チェルシーvsナポリ 「飢えた獣はどちらか」
ファーストレグでチェルシーを3‐1で破ったナポリは、圧倒的に有利な状態で敵地スタンフォード・ブリッジに乗り込んだ。だが、結果は、スタンフォード・ブリッジの熱い後押しを受けたチェルシーがナポリを4‐1で粉砕。大逆転の末にベスト8へと歩を進めた。さて、今回は、チェルシーがどのようにナポリ攻略を成功させたのかという点を中心にこの一戦を考察してみようと思う。
スターティングメンバーと、大体の試合での配置はこの図のような感じになっていた。エッシェン、両CBで簡単にボールを回しながら、圧倒的フィジカルを誇るドログバをカンパニャーロやアロニカの方に流してそこにロングボールを入れてチャンスを作るというのが、一番多く見られた形であった。ナポリは、ガルガーノとインレルを動き回るマタ潰しに当てようとしており、その狙いはある程度成功していた。ただ、問題が生じたのはサイドから攻められた場合だった。
ルイスやテリーが、引いたナポリ相手にボールを回す中で、目の前が空くとボールを運んでくる。そうなると、3センター状態で待ち構えるナポリは1枚をチェックにいかせざるを得ない。
そこで、簡単にルイスはWGやSBにパスを出す。そうすると瞬間的に2対1のシュチュエーションが生まれ、SBにしてもWGにしてもクロスを上げる十分な余裕が生まれやすくなる。
狙っていたかはわからないが、カウンターを重視したのか、WGをSBにつけるスタイルを選ばなかったナポリには対しては非常に効果的な手であった。
さらに、図のように中に4人が一気に走り込む事によって瞬間的に3対4の状況を作り出していたことも触れておきたい。インレルやハムシクはDFラインまではついていっていなかったので、ナポリの3バックへの負担はとんでもない事になっていったからだ。ドログバのフィジカルと、このように厚みをかけた攻撃でチェルシーはナポリ守備陣にどんどんプレッシャーを与え、セットプレーを増やしていった。その結果、ナポリは4失点を喫し崩壊してしまったのである。
無論、このようなチェルシーのスタイルはリスクも大きい。カウンターを浴びる可能性も十分に存在していたし、インレルにやられた失点のようにバイタルエリアはどうしても甘くはなる。しかし、そこまでリスクをかけて攻めに来る事が明らかな状態のチェルシーに対して、守りが苦手なハムシクを引かせてまでナポリは安全に引いて守ろうとしてしまった。ファーストレグでは、インレルが3トップと共に果敢に前に飛び出し、今回のエッシェンの役割だったメイレレスにプレッシングをかけることでチェルシーの組み立てを阻害した。引いて守るにしても、相手に完全に自由には持たせない。そういった積極的なチャレンジ精神によって、強豪を苦しめていたのがCLでのナポリだったはずだったわけだ。トリデンテによるカウンターという一撃必殺の剣を持っていても、押し込まれ過ぎてボールを奪うところがはっきりとしていない状態では、満足な状態で剣を抜くことが出来ない。そうして、ナポリはロンドンの地に散った。自分たちの立場を、勘違いさせてしまうほどに上手くいき過ぎていたのかもしれない。
だが、今回はナポリの悪さを指摘するよりも、凄まじく気持ちを全面に出ていたチェルシーを評価すべきだろう。ベテランもそうだが、ダビド・ルイスは身体を投げ出してナポリのカウンターを食い止め、ラミレスの運動量は延長戦に入っても落ちなかった。「5000万ポンド男」と揶揄されるフェルナンド・トーレスも、シュートミスこそあったものの、その天性の存在感とポジショニングの巧みさで、若きダニエル・スターリッジとは違った形でナポリの守備をかき回していた。飢えた獣のように、格下に対してでも手を抜かず襲いかかったチェルシーは、賞賛に値するパフォーマンスを見せた。今後、彼らの課題はリーグでも同様の姿勢を貫くことであり、戦術的バランスを整備する事だろう。これを、復活の足掛かりに出来るかがポイントだ。
一方ナポリは、再び自分たちの積極性を研ぎ澄ましてCLに戻ってきて欲しいところだ。次からは、どのチームもナポリを過小評価する事はなく、彼らを伏兵とはみなすチームはいないはず。ナポリの本当の闘いもまた、まだ始まったばかりなのだ。
※フォメ―ション図は(footballtactics.net)を利用しています。
筆者名 | 結城 康平 |
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プロフィール | サッカー狂、戦術オタク、ヴィオラファンで、自分にしか出来ない偏らない戦術分析を目指す。 |
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