ヨーロッパ最強チームを決める大会。CL決勝は、間違いなく世界中のフットボールファンを歓喜させるものになるだろう。シーズンの締めに準備された最高のパーティーに、世界中が盛り上がっている。

――今回は目前に迫った大一番を、5つの視点からプレビューとしてお送りしたいと思います。試合前のお供として、是非お楽しみいただけると嬉しいです。

1.ルイス・エンリケを縛る、ユベントスとの因縁。

現在、バルセロナの指揮を任されているルイス・エンリケ。彼のプレイヤーとしての最後のCL、相手はユベントスだった。2003年、カンプノウでの準々決勝でユベントスを迎え撃ったバルセロナは、ユベントスによって栄光への道を閉ざされることになる。

ルイス・エンリケにとって忘れられない思い出を作り出したのは、守護神ジャンルイジ・ブッフォンのセーブでもあった。最後のCLを手繰り寄せるために放ったシュートをセービングし、文字通りバルセロナの勝ち上がりを「防いだ」名守護神は、未だにその衰えを見せておらず、欧州最強の守備陣において殿に鎮座する。エドガー・ダービッツが退場しながらも10人で延長戦後半にゴールを奪い、試合に勝ち切ったユベントスの執念は、未だにルイス・エンリケの心に残る悪い思い出だろう。

今もユベントスを支える勝者の伝統を超えるには、CL決勝の舞台で彼らを超えるしかない。師として尊敬しているであろう、元バルセロナ指揮官ペップ・グアルディオラとバイエルン・ミュンヘンを葬り去った今、ルイス・エンリケに恐れるものはない。

2.『カルチョ』に導かれて。2人の指揮官が経験した場所。

『イタリアはフットボール指揮官にとって、大学の様な場所だ』と人々は表現する。戦術への強い拘りを持つ指揮官が揃うこの国では、フットボールとは似ているようで、本質的に異なっているかのような緻密で魅力的な『カルチョ』が展開される。

アトレティコ・マドリードを率い、スペイン2強に挑戦状を叩きつけたアルゼンチンの魂ディエゴ・シメオネ、今季チェルシーでプレミアを征したジョゼ・モウリーニョ、レアル・マドリードの新指揮官に就任したラファエル・ベニテス。

まるで有名大学が「学閥」を生み出すように、カルチョ経験者は世界のフットボールを牽引する。

ルイス・エンリケも、イタリアでの挫折を味わっている。ASローマを率い、バルセロナからボージャンを呼び寄せ、彼はイタリアの地に果敢に殴り込んだ。期待された結果は得る事は出来なかったものの、彼の中に間違いなくその経験は生きている。特にMFラキティッチを『労働者』として中盤で起用し、イニエスタやブスケツを支えるシステムはユベントスでピルロをアルトゥーロ・ヴィダルが支えるシステムに共通する部分があるはずだ。

一方のマキシミリアーノ・アッレグリは、カルチョの地から生まれた『新世代』の旗手だ。ジョバンニ・ガレアーニの薫陶を受けて磨き上げられた柔軟な姿勢は、それまでのイタリアの指揮官が持つ頑固で伝統的なイメージを覆すものだった。海外からのフットボールを積極的に取り入れ、戦術面でも常に革新的なアイディアを追い求める。そんな新世代の指揮官として先頭を走るのが、マキシミリアーノ・アッレグリという男だ。

アッレグリ本人もイングランドに行くことを希望していた時期もあるように、彼らはグローバルな世界で生きていこうとしている。2人の指揮官は異なる方法ではありながら、イタリアでの経験を生かしながらCL決勝まで上り詰めた。今まで辿ってきた道を証明するためには、勝利しかない。

【次ページ】最強の盾と、最強の剣。