アンドレ・ヴィラス=ボアスは今度こそ成功を収められるだろうか。
ハリー・レドナップからトッテナムの監督の座を受け継いだヴィラス=ボアスはリベンジに燃えているに違いない。途中解任の憂き目にあったチェルシー時代の苦い経験をチェルシーと同じくロンドンを本拠地とするトッテナムで晴らすことができるか。この点は多くのサッカーファンの注目を集めている。
今回の当コラムでは、ヴィラス=ボアスのリベンジを占っていきたい。
・失敗に終わったチェルシー時代を糧に
昨シーズンのチェルシーはクラブ史上初となるチャンピオンズリーグ優勝を果たしたが、その歓喜の輪の中にヴィラス=ボアスはいなかった。偉業を成し遂げたのは、ヴィラス=ボアスの下でアシスタントコーチを務め、ヴィラス=ボアス解任後は暫定監督としてチームを率いたロベルト・ディ・マッテオ(ちなみに、ディ・マッテオは今シーズンから正式に監督となる)。ヴィラス=ボアスは3月に前半戦の不振の責任を取らされる格好で、解任されていたのだ。
ヴィラス=ボアスがチェルシーに植え付けようとしたのは、自分たちがボールを支配し、主導権を握るポゼッションサッカーだった。だが、栄光の時代を築いたジョゼ・モウリーニョ(現レアル・マドリー監督)時代の堅守速攻が染みついたチェルシーにおいて、その改革は失敗に終わる。ディ・マッテオが監督就任後にモウリーニョ時代のスタイルに戻した結果、チャンピオンズリーグとFAカップの二冠を達成したという事実をみても、ヴィラス=ボアスの挑戦がいかに困難であったかが分かるだろう。
また、ヴィラス=ボアスは戦術面だけでなく、ロッカールームでも問題を抱えていた。起用法を巡って、古参であるフランク・ランパードなどベテラン選手との確執が話題となるなど、33歳の青年監督にはピッチ内外で問題が山積みだったのである。
では、チェルシー時代の失敗の要因となってしまった戦術面とロッカールームの問題は、再スタートを切るトッテナムではどうなのだろうか。ここからは、筆者なりの検証をしてみたい。
・戦術面はトッテナムのスタイルと合致
前任者のレドナップが志向したサッカーは、サイドアタックをメインとした攻撃的なサッカーだ。右サイドのアーロン・レノン、左サイドのギャレス・ベイルが持ち前のスピードを生かした突破でチャンスを演出し、トップ下のラファエル・ファン・デル・ファールト、司令塔のルカ・モドリッチがアクセントを加える。スピード、テクニックに優れた選手が多いトッテナムは攻撃的なサッカーを第一とするヴィラス=ボアスにとって、理想郷であると言って良いはずだ。
迎える新シーズンは、スウォンジーでセンセーショナルな活躍を見せたギルフィ・シグルズソンの獲得が決定している。この新進気鋭のアイスランド代表は、高いテクニックと得点力を兼備するオールラウンダーな攻撃的ミッドフィルダーであり、母国の英雄エイドゥル・グジョンセン(チェルシー、バルセロナなどでプレー)を彷彿とさせる好プレーヤー。ヴィラス=ボアス好みの選手だろう。
また、アヤックスからベルギー代表のディフェンダー、ヤン・ヴェルトンゲンも加入する。ヴェルトンゲンは高い攻撃性能を誇る左利きのセンターバックで、昨シーズンは24試合に出場し、7ゴールをマーク。タイプ的には、ベルギー代表のチームメイトであり、同じくアヤックスからアーセナルへと移籍したトーマス・ヴェルマーレンのような選手だ。最終ラインからのビルドアップを基本とするヴィラス=ボアスのサッカーにおいて、足元のテクニックに優れるヴェルトンゲンは打って付けの人材。引退したレドリー・キングの穴を埋める活躍も期待できるかもしれない。
8月14日現在で2人の即戦力が加入したトッテナムだが、不安が無いわけではない。それは、司令塔モドリッチの移籍問題と核となるフォワードの獲得だ。
チームの心臓であるモドリッチは、卓越したスキルと広い視野、一定の守備力を兼ね備える現代サッカーの模範的な司令塔だ。当然、このクロアチア代表を狙うクラブは多く、昨夏はチェルシーへの移籍問題が勃発していた。今夏もレアル・マドリーへの移籍問題が浮上し、モドリッチはチームのプレシーズンツアー参加を見送るなど、移籍を希望する動きを見せている。このまま残留する可能性はあるものの、レアル移籍は避けられないのが現状だろう。モドリッチはヴィラス=ボアスのサッカーにおいても重要な選手であり、そう簡単に代役を見つけることはできないのを踏まえても、仮に退団が決まれば、大きな痛手となるのは間違いない。ヴィラス=ボアスがどのような形でモドリッチの穴を埋めるのか、注目したい。
一方、核となるフォワードの獲得については、昨シーズンもトッテナムでプレーしたエマニュエル・アデバヨールを完全移籍で獲得することが濃厚となっている。トッテナムとアデバヨールの所属先であるマンチェスター・シティとの間で金銭面の交渉が続けられているが、両者の利害は一致しており、数日中に移籍が決定するだろう。長身を生かしたポストプレーと決定力が武器のアデバヨールは前述したように昨シーズンもレンタルでプレーしており、周囲との連携は問題ない。リーグ戦17ゴールをマークした男の加入が決まれば、朗報だと言える。
・ロッカールームも不安は無い
チェルシー時代に問題となったロッカールームの争いは、トッテナムでは問題無いと言えるだろう。トッテナムにはこれからサッカー選手としてピークを迎える選手が多数在籍しており、(レノン、ベイル、カイル・ウォーカー、サンドロ、ダニー・ローズ、ジェイク・リヴァモアなど)彼らは若き新指揮官から多くのことを熱心に学ぶはずだ。また、チームを束ねるベテランたち(ブラッド・フリーデル、カルロ・クディチーニ、スコット・パーカー、ジャーメイン・デフォーなど)は総じてエゴイストではなく、チームの為に働ける選手たちである(ヴィリアム・ギャラスには一抹の不安が残るが)。少なくとも影響力を持つ古参プレーヤーが多かったチェルシー時代よりはやりやすさを感じるのではないだろうか。
・背水の陣の覚悟で
ヴィラス=ボアスにとって、トッテナムでの新たなチャレンジは背水の陣で臨むものになるはずだ。チェルシー時代に続いて失敗してしまえば、後の監督生活にも大きな影響を与える。真の名将の仲間入りを果たすには絶好の機会であり、失敗は許されないだろう。だが、筆者は戦術面、そしてロッカールームの面から考えると、成功を収めるのではないかと予想している。三冠を達成したポルト時代の成功で一躍スターダムにのし上がった男の北ロンドンでの挑戦を注意深く追っていきたい。
2012/8/14 ロッシ
※選手表記、チーム表記はQoly.jpのデータベースに準拠しています。
筆者名 | ロッシ |
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プロフィール | 『鹿島アントラーズと水戸ホーリーホックを応援している大学生。ダビド・シルバ、ファン・ペルシー、香川真司など、足元が巧みな選手に目が無いです。野球は大のG党』 |
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