【無冠は失敗?】

さて、見事に無冠に終わった今シーズン(コミュニティー・シールドをカウントすればそうではないのだが)、数字的に見れば世界の3大クラブのひとつがこれではマズい、といい意味でも悪い意味でもネタにされているわけである。らしくないシーズンであったことは間違い無い、しかし本当にこれを失敗と定義出来るのだろうか?

【勝ち点89の意味】

非常に厄介でうるさい隣人と化したシティが、ドラマチックな逆転劇で優勝を持っていったことは、非常に悲しい出来事であった。もちろん、ダービーでダブルを食らった上に、この2試合は、勝ち点が同一で得失点差で持っていかれたので、このダブルは本当に痛かった。 しかし、明らかな若返りを図った今期、「89」という数字を積み重ねたことは改めて評価しなければならない。「89」にふさわしい内容の試合が多かったか、と言われれば怪しいところもあるが、それでもなお、積み重ねたことは事実である。

これは以前のコラムでも触れたはずだが、2010-11シーズンの優勝勝ち点が80、2009-10シーズンは86ということを踏まえて考えなければならない。こうしてみれば、不本意ながらやはりシティを認めて讃えなければならないし、ユナイテッドが失敗のシーズンを過ごしたとは一概に言えないだろう。

失敗と言えるのはチャンピオンズリーグとヨーロッパリーグで二度の失態を重ねたことだろう。ここに関しては若手の勢いとベテランの経験の配分を間違えたことは明らかだ。特にチャンピオンズリーグで決勝トーナメントに進めなかったことは、収入的にも良いことではなかった。

ともかく、「89」もの勝ち点を積み上げて優勝できずにネタにされるなど、おそらく世界でスペインの二大クラブか、ユナイテッドくらいであろう。

【若手、若手、ベテラン】

結果的には戻ってくるのだが、スコールズが引退し、メンバー的にも平均年齢がグッと下がった今期は、開幕前からシティを警戒する動きとともに、今シーズンは世代交代を進めるシーズンと割りきった考え方もしていた。前回の世代交代は2003~2006年あたりで、このあたりの不安定さに比べれば遥かに今シーズンは誇るべき数字を残しているとも言える。 最も成長した若手と言われればやはりエヴァンズだろう。ここ数シーズンは不安定な出来だったが、ヴィディッチの長期離脱を見事に埋める活躍を見せた。ジョーンズも加入一年目と年齢を考えれば期待さらに上回る活躍をしたと言えるだろう。ただ、未だにこの選手はどこで起用するのが最も望ましいのかははっきりしないのだが。

クレヴァリーは本当にもったいない、の一言に尽きる。コミュニティー・シールドでの大逆転劇を演出し、開幕後のスタートダッシュの一因となっていたこのセントラルミッドフィルダーは、怪我で離脱以降はスコールズの復帰もあり難しいシーズンになってしまった。しかし、開幕直後のあのプレーにユナイテッドの未来を見たものは少なくないはずだ。来期こそはフルタイムで見たいものである。そう、スコールズとの競争を制して。 また、マンチェスター産のウェルベックは、コンディションが上がらないチチャリートに替わってルーニーの隣にいることが大幅に増えた。度々怪我で離脱することもあったが、可能性は誰もが認めるところであり、EURO行きのチケットも獲得した。

デ・ヘアについても触れておこう。見た目が冴えない感じも手伝って、シーズン序盤はプレミアの水に慣れるのに非常に苦労していた。批判は当然のように浴びせられ、プレミアには向かないとまで言われ続けた。筆者の厳しい言葉を投げかけたが、プロとして結果が出なければ、叩かれるのは当たり前だ。しかし、ある程度の時間は必要だとも考えていたし、エヴラもヴィディッチも、適応するのに半年かかっている。リンデゴーアが不安定なデ・ヘアに取って替わって正ゴールキーパーを射止めるパフォーマンスを見せていたが、怪我で離脱し、再びデ・ヘアにチャンスが舞い込んだ時には、そのポテンシャルを遺憾なく発揮し始めた。個人的には贔屓目と後半戦限定ではあるが、リーグベストであったと考えている。これからあと何年、この頼りなさそうな風貌のスペイン人がユナイテッドのゴールマウスを守るのだろうか。

ベテランの話もしておくと、スコールズを語らないわけにはいかない。コーチング業では自分を満足させられなかった小柄な天才は、やはり天才であったことを英国中に再度知らしめた。ベテランに頼りっぱなし、などと揶揄されることもあるが、この素晴らしい才能に年齢など関係ない。ベンチメンバーにスコールズの名前があったシティ戦の興奮を忘れることは無いだろう。

もう一人触れておきたいのがリオ・ファーディナンドだ。シーズンを通して活躍することが難しくなっていた数シーズンであったが、ヴィディッチの長期離脱でその不安はさらに増すばかりであった。しかし、始まってみれば怪我と上手く付き合うことに成功し、若手の良きお手本としてピッチに立ち続けた。 ここまでくると私の筆が止まらないのでエブラにも触れておきたくなる。パフォーマンスが全盛期のものと比べて徐々に下がっていることは否めないが、それでもピッチに立ち続けることが出来る鉄人である。リーグ戦38試合中37試合先発出場、例年のことながら、やはりチームの中でもずば抜けている。後継者探しは難航しているが、まだまだ不可欠な存在であることは確かだ。

【ルーニーの役割】

これも過去のコラムで触れていることだが、この男も年々進化を遂げている。ムラがあったゴールも、調子が悪くても結果だけは残せるようになり、今シーズンほどコンスタントにゴールを決めたシーズンは無いだろう。大きな怪我で欠場することもなくなり、リーグ戦で34試合出場を果たした。問題は年々変わる役割だ。昨シーズン、チチャリートとの抜群の連携を見せたが、今シーズンはそのチチャリートのコンディション不良があり、ウェルベックと組むことが多かった。悪くはなかったが、二人の距離やコンビネーションがスムーズだったかといえばいまいちだった感じがする。時間が解決してくれるかもしれない。が、やはり一列引いてパスを狙うルーニーは怖さがない。怖さがなくてこの数字を残しているのだから大したものなのだが、それでも1.5列目でパスを引っ掛けることが多かったこともあり、やはり前線でゴールを狙う中でのパスでないと、効果も半減なのだろう。最前線に張り続けた2009-10シーズンのように、パスありきでなく、もっとストライカーらしく振る舞ってほしいものである。そのためにドルトムントから日本人がやってきそうなのだが・・・と、これは全てが決まってから語ることにしよう。

EUROに向けてアホなファールで二試合出場停止という失態を犯したが、リーグではかつてが嘘のように優等生となり、リーグではイエローカードを二枚しか受けていない。加入当初から見てきたものとしては嬉しい半面、あの負けん気はもっとピッチの上で見せてほしいな、とも思い寂しいのだが。

【足りなかったもの】

「経験」だろう。選手層とも言えるかも知れないが、シティがあれだけの資金を使ってあの選手層を確保していても、そこで勝負するわけにはいかない。資金も立派なチーム力であると、言わざるを得なくなっている。

スコールズとギグスを持ってしても、という意見もあるが、やはり若返りを測った影響はそこに現れた。それは言うまでもなくチャンピオンズリーグ、そして悔やまれるエヴァートン戦である。4-2とリードしていたのにも関わらず、これを引き分けに持ち込まれたことで、シティに希望を与えて、勢いで持っていかれた感は否めない。ここでチェックメイトをかけるはずだったのだ。勝負のターニングポイントを見極める力がなかった。それはやはり経験から得られることが殆どだろうと考える。力が無いわけではない、ただ、そこに加える力とそのタイミングが悪かった。勝負弱かったと言われる今シーズンはここに原因を見いだせるのではないだろうか。

若手はそしてチームはこれを教訓として、経験を来期に活かさなければならない。それが今期に支払った大きな代償だろう。

そのために着々と準備をしつつあるのだが、果たして何名が新たにキャリントンへ訪れるのだろうか。

というわけで、まずは「戦術的に優れたアイデアを持つアシスタントマネージャー」が欲しいのだが。

【来季】

無論、優勝、つまり20回目のリーグチャンピオンが絶対条件だ。ただし今シーズン以上に難しいシーズンになりそうな雰囲気は既に漂っている。シティはともかく、アーセナルはファンペルシーの残留を成功させたのならば、今期の積み重ねもあり今年よりもいいチームになるだろう。ウィルシャーも戻ってくる上、ロシツキーは完全復活した。ポドルスキが左に君臨することになれば、左足のスペシャリストを前線に二人備えることになる。そして厄介なのはチェルシーだ。チャンピオンズリーグを制し、夢を叶えたアブラモヴィッチは財布の紐がゆるみっぱなしである。このコラムを書いている時点で、マリンの加入は決定しており、マンチェスターの2クラブとの競争を制してアザールを獲得することがほぼ確定。そしてフッキの加入ももう決まりそうだ。功労者ドログバの退団が決定し、前線の顔ぶれは特に変化する。個人的にかっているスターリッジには過酷な競争が待っているが、マタとアザールがハマったら非常に厄介だ。このように、やはりプレミアリーグがいかにエキサイティングなリーグかということが既にお分かりいただけるだろう。ただ、熾烈な争いを制してこそ優勝の喜びも大きくなる。そしてビールも旨くなる。

日本人誰もが注目する移籍市場の楽しみもあり、EUROもあるので、来期の開幕まで退屈することは例年よりも短くなるだろうが、問題は、ギンガムチェックのユニフォーム。

こればかりはNikeに…いややめておこう。気がつけば部屋に飾ることになるのだから。

※選手表記、チーム表記はQoly.jpのデータベースに準拠しています。


筆者名 db7
プロフィール 親をも唖然とさせるManchester United狂いで川崎フロンターレも応援中。
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