ミランvsユヴェントス 「違った次元での“満身創痍”」

ミラン対ユヴェントス。実質、セリエAの頂点を決める闘いに近いと思われていた試合に加え、イタリアダービーということから、サンシーロは最高の熱狂を見せていた。闘将アントニオ・コンテによって闘う集団として復活したユヴェントス、そして、戦術家マッシミリアーノ・アッレグリによって絶対的な王者の安定感を手にしたミランという、間違いなくイタリアでも屈指のチームのぶつかり合いは、どういった結果をもたらしたのだろう?

まずは、スターティングメンバーを見ていこう。

スターティングメンバーはもちろんのこと、ベンチにはペペやジャッケリーニ、マトリといったレギュラークラスを備えたユヴェントスはまさに万全といって差し支えない状態。

それに比べるとアクィラーニ、セードルフ、ネスタ、プリンス・ボアテング、イブラヒモヴィッチ、マキシ・ロペスなどの主力を欠くミランは明らかにベストにはほど遠い面子。今季は怪我の影響もあって精彩を欠くパト、補強して間もないムンタリをスタメンに起用したことも、不安を増大させ、このメンバーだけを見れば、ミランがユヴェントスに圧倒されるかと思われた。

しかし、その予想は覆される。序盤はミランがユヴェントスを攻守に渡り圧倒したのである。

前半、いかにしてミランはユヴェントスを圧倒したのか?

ミランの攻撃における3バック対策の鍵になったのは3センターとロビーニョだった。特にロビーニョは、次の図のように様々なスペースに顔を出す事でユヴェントスを混乱させた。

そして、パトが裏を狙うことによって警戒させたCBを2人引きつける。パトのコンディションが良くなかったことは自明だが、それでも存在感は流石のもので2人のCBを見事に引きつけていた。そして、ロビーニョが左に流れるとこのようになる。

左に流れたロビーニョには、「縦に抜く」か「中に入っていくか」のパターンが与えられる。どちらにせよ、ロビーニョが黄色のエリアでドリブルしながら時間を作る事によって、ミランの選手全体が攻撃姿勢に移っていく。タメを作り起点になるのである。

ムンタリやノチェリーノが走りこめば、そこを使う事も出来る。どうしてもノチェリーノの走りこむエリアは手薄であるし、逆に流れたパトに引きつけられているせいでバルザーリとボヌッチの間にエマヌエルソンが走りこむ事も可能。3バックの間が広げられやすい部分を的確に狙っていたのだ。そして、最もロビーニョのフットボールIQの高さを伺わせるプレーが中に入っていくプレーだった。

ロビーニョはバルザーリを引きつけながら、中にドリブルしていく。これによってある程度中のエリアまで来ると、ロビーニョをケアしようとピルロが釣りだされてくる。そうなると、ロビーニョに対して2人、パトに対して2人がついている状態になる。この後の攻略は容易で、ロビーニョは黒い四角のエリアにパスを送るだけで、大きなチャンスが生まれるという訳である。

また、守備力に劣るピルロの周りでボールを受けていこうという動きもロビーニョは見せていた。実際、カターニャ戦のコラムでも述べたようにピルロは攻守において両刃の剣ではある。守備や競り合いがどうしても劣るからだ。実際、ミランの先制点もボヌッチのパスミスから始まったノチェリーノのミドルシュートだったが、ピルロは滑ればシュートブロックにいけるタイミングだったはずだ。

守備では3センターと4バックでしっかりとブロックを作り出して、ユヴェントスの攻撃を封じ続けた。特にボリエッロやクアリアレッラには、ボールを持たせずに激しく潰し、中は完全にフィジカル勝負で完封した。ムンタリ、ノチェリーノ、ファンボメルが激しく潰し、相手を軽いファールで苛立たせてリズムを崩すその老獪な守備は、主力にも見劣りしないものだったのだ。

後半、なぜミランはユヴェントスに主導権を渡してしまったのか?

確かに、アンブロジーニの投入で守りに入ったことが押し込まれる原因を招いてしまった側面はあるものの、最大のミスと誤算は「パトの怪我と3トップへの変更」だろう。確かにパトのパフォーマンスは良くなかった。その上にエル・シャラウィは素晴らしいクオリティを持った選手である。最近の活躍なら、パトを上回るだろう。ただし、いい選手を送り込むことが必ずしも正しい結果に繋がらないのがサッカーの面白いところだ。

3トップ気味にエマヌエルソン、ロビーニョ、エル・シャラウィを並べ、3バック相手にカウンターで仕留めるという策は理解出来る。しかし、それは結果として、4バックに変えたユヴェントスにとって飛んで火にいる夏の虫だった。

ロビーニョが自由に動けなくなり、カウンター仕様になったことで枚数をかけた厚みのある攻めが出来なくなったことで、マーカーについていかなければならず前に出ていけない場面が目立ったピルロやマルキージオ、ビダルを攻撃に集中させてしまうという状況を招く。

後半途中でムンタリをトップ下にしてピルロ潰しを狙うものの、結局は攻撃に晒され過ぎたミランをマトリが仕留め、結果として試合は1‐1になってしまったわけだ。

後半、なぜミランはユヴェントスに主導権を渡してしまったのか?

ユヴェントスがここまでに満身創痍のミランに苦しめられた理由はどこにあるのだろうか。ミランは交代する駒がいないほどに満身創痍だったのにも関わらず・・・。

それは、ユヴェントスがまた違う意味で「満身創痍」だったからである。そして、その状態を生み出したのはコンテ監督の戦術にあった。

今年のユヴェントスは、とにかく凄まじい運動量と速い展開でここまで無敗という結果を残してきた。特に、SBやWB、CHの選手たちの運動量はとんでもない事になっている。序盤、最も強かった頃のユヴェントスはマルキージオ、ビダルがピルロのサポートに下りてきて組み立て、さらにゴール前にも顔を出すとんでもない上下動を繰り返し、守備時にも凄まじいスピードでピルロのサポートをしていた。ある意味では、ピルロと優秀な2人の労働者がユヴェントスを支えていたのである。ピルロの点である、組み立てにおいてピルロに依存し過ぎることや、守備面での脆さをピルロの兵隊として2人が全て請け負って助けていたのである。しかし、彼らの限界は見えてきてしまっている。ミラン戦を見ても、ビダルは交代要求するほどに疲労し、結局ついていけずに背後からタックルして退場。マルキージオも存在感を失ってしまっていた。攻撃面で、3センターを広げようと両ワイドがサイドチェンジを狙うも3センターの間を上手く使えずに苦しんだ事、そして守備面で、ムンタリやノチェリーノを自由にしすぎてしまった事は彼らの疲労が原因なのは間違いない。全体的にミスが目立ったのも、体力的なダメージが大きいのだろう。“フォレストガンプ”の異名を持つほど運動量自慢のリヒトシュタイナーでさえ、段々と運動量が落ち始めている。

ユヴェントスは、非常に危険なバランスの上に成り立っているチームである、と今私は感じている。あまりのハードワークは、選手の寿命を縮ませかねない部分もあるからである。確かに今季は、まだギリギリのところで強いメンタルで持ちこたえている。ただ、これが最後まで持つかといったらそれには不安も残るところだ。どこかで、張り詰めた糸が切れてしまう恐れもある。

そういった意味では、ミランの「満身創痍」の方がユヴェントスの「満身創痍」よりは傷が浅いかもしれない。しかし、ユヴェントスも今季優勝することで補強がしやすくなる。そうなれば、層が厚くなるという事もあり「満身創痍なのは承知だが、それでも走り続けるしかない」のである。ここからの領域で、間違いなく彼らが闘わなければならないのは「疲労」だろう。それを乗り越えれば、彼らには優勝が待っている。しかし、それは難しい闘いになるだろう。

※フォメ―ション図は(footballtactics.net)を利用しています。

筆者名 結城 康平
プロフィール サッカー狂、戦術オタク、ヴィオラファンで、自分にしか出来ない偏らない戦術分析を目指す。
ツイッター @yuukikouhei

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