言わずもがな、ただのリーグ戦の一試合に過ぎないとは言えないのが、「ナショナル・ダービー」というネーミングからしてお分かりいただけるだろう。

80年代、イングランドを代表したクラブと、90年代、2000年以降、事実上のイングランドの顔となっているクラブがぶつかり合うのだ。両クラブがリーグ優勝回数の面で上位に位置していることからみても、このネーミングに違和感はない。

だが、「どちらがイングランドのクラブ・フットボール史においてNo.1であるべきか」という争い以上に、今節は非常に厄介な出来事が試合を騒がしくさせた。(お分かりの皆さんがほとんどだろうが)ルイス・スアレスとパトリス・エブラの間に起こった人種差別発言問題だ。この件に関しては、そのクラブへの忠誠の度合いから、外野の意見も、盲目的で原理主義的な一方的なものもあれば、どっちもどっち、といったようなものまで幅広かった。

私的な意見はどこかで散々つぶやいているし、ここではあくまで試合を中心にしたいこともあって、騒々しい出来事にはあまり筆を走らせないことにするが、筆者の立場をはっきりさせておきたい。

個人的には、ルイス・スアレスという選手が根っからのレイシストであるとは全く思わない。そして、意外に知られていないエブラ自身がスアレスに放った発言も知っている。そして、こういった騒動を除き、純粋に戦って勝った結果を受けて一喜一憂したいものだと切に願っている。

さて、肝心の試合に話を移そう。主審がフィル・ダウドということにも筆者は疑問に感じていたが、言っても変わるわけはなく、オールド・トラッフォードはいつもとは若干異なる熱を帯びて開始の笛を待った。

キックオフ、微妙な入り方をしたユナイテッドは、勢い付こうにもボールロストの形が悪く、波に乗る機会を伺いながら乗れずにいる時間帯が続いた。序盤は、リヴァプールがワイドにピッチを使い、グレン・ジョンソンのオーバーラップは、不安定なポジショニングのライアン・ギグスの軽い対応を誘い、惜しい場面を作った。単純に書面上の数で言えば、ユナイテッドが2センターハーフに対して、リヴァプールは3センターハーフであったので、対応に遅れ、そこからズラされる場面が目立った。アウェーということもあり、ボールロストしてもリヴァプールは無理をして前から仕掛けず、スアレスを中心としたカウンターに備えているようであった。

個人的には、あの形で、ボールをキープして、右サイドからギグスのサイドに展開されて、ジョンソンを使われることが非常に嫌だったし、効果的だったのは試合を一試合見ていれば十分に感じ取れることだった。ボールを持ったユナイテッドはセンターラインでの空パスが続き、パスはつないでもリズムにならない時間が続いた。しかし、それでも徐々に対応して崩していく。徐々に対応が中途半端になるリヴァプールのセンターハーフを攻略したのはスコールズであった。アンカーと一般的に呼ばれる位置で逆三角形の頂点となっていたスピアリングの両脇を楔のパスで突くことで、出てこない相手を更に下げることに成功した。ギグスは試合を通じてパスが冴えなかったが、途中、左ウイングから中央に絞ってきてパスをレシーブし、スピアリングを疲弊させた。ダニー・ウェルベックもこの役割をこなし、自身の調子の良さをアピールしたが、逆にルーニーの役割が明確でなくなり、彼の調子は前半にはピリッとしなかった。

ルーニーという選手は実に起用な選手であるが故、時に集中力を欠き、仕事を明確にされないと、メリハリがなくなってしまうことが度々ある。はっきりとした特徴を持つパートナーと組むときはいいのだが、ウェルベックのように特に何かに突出して優れているわけではない全体のスケールが大きい選手との組み合わせは、かえって彼の良さを消してしまう可能性があることをこの試合で改めて感じた。個人的にはベルバトフもこの典型的パターンであると思うし、それ故、ロナウドやテベス、チチャリートといった個人の特徴がはっきりとしている面々とのプレーのほうが、彼の才能を発揮していたように感じる。もちろん、相手に関係なく、自身の能力を発揮できるようになれば、恐ろしい限りであるし、こうなってもらいたいものだと願うばかりなのだが。 前半はそういったこともあって、ギグスとウェルベックがバイタルエリアでボールを積極的に受けていたが、ルーニーが楔にボールを積極的に受けに行くのかスペースに走るのかがはっきりせず、パスミスになる場面が多かった。しかしこれは後半になってルーニーがトップ下に入り、ギグスを左寄りに修正したことで改善される。

前半の中盤から終わりにかけてはユナイテッドペースであった、スコールズが飛び出してヘディングを放ったシーンは見事であったし、バレンシアは終始ホセ・エンリケを低い位置へと釘付けにしていた。しかし全体的にはアタッキングサードでの崩しがゴール前まで行く前にミスで終わる場面も多かった。

後半に入り、役割がはっきりしたルーニーの動きが変わった。ゴール自体は崩しきったものではなかったが、それでも彼のゴールは見事であった。が、三点目を取りに行かずに、2-0で試合をコントロールしにいったユナイテッドは、やはり中だるみが拭えず、高いポジションに位置を戻したルーニーと、リヴァプールの選手交代もあり、懸念されていた自体が起こる。2-0というスコアは緊張が緩みやすく、一点返された後、2-1からの追い上げ感というものは劇的なことを想像し、流れが変わるスコアである。現にこの試合もそうなり、渦中のスアレスのゴールにて、そうなりかけた。しかしジェラードの役割もボヤケっぱなしな今のリヴァプールでは、ひっくり返すだけの支配力もなく、結局は最後のホイッスルが流れるまで、決定的な場面は数えるほどであった。

最終的にはお互い崩しきってのゴールではなかったが、試合をコントロールしたのはユナイテッド、というよりやはりスコールズであった。 ゲームメイクの才能は未だ世界を見渡してもトップクラスであると思わせる出来で、支配者としてピッチに90分間立ち続けた。

あくまでも個人的な感覚ではあるが、スコールズがいることで相手は最終ラインを5m下げなければならない。ゲームメイクすることで、相手の嫌なところを突きつつ、キープしてボールに触り続けるので、必然的に相手のラインは下がる。それ以上に、サイドへ正確な中距離のパスを通し、ウイングと相手サイドバックの一対一を作り出すことで、サイドバックをパスで釘付けにすることが出来る。大げさに思われるかも知れないが、“一人バルセロナ状態”なのだ。そして、バレンシアはその恩恵を最大に受けている一人だろう。

もちろん、ミスをすれば広大なカウンタースペースを与えることになるし、相手にはスアレスというカウンターにはうってつけな能力を持ったFWがいるが、この日のジョニー・エヴァンズにとって、それは大きな問題にはならなかった。

リヴァプールは未だにスアレス依存症であることを露呈し、さらに未だルーカスの抜けた中盤で、ベターな組み合わせを模索している状況であることもはっきりとさせた。なんだかんだ言っても、ジェラードがバイタルエリアで仕事が出来なければ、このチームの迫力は薄まる一方であり、ビルドアップに苦心し、前へ出ることが出来なければこうなるのは自明の理である。

ユナイテッドはしっかりと勝ち点3を積み上げ、リヴァプールは勝ち点を逸した。FA杯での雪辱を果たし、本拠地でナショナル・ダービーを制したユナイテッドであったが、試合に負けた以上の「何かに」負ける形となってしまったリヴァプール側に多数の目が向けられたことは、やはり「ナショナル」という規模の大きさと問題の大きさの影響力を感じずにはいられなかった。

※選手表記、チーム表記はQoly.jpのデータベースに準拠しています。


筆者名 db7
プロフィール 親をも唖然とさせるManchester United狂いで川崎フロンターレも応援中。
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