2002年のドラフト11位で横浜ベイスターズ(現DeNA)に入団した木村昇吾氏。

広島カープ、西武ライオンズを渡り歩いた後、2017年に自由契約を言い渡された彼は、クリケット選手に転向。インドやオーストラリア、スリランカなどに渡ってプレーを続け、クリケットの日本代表チームでも活動している。

なぜ日本人には馴染みの薄いものの、世界第2位の競技人口を誇るクリケットの魅力や、プレーを続ける理由を語ってもらった。

画像: (C)JUN.S

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自由契約を機に、クリケットの道へ

――クリケットは、2028年に行われるロサンゼルス五輪の正式種目に採用されました。

1チーム11人ずつの対戦形式で行われ、バットでボールを打ち、走ることで得点を競い合うゲームで、野球の原型とも言われています。競技の発祥はイギリスで、日本ではあまり知られていませんが世界的にはとてもメジャーで、サッカーに次ぐ競技人口を誇る球技なんですよ。

今年秋に愛知で開催される「第20回アジア競技大会」(9月17日~10月3日)にも男女の日本代表が出場し、五輪出場枠を獲得するための厳しい戦いに挑みます。日本は世界ランキングがあまり高くないので、好成績を残さなければなりませんけど、最後まで全力で戦い抜きたいと思っています。

――木村さんのSNS等をみていると、いつの時期も競技に励んでいるような印象を受けるんですが、シーズンオフはあるんですか?

インドが雨季に突入する6月から8月は試合ができないので、シーズンはオフになりますが、それ以外の時期は大体どこかで試合をやっていますね。

――どこかで……。それはどういうことですか?

はい。インドでは、各地にさまざまなリーグがあって、選手も複数のチームに所属し、たくさんの試合をこなしているんです。さらに付け加えると日本のプロ野球と異なり、リーグの開催期間もさまざまです。

ちなみに、日本・プロ野球の平均年俸が一番高いチームはどこだかわかりますか?

――福岡ソフトバンクホークスさんですか?

正解です。ソフトバンクに在籍している選手の年俸は、平均9,000万円ほどなんですが、クリケット最上位のリーグ、IPL(インディアン・プレミア・リーグ)でプレーする選手は、試合が行われる約1ヶ月半の間に、平均5億4,000万円ほど稼いでいて、これは世界中のスポーツ選手の中でもトップクラスの収入なんです。

――すごい額ですね!ということは、IPLのスター選手は、インドにおける大谷翔平選手のようなポジションなんでしょうか?

画像: (C)Getty Images インドの英雄として知られるヴィラット・コーリ選手

(C)Getty Images インドの英雄として知られるヴィラット・コーリ選手

確かに大谷翔平選手も素晴らしいものがありますけど、もしかしたらそれ以上の存在なのかもしれません。

例えば、インドクリケット界随一のスターでもあるヴィラット・コーリ選手は、「キングコーリ」という愛称で親しまれていて、2018年にはタイム誌の『世界で最も影響力のある100人』に選出されたこともあるような方なんですよ。

Instagramのフォロワー数は、スポーツ界ではクリスティアーノ・ロナウド選手、リオネル・メッシ選手に次ぐ3位。クリケット経験者のウサインボルトさん(陸上短距離)が最も尊敬する人物に挙げている選手で、「King of cricket」(キングオブクリケット)と言われています。

――なぜ、そこまでの影響力があるのでしょう?

世界に目を向けると、今は盛り上がりを見せているサッカーW杯に次いで、多く見られている競技だからだと思います。

クリケットの競技人口も世界第2位の3億人と言われていますし、約3000万人の野球と比較すると、その規模は大きく異なるのかなと。

クリケットと出会い、人生に深みが出てきた

画像: (C)木村昇吾 日本ではクリケットの普及活動も積極的に行なっている。

(C)木村昇吾 日本ではクリケットの普及活動も積極的に行なっている。

――木村昇吾さんは2017年オフにプロ野球選手を引退し、クリケット選手としてのキャリアを歩み始めます。どのようにクリケットと出会われたんですか?

記者をしている同級生に勧められたのが、クリケットを知る最初のきっかけでした。その年のオフに自由契約を言い渡され、次のチャンスに向けて西武の室内練習場で過ごしていると、その同級生から「クリケットって知っている?」と電話をいただいて。

「野球の原型にあたる競技で、競技人口は世界第2位、トップ選手は何十億円も稼いでいる」と、同級生に電話越しで説明を受けると、すっかり乗り気になってしまって。自分がプレーしている姿が思い浮かんだこともあって、その場でクリケット転向を決めました。自分でも不思議な感覚でしたね。

――ご家族の反応はどんな感じでしたか?

「クリケットをやることにしたから…」と伝えると、妻は戸惑った様子でしたけど、「それがちゃんと形になるんだったら、別にいいんじゃない?」と肩を押してくれて。「FA宣言した時の方が、よっぽど一大決心のだったかな」と思いますね。

――先ほど「クリケットは野球の原型」とお話しされていましたけど、木村さんのように、野球からクリケットに転向された選手はこれまでにいらっしゃるんでしょうか?

おそらく僕が初めてではないかと思います。プロ野球とクリケットの双方が盛んな国はオーストラリアくらいしかありませんし、オーストラリアにしても優れた人材はラグビーかクリケットを選ぶ傾向があるので、別の競技をしていた選手がいきなりクリケットの世界に飛び込み、活躍するのは難しいんじゃないかなと思います。運動神経に長けた子供が、まずは野球かサッカーに挑む日本とは、社会の構図が全く異なるんですよ。

――引退したプロ野球選手のセカンドキャリアとして、クリケット選手はオススメできますか?

野球とクリケットはやってみると全くの別物で、素手でボールを取り、野球と違ってバットを縦に振らなければいけない難しさはありますけど、それでも野球で培った、捕る、投げて、走る技術を全て使いますし、長年にわたり野球で培った技術を捨てなくても良いので、オススメできると思います。

――差し支えない範囲でお伺いしたいんですが、プロ野球選手だった頃よりも収入が良かったりするんでしょうか?

収入ですか?ゼロですよ。

――え!そうなんですか?

ゼロですよ!日本にプロのクリケットリーグはありませんからね。そんなに皆さんが思っているほど、プロの世界は甘いものではありません。だから僕は各地を回り、スポンサーになってくれる企業さんを必死に探しているんです。僕の場合は家族もいますし、日本とインドの二拠点生活は本当に大変ですが、それでも色々な人の理解を得ながら、選手をやらせてもらっています。

画像: (C)木村昇吾

(C)木村昇吾

――木村さんのクリケット選手としての今後の目標を聞かせてください。

僕に言わせてもらえば、プロ野球時代の木村昇吾は「まあ、そんなに大したことがないな……」くらいの印象なんですけど。野球選手だった頃と変わらずに、なりたい自分の理想像を追い求めて、全力で頑張り続けるだけです。クリケットに出会ったことで、日本とインドそれぞれが持つ良さを知ることができましたし、刺激的な経験を通して、人生に深みも出せているんじゃないかなと思います。具体的にはIPLでの活躍は絶対成し遂げたいと思っていますが、そこから先もクリケット選手として、さらなる高みを目指していきたいですね。

〈続く〉

取材:JUN.S

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