブや高校がちゃんとヨーロッパのクラブへ請求手続きできるのか?」

「自動的に振り込まれるわけではないし、取りはぐれるのでは?」

「実際に高校へ振り込まれたニュースってあるの?」

この取りはぐった事例については過去、相当数が発生したと思われる。

★具体例

連帯貢献金ではないが、前述の育成補償金、これについては2011年1月に中京大中京高校からイングランド・アーセナルに加入した宮市亮の事例で「中京大中京高校はアーセナルに育成補償金を請求しなかった」という報道があった。同様に、内田篤人についても清水東高校は連帯貢献金を受け取っていない報道もある。

画像: 宮市亮 (C)Getty Images

宮市亮

(C)Getty Images

サッカー界移籍ビジネスのノウハウが全くない学校法人側からすれば、単独でアーセナルと手続きするのがいかに難しいかは想像に難くない。

そのため、香川真司がセレッソ大阪からドルトムントへ移籍した際はセレッソ側が手続きを一括で行い、香川が高校生時代に在籍していた街クラブ・FCみやぎバルセロナに対して配分したという事例もあった(FCみやぎはそのお金でクラブ専用グラウンドを造ることができた)。

同様に、長友佑都のセリエA移籍時はFC東京が、本田圭佑のロシア移籍時においては名古屋グランパスが学校側の手助けをしたという報道がなされた。

過去のこのような個別の手間がかかるやりとりから改善され、今はJFAが一括手続きを行い、Jクラブのみならず街クラブや学校法人分も含めて請求、受取、配分を行っている。

このあたり、JFAがトップ組織として見事なロジ調整を行っているため、取りはぐれは起きていないという状況である。

むしろ、学校法人側はただ連帯貢献金を受け取る形なので内容をあまり把握していない。

★具体例

2023年に遠藤航がシュトゥットガルトからリヴァプールへ移籍した際、遠藤の育成期間に該当する横浜市立南戸塚中学校にも連帯貢献金は発生するが、移籍発表当時、その件について中学に問い合わせた人からのタレコミ曰く、学校側は連帯貢献金について全く把握していなかった(対応者は女性の副校長)。

画像: 遠藤航 (C)Getty Images

遠藤航

(C)Getty Images

それでもJFA側が全て一括対応しているので数千万円振り込まれるため、問題なしといったところか。(ただ、中学にそのまま振り込まれるわけではなく、横浜市教育委員会に振り込まれる可能性もある)

事実、地元紙において学校に連帯貢献金が振り込まれた恩恵を伝えるニュースもある。

★具体例

伊東純也の事例だが、彼が高校生時代在籍していた神奈川県立逗子葉山高校(旧・逗葉高校)にて、2022年にベルギーのKRCヘンクからフランスのスタッド・ランスへ移籍した際に発生した連帯貢献金が、逗子葉山高校に振り込まれたことが報じられた。

「関係者が頭を悩ませていたところ、卒業生でサッカー日本代表でも活躍する伊東純也選手から思わぬ形で受け取った。(中略)逗葉高校サッカー部に連帯貢献金が入った。サッカー部が他の部活での使用を快諾し、貢献金の一部をユニフォーム一新に充てた」

高校だけではなく、大学側でも連帯貢献金が振り込まれた報道があり、こちらは神奈川大学のニュースだが、連帯貢献金を活用して神奈川大学サッカー部の食堂が開設され、大学名(神大=じんだい)と伊東純也にちなんで「JJ食堂」と命名されている。

画像: 伊東純也 (C)Getty Images

伊東純也

(C)Getty Images

しかし、今後は懸念がある。

前述の通り、サッカー界移籍ビジネスのノウハウが全くない学校法人側からすれば、単独でヨーロッパのクラブと手続きするのが困難であるため、JFAが一括手続きを行い、Jクラブのみならず街クラブや学校法人分も含めて請求、受取、配分を行っていた。

それが、今後は不可能となる制度変更がなされてしまったのだ。

2024年度から、FIFAと各サッカークラブ・団体が直接やりとりする形に変更。

「協会やビッグクラブ側での代理請求は不可、街クラブや学校法人が直接FIFAと手続きを行わなければならない」、というFIFA決定事項。

しかも「法人化していない団体には振り込みできない」というルールも大きなハードルとなる。

このため、街クラブや学校法人側からすると請求手続きの難易度が格段に増した。

現在、連帯貢献金の業務フローは以下の通りである。

1.選手が移籍金ありで移籍
2.FIFA→移籍先クラブ:連帯貢献金を回収する通告
3.移籍先クラブ→FIFA:FIFAの口座に連帯貢献金を送金(送金しない場合、制裁金が科される)
4.選手を育成したクラブ→FIFA:連帯貢献金を請求
5.FIFA→育成クラブ:請求を受けて、FIFAから各クラブへ分配

このフローにおける「4」の部分をJFAではなく今後は各クラブ・学校法人が直接行う必要がある。

何故このような制度変更になったのか?

これは、今まで獲得したクラブ側が育成したクラブへ直接支払う仕組みだったが、獲得したクラブ側が支払わず、連帯貢献金未払のトラブルが頻発したためである。

もうこれは容易に想像がつく。そもそも選手への給料未払問題が発生しているヨーロッパや南米のクラブは沢山あるし、連帯貢献金の未払なんて日常茶飯事だったのだろう。

そうなると、FIFAが間に入って一括管理し、未払問題を解決するという目的での制度変更はよく理解できるし当然の変更だ。

ただ、日本の街クラブや学校法人がFIFAに請求するのは困難なのも事実。

対応策としてはJFAが各クラブや学校法人へ本件を熟知しているスペシャリストの担当者を派遣する等のサポートをする形ではないだろうか。

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