ベネズエラと日本。明らかとなった戦術眼の差。

現段階の日本代表が実験的な段階で、若い選手達を好んで採用しているということも影響しているのかもしれないが、ウルグアイ戦でも見られた「戦術眼の差」はベネズエラ戦でも露呈した。

森重がDFラインに入り、組み立てが上手くいかない際には両センターハーフを組み立てに動員した日本代表に対して、ベネズエラは柴崎と細貝の両センターハーフへのプレッシャーを強化。彼等が後ろを向いてボールを受けようとすると、一気に襲い掛かるようにプレッシングをかけることでショートカウンターを狙った。

印象的なのは動画1分50秒からのプレーだろうか。DFラインに入った細貝の死角からベネズエラの選手が激しくプレッシャー。ミスを誘って、一気にカウンターを仕掛けている。そういった意味では日本、ベネズエラの両者が中盤の高い位置からプレッシャーをかけることでショートカウンターを狙う展開となったのである。

実際、世界レベルのフットボールでは中盤が主戦場になることは非常に多く、昨年のCL決勝となったレアル・マドリード対アトレティコ・マドリードなどは良い例と言えるだろう。そこまでは決して珍しいことではないが、問題はここからだ。プレスを強化した日本代表を見て、ベネズエラがどのように対処したか、という部分である。

ベネズエラは図のように、中盤のボランチに中央でボールを受けさせるというよりも、サイドを起点にして中盤全体の攻撃意識を強めようとした。サイドハーフが時には引いてサポートすることで、必ず5枚か6枚で組み立てることによって日本代表のプレスに備えながら、前線に多くの人間を送り込もうとしたのである。

動画1分25秒からの場面などが解りやすいが、日本代表は明らかに前からのプレスを誘発されている。結果的にボールは奪えたものの、前にプレッシャーをかけようとして飛び出した細貝の後ろを完全につかれており、もしボールが通っていたら危なかった場面だ。動画2分35秒からのシーンも似た形だ。サイドにあるボールに対して不用意にプレッシャーをかけ、中盤がしっかりと戻りきれていないことでフリーの選手を作ってしまっている。

後ろから出ていく相手に細貝、柴崎が上手く対応出来ず、相手の状況に関わらず持ち場に残ってしまったことは、個人の戦術理解力的な問題だ。相手のボランチにプレッシャーをかけるとしても、そのボランチが前に上がって行ったら着いていく。そういった基本的な部分のミスが目立ったことは、アギーレ的にも残念な部分だったのではないか。

試合中実況が「アギーレは細貝や柴崎に、2人のトップ下のような意識を持つように話した」とコメントしたが、それ故に守備時に持ち場を守ろうとする意識が生まれてしまったことで、相手を見るというよりも高い位置に残ることを選択してしまったのかもしれない。

アギーレの真意が解らないにしても、恐らく「忠実に指示を守り続ける」という日本人の特性と、個々の判断能力を必要とするアギーレのフットボールの相性はそこまで良くない。実際中盤でのプレッシングで戦うチームの生命線は、言うまでもないがセンターハーフとしてプレーする選手たちだ。アトレティコの中盤が緻密な動きで相手の攻撃を刈り取るように、彼らには運動量やフィジカルに加えて冷静な判断力が求められる。そういう意味で、W杯でも経験を積んだ山口螢には大きな期待が寄せられるかもしれない。

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