ザッケローニを悩ませる香川の存在
W杯アジア3次予選の最終戦となった日本対ウズベキスタン。日本で行われるこの試合に、ゲインリヒ、シャツキフなどの主力を帯同させなかったウズベキスタンに対し、日本は海外組を多数招集したものの、結果的にはコンディションの問題などがあってウズベキスタンに1‐0で敗れている。今回は、ザッケローニの頭の中について考えていきたい。
コンディション不良に加えて、ウズベキスタンの選手たちが素晴らしい運動量と集中力を見せ続けたのは間違いない。しかし、それでも負けて仕方ない試合では無かったはずである。では、何故負けてしまったのか。コンディション面で運動量を欠いたことが生み出した失点、守備面に関しては一旦置いておくことにして、ちぐはぐだった攻撃面について考えてみよう。
ウズベキスタンの守備のやり方はこのような方法である。
とにかく、彼らとしては、自分たちよりも力で上回る日本に落ち着いた状態でゲームを作らせたくはなかった。そのため、図のように、遠藤と長谷部にはボランチがプレスをかける。こうなると、香川のところがフリーになるので日本としては、シンプルに彼に集めていく事が出来る。現に、ザッケローニもバイタルを使っていこうという意志があったことを認めている。そして、そこに入れた時に藤本がサポート、岡崎とハーフナーが前で待つという形が多分ザッケローニの頭の中にはあったのだろう。実際、この形でいくつかチャンスも作り出してはいた。
とにもかくにも、明らかにザッケローニは、この試合で香川に対して大きな期待をかけているように感じた。あのように広いバイタルエリアでボールを受けてスルーパスを出す役割ならば中村にやらせておくという方法もあったにも関わらず、今回は香川をトップ下で起用したからだ。ザッケローニは、「ドルトムントで爆発している香川」という存在をどのように代表にフィットさせればいいか思い悩んでおり、それが今回、ドルトムントと同じように「香川をトップ下で起用する」という一つの実験として試されたのではないだろうか。
本来のザッケローニが得意とするのは、3‐4‐3でサイドに数的有利を作り出して崩してから中の長身FWにクロスを放り込んでいくサッカーである。李よりもハーフナーが選ばれたのはここに理由があった。ザッケローニが最も好む攻撃の起点は、WGやSHが中に入りながら後ろ向きで楔のパスを受けるというものである。これは、実際にこれまでのゲームでも見られたし今回のゲームでも見られたものだ。図で説明しよう。
青い線が人の動きで、黒い線がボールの動きだと考えていただきたい。たいてい、長友がボールを持って縦を向いてボールを運んだ場合、マーカーは縦に入れられないように縦を切ってくる。そうすると、岡崎は縦から中に入ってきてマーカーを引き連れながら楔を受 ける。そうすると、長友の走りこむスペースが空くので簡単にサイドを攻略出来る。また、長友に出せなくても、岡崎の位置である程度タメを作れば、全体が押し上げられるというものである。
この形からのクロスで得点に繋げるというのが、ザッケローニが日本代表でやろうとして作り上げてきた形だったのだというのは、ほぼ間違いないと思う。
ただ、今回の試合は、「起点として藤本や岡崎のところに楔を入れ、そこからSBを走らせてクロス」という形は少なかった。やはり、どちらかというと多かったのはトップ下である香川を起点にする攻撃であった。しかし、香川を起点にしても藤本はあまりいいサポートが出来ず、ハーフナーも裏への飛び出しには長けていないとあって、上手く得点には繋がらなかった。つまり、香川を中心にするのであれば抜本的なチーム改革が必要となってくるわけだ。
彼は、狭いスペースで受け手としてプレーする時に最も輝きを放つ。フリーな状態のまま広いスペースで受けると、どうも迷いが見えるのはブンデスリーガで引いた相手と闘う事が多いからというのもあるのかもしれない。ただ、相手を引かせるほどのパスワークと香川を受け手に集中させる事が出来るほどの余裕は日本代表には無く、香川をフリーに出来る1トップ向きのFWもいない。加えて、恐らくザッケローニの引き出しの中にも香川をチームの中で輝かせる術も無いのだろう。出来ることと言えば、今回の試合や今までの試合でも何度か行っているように、香川には自由を与え、香川の近くで彼のサポートに徹する事が出来る“香川の兵隊”として、清武や乾のような選手を投入することくらいである。本田や中村といった、出し手として優秀な選手たちもいるが、彼らもトップ下が本職なので、組み込む事によって香川はワイドに追い出されてしまう。そうなると、香川をドルトムントのように生かすというのは、ザッケローニのサッカーでは難しいように思えるのだ。
残念ながら今回の実験は失敗に終わった。そして、ザッケローニはチームとしての方針を定めなければならない状況に近づいた。どちらがいいかは、正直筆者には判断がつかない。しかし、個人的には「出来ない事をやろうとしても時間の無駄」な気がする。決してザッケローニは万能な監督では無いし、残念ながら近代的な監督かというとそういう訳でもない。そう考えると、自らのサッカーを貫く中にどうやって香川・本田などの選手たちを組み込んでいくかという部分を考えていくべきなのではないだろうか。
ザッケローニが自らのサッカーの中に、どのように選手たちを組み込んでいけるのかという部分こそが、日本代表の今後を左右する最も重要なポイントとなってくるのは間違いないだろう。
※フォメ―ション図は(footballtactics.net)を利用しています。
筆者名 | 結城 康平 |
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プロフィール | サッカー狂、戦術オタク、ヴィオラファンで、自分にしか出来ない偏らない戦術分析を目指す。 |
ツイッター | @yuukikouhei |
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