香川の移籍記事以降、書いていなかったコラムも、さすがに事の大きさにワードを起動せざるを得なかった。

昨シーズンのアーセナルのキャプテンがやってきたからである。

本題に入る前に、オフの話を少し。まず、EUROの話はすっ飛ばして(私が余り観ていないこともあり)ニューヨーク証券取引所に上場したことが取り上げられるだろう。

オーナー問題からいろいろな視点があるようだが、クラブのより一層の発展とともに、ますます勝利は義務付けられる。なぜなら株価は一挙手一投足に目を光らせ、即座に反応する。そしてこれに関連して、2014-15シーズンより、ユニフォームのスポンサーにCHEVROLETが入ることが決まった。既にAudiとの契約からCHEVROLETへと変更は行われているが、胸のスポンサーにもなるという。AIG、Aonに続いてのアメリカ企業である。ちなみにシボレーはなぜかリヴァプールにもスポンサードをしているという、双方のサポーターからすればちょっと良くわからない状況ではあるが、いかんせんThomas Cookもユナイテッドにスポンサードを行い、Thomas Cook SPORTはリヴァプールにスポンサードを行なっているので、あちらでは当たり前なのだろうか。

そしてプレシーズンマッチ。近年ではツアーと言う形で、異国のマーケットを開拓する形でグルっと大きな旅をしていたが、今オフに関しては大きな旅はせず、分割して行った。スコールズがホームシックにならないように気を使ったという憶測はさておき、例年とは異なった入り方をした。もちろんEUROの影響もあるかもしれない。

緩い試合が続いたが、香川はここで自分の存在価値を明示し、チームメイトにもファンにもそのポテンシャルを見せたのはこのコラムをお読みの方には言うまでも無いだろう。

前フリはこれくらいにして、そろそろ本題に入る。

90年代後半から約10年近く、火花を散らしてきたユナイテッドとアーセナルの関係を知る方々からすれば、昨季のキャプテンを務めたものがユナイテッドに移籍することなど、信じがたい事実であろう。ロイ・キーンとヴィエラの激闘を知っていれば尚更である。ユナイテッドからアーセナルへの移籍は、数年前にシルヴェストルの移籍があったが、これに大きな問題はなかった。逆にアーセナルからユナイテッドへの移籍は実に25年ぶりとのことらしい。そんな関係であったはずではあるが、お互いのリーグ位置関係が変化したことは避けて通ることができない。オイルマネー介入によるチェルシーの台頭に始まり、マンチェスター・シティが急成長した中で、タイトル争いを繰り広げる戦力が整わなくなっているのは紛れもない事実だ。

既に保有している主力戦力さえ移籍を志願してしまうという自体に陥ったアーセナル。私は、タイトルは逃し続けているが、それでもクラブの資産価値などは世界有数であるし、ヴェンゲルの手腕は評価されるべきだと思っているが、タイトルやトロフィーといった魅力にはかなわないというのが現実のようだ。

さて、株式上場したということで「投資」的に今回の移籍を考えてみよう。

まず、実績と能力は疑いようがないが、怪我がちでリセールバリューが見込めない29歳のCFに推定2400万ポンド+出来高を支払うのは、少々お高い印象が強い。

しかし、アーセナルの前線の核であることを考えれば、それを失う立場も踏まえて、単純な適正価格よりも高いのはやむを得ない。それを理解した上でこの移籍金が支払われたと見なければならないだろう。そもそも、ユナイテッドは世界で最も資産価値のあるクラブである背景から、市場価格よりも足元を見られて移籍交渉されるのが常になってきている。適正価格よりも高い金額で購入してきた選手を上げればキリがない。
そんなわけで、足元を見られつつも合意直前のルーカス・モウラをパリSGに持っていかれてしまった。個人的には、現在のアンデルソンも含めて、ブラジル人選手がユナイテッドであまり活躍していないという前提と、サイド起用では既にウィングが過多、という実情から、慣れるまでに時間がかかり、獲得してもしばらく出番がないと考え、リセールバリューがあろうとも、今シーズンの戦力になるかどうかは怪しいので、いかにタレントが優れていようと移籍金が高騰しすぎているならば他に回すべきだと考えていた。

そして現実に、移籍が破談になって以降、一気にファン・ペルシーの移籍に漕ぎつけたことになる。

未だに再就職先が見つからないオーウェンは立場を理解した上での契約だったこともあるが、「29歳」の主力級の移籍はしばらく記憶がない。ブランやラーションなどは、明らかに主力としてというわけではないし、ベルバトフも移籍当時は20代半ばでの移籍であった。ファーガソンといえば、近年、原石を見つけてきては磨き上げることを趣味にしていた印象が強いが、ここに来てこういった補強が完了したという背景には、やはり「隣人」の影響がないとは言えないだろう。嘘か真が、ドログバのチェルシー退団が決まった際、本気でオファーを出そうとしていたとのことだが、本人の血が「青」である以上、これは実現しなかったとされている。

では、ここからはファン・ペルシー本人にフォーカスしてみよう。

もちろんタイトルレースを繰り広げたクラブの主力選手であったのだから、対戦を通じても、プレーの特性というものはある程度は把握しているつもりではある。昨シーズンは得点王に輝いたこともあり、個人としては素晴らしいシーズンを過ごしたが、元来はストライカーではなく、ゴールマシンの印象はあまりない。さらに言えば、他チームのファンやサポーターからみても「怪我が多い」という印象がどうしても強い。

彼といえばその「強烈な左足」だろう。パワーもさることながらその技術は素晴らしく、他チームのサポーターたちもハイライトでマンガのようなボレーシュートを何度も目撃している。ヘディングの得意不得意はともかく、上背もありバランスの良いタイプのCFが加入することで、前線のバリエーションは非常に多岐に渡ることになる。残念ながらベルバトフはユナイテッドへの愛とは裏腹に、ルーニーとの相性が全てを決めてしまった。昨シーズン、タイトルを獲れずに、CLでも予選敗退したせいか、決してゴール数は少ない方ではなかったが、しかしチャンスを逃し続けた印象も強い。ウェルベックが怪我をしながらも躍動感溢れるプレーを見せたが、繊細なテクニックを持っているとは言いがたい。良く言えば躍動感とスケールが大きい、悪く言えば勢いだけ、とも評価できる。特にフィニッシュの精度があまり高くないことは、彼の改善点としてあげられるだろう。

そして、昨オフの代表戦から、脳震盪というアクシデントからの復帰以降、コンディション調整に苦しむチチャリートは、昨シーズンからプレシーズンマッチでもあまりキレが見られない。デビューシーズンに、ルーニーとの相性の良さもあって、強烈な嗅覚を発揮してゴールを量産してはいたものの、不調故に、この嗅覚が機能しているとは言えない状況である。長所が発揮できないことで、不得意なポストプレーの拙さが目立つようになり、デビュー時のように戻らなければ、来シーズンの放出もありうると見られている。

ファン・ペルシーの加入でウェルベックとの競争に勝てなければ、売却する要素が一番揃っているのがチチャリートだろう。

マケーダに関しても一応触れておくが、彼の居場所はおそらくないだろう。フィニッシュのみの精度で見ればウェルベックを超えるが、そこに持ち込むまでの能力がやはり伸びなかった。鮮烈なデビューを果たしたイタリア人FWも、悲しいかな、競争に生き残れそうにない。

だが、そんなFW陣のことよりも、日本人ならば香川の将来が気になる方は多いだろう。

誰もがルーニーのワントップにトップ下・香川、という図式を夢見ていたはずであり、実際にプレシーズンマッチにおいても、殆どトップ下で起用されてきた。もちろんそのパフォーマンスはプレシーズンながらも、開幕で先発に名を連ね、シーズンを通して、ピッチに立ち続けることを期待させる出来であった。しかしながら、プレミアを代表するCFが二枚揃ってしまったことで、その起用法が全く読めない。香川が活きるのはトップ下であることは疑いようのない事実であり、チームの状況は違えども、居場所がサイドにいる状態の日本代表ではあまり効果的に機能しているとは言いがたい。プレミアトップクラスのウィングが既に三枚いること、伝統的にウィングを生かしたシステムでこれまで戦ってきていることからも、前線のタレントは少々過剰だ。そんなことで私は無理にファン・ペルシの加入を勧めてはこなかった。むしろ日本人的感情もあって、プレシーズンで機能している香川の出番が、立場が怪しくなるのであればいらないだろうとも言ってきた。しかし現実にはユヴェントスが手を引いたことで加入が実現した。 こうなると前線のタレントを活かすためのフォーメーションや配置など、いくら考えてもキリがない状況なので、コレばかりはシーズン開幕とファーガソンの采配をみてから判断するしか無い。なにしろこれだけでまた別の長文レポートが書けそうである。 前線の過多気味なタレントに関しては、リスクマネジメントの意味合いが強いと見て取れる。

昨シーズン、ラスト1分で逃げていった優勝は、相当に悔しいものであった。

それでいて昨シーズンよりも手強くなりそうなシティを考えれば、いかなる試合も取りこぼすことはこれまで以上に許されない。そのために、ベンチにも強力なメンバーがいることは不可欠であり、怪我などのリスクを考えても、連戦による疲労やアクシデントによる戦力のダウンはあってはならない。ローテーションさせる中でも、確実に勝ち点を積み上げなければならないのだ。もちろん真っ先にこれが当てはまるのは言うまでもなくスコールズのポジションであるが、プレシーズンの出来を見る限り、香川が違った形でこの役割をこなしそうな匂いも無いわけではなかった。優れた技術はチームの中でも突出しているように見受けられ、センターラインで確実にテンポよくボールに絡む姿は、新しいユナイテッドを見られるかもしれないという期待感を視聴者に与えた。この点において、スコールズではなく、同じく近い距離でのパス交換を得意とするクレヴァリーとの連携がうまくいけば、全く新しいユナイテッドが見られるかもしれない。これはクレヴァリーがオリンピックでプレシーズンにいなかったこともあり、開幕してからのお楽しみである。そんなこともあってか、香川は既に独自性を発揮しており、一つのオプションとして地位を確立したように思える。

いずれにせよ、怪我がない限りは、ファン・ペルシーの加入を受けても、スタンドでチームを見守ることはないだろう。

問題は、このように前線のタレントを活かすためのセントラルミッドフィルダーの方であるだろう。

クレヴァリーの復帰もあってか、昨シーズンさんざん狙われたこのポジションの補強は、今年は見送られるだろう。当然、何もなかったわけではないが、モドリッチとマドリーが相思相愛な状況ではどうしようもなく、彼には、ロンドンから北に行く選択はないと思われる。

マンチェスター・ユナイテッドは世界の頂点を目指すクラブであり、そこには容赦なき競争が常にあるということだ。国籍も年齢も関係ない。チャンピオンを目指すものが集まり、実力によって全てが決まる。日本人であろうとなかろうと、クラブの勝利に貢献できればそれでいいのだ。同じ日本人として、香川真司が活躍することは当然嬉しいことではあるし、もちろんそうなってほしい。しかし、それが勝利という結果に繋がらないのであれば、それはしかるべき対応と判断を行われるべきである。

少なくとも私はマンチェスター・ユナイテッドのサポーターであり、香川真司一個人のファンではない。最優先されるのはクラブの栄光と勝利。昨シーズンのレアル・マドリーにもシティにも強烈なスターティングラインナップの争いがあった。ベンチメンバーやそこから漏れるメンバーでさえ、他クラブにいけば主力として即活躍が見込まれる程の実力者達がひしめいている。そういったチーム内での競争を正しく導ける指導者がいれば、チームの総合力は他クラブの比にはならない。もちろんそこには優れたタレントを持ちながらも、競争に生き残れなかった選手も出てくるし、経営的に見れば、サラリーや移籍金に莫大な支出が避けて通れない。しかし、欧州一、世界一を実現するためには必要なのだ。

ビッグイヤーを掲げた時代のことを思い出して欲しい。カンプ・ノウで欧州王者となった時、ヨーク、コール、シェリンガム、スールシャールが前線にいた。モスクワの時には、ロナウド、ルーニー、テベスがいた。こうしてみれば、ウェルベックやチチャリートではいささか小粒感は否めない。そう、サポーターや外野の意見がどんなものであろうと、やはりファーガソンが一番に勝利に対して貪欲であり純粋なのだ。

ユナイテッドにおいてオランダ人と言えば少数ながら悪い印象があまりない。スタム、ファン・ニステルローイ、ファン・デル・サール、とユナイテッドの栄光を語る上でかかせない選手ばかりだ。(ジョルディ・クライフにはあえて触れないことにする)ファン・ペルシーがスコールズからの高精度な中距離のパスをダイレクトでゴールに突き刺す姿を想像しただけで心は躍り、ルーニーとの未知数なコンビネーションが上手くいこうものなら、1トップ型が主流のこの時代に、プレミアだけではなく世界屈指の2トップとなる。そこに香川がさらなるケミストリーをもたらせば、試合ごとに喉が潰れてしまうしビールがいくつあっても足りない。

ああ、眠い目をこすりながら、iPhoneのアラームで起きる生活が開幕するのだ。必需品を確認しておこう。ビールにギンガムチェックのユニフォーム、そして熱いスピリッツ。みなさん、忘れずに持ちましたか?酒好きの私が二つの意味のスピリッツを持っていることは言うまでもない。


筆者名 db7
プロフィール 親をも唖然とさせるManchester United狂いで川崎フロンターレも応援中。
ホームページ http://blogs.yahoo.co.jp/db7crf430mu
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