なぜレッドブルはスポーツに巨額を投資できるのか

これほどまでにスポーツへの関心を高く持つレッドブル・グループであるが、その理由とはなんなのか。それはレッドブルが持つ経営戦略にある。

まず、レッドブルという企業の創設から振り返っていく。1982年にタイを訪れた創業者ディートリッヒ・マテシッツは、そこで飲んだエナジードリンク「クラティンデーン」の味に感銘を受けた。

それをオーストリアへと持ち帰ったマテシッツは、配合と風味をヨーロッパ向けに調整。クラティンデーンという名前の意味である(赤い雄牛)を英語に直し、「レッドブル」として展開することを決めた。

最初の数年間はそれが成功を収めず、数百万ドルを失ってしまった。新たにハンガリー、ドイツ、イギリスへの進出を決めたマテシッツであるが、すでに広告費は尽きていた。

そこで、マテシッツが行ったのが「口コミマーケティング」。ターゲットを若者に限定し、巨大なレッドブル缶を取り付けた車を運転する学生を募集したほか、大学のキャンパスを訪れてパーティーやバーで無料のサンプルを提供していった。

またビーチやトレーニングジム、オフィスビルなどで営業を重ね、徐々に販路を拡大させていく。

さらに、チームではなくエクストリームスポーツの選手個人をサポートすることによって、費用を抑えながら露出を増やすとともに「クールで、エネルギッシュ」というブランドイメージを定着させていった。

それをベースにチームスポーツやカーレースの分野にも参加。とくにサッカーにおいては多くの人材を育成し、クラブの価値を高めて収益につなげている。

レッドブル・アスリートの中でも最も成功を収めた一人、マックス・フェルスタッペン

ただ、そこで一つ疑問が生まれる。エナジードリンクで成功したからといって、なぜそれだけしか商品を展開していない企業がそれだけのお金をスポーツとマーケティングに投資できるのか?

そこには、レッドブルという製品の性質と展開の方法があるという。

レッドブルはほぼ単一の商品であるため調達が容易であり、製品はすべて外部委託によって生産されている。また、ブランド価値の影響もあって非常に高い利益率を持っている。

驚くことに、レッドブル1缶の製造コストはわずか0.09ドル(およそ13円)。それはアメリカでは1.87ドル(およそ280円)で卸売され、3.59ドル(およそ540円)で小売される。

つまりレッドブルはアメリカにおいて1缶の利益が265円を超えており、通常では考えられないほどに原価率が低い商品であるとのこと。

そのため、商品の現物を提供することによる損失は非常に低く、高い利益を他の分野へと投資することができているという。