香川の居場所は何処?
香川の怪我以降、ユナイテッドは連勝を重ねてリーグ戦で首位に立っている。もちろん、「香川の欠場が連勝に繋がっている」などと考えに至るほど馬鹿ではないので、ここには相関関係があるとは思わない。試合を見ても、とてもいい内容だったというわけではなく、「のらりくらりと勝ち点3を積み上げてきた」といったほうが正確だろう。そしてそれは、サー・アレックス・ファーガソンがトロフィールームを埋めてきたやり方そのものだ。
「ファン・ペルシーの移籍金を高すぎる」という人は今やどこにもいないだろう。ルーニーとの関係は試合ごとに良くなるばかりで、その左足の決定力は昨シーズン得点王がフロックではなかったことをあっさりと証明している。また、ルーニーの好調も光っている。シーズン序盤はオーバーウェイトが気になったが、故障離脱中に身体を作り直し、きっちりと調子を上げている。例年よりもエンジンがかかるタイミングが早い印象だ。そして、チームの好調の要因として外せないのがチチャリートだ。昨シーズンさっぱりだった故に、放出話も上がったが、コンディションが整ってくると、一年目の活躍が偶然でないことを結果で見せつけた。ウェルベックとの競争にもまた頭ひとつ抜け出し、「レヴァンドフスキなどユナイテッドに不必要だ」ということをファンにもフロントにもアピールしている。
さて、そんなこんなで怪我で離脱中の香川について触れようとして書き始めたコラムだが、インターネット上を徘徊していると、早くも「移籍が失敗だ」とか「居場所が無い」と否定的なコメントをちらほら見かけたりもする。そんなことを断定できる人物がいるのならば、きっとフットボール界に転職してお金をたっぷり稼ぐ方に回ったほうがその人のためである。「この段階で評価下せるほどまだ何もしてない」と表したほうが妥当だろう。個人的には「香川が焦る必要はない」と思っている。
1. 環境要因
まず、他国リーグからやってきて、いきなりプレミアの“やりかた”についていくことは難しい。例外は存在するが、偉大なる選手とはいえ、プレミアへの適応、チームへの適応に時間がかかるのは当たり前である。
あのクリスティアーノでさえ、すぐさま活躍したわけではない。エヴラでさえ、ヴィディッチさえ、活躍するまでには半年を待たねばならなかった。デ・ヘアだってそうだ。そのあたり、香川がブンデスリーガでセンセーショナルなデビューをし過ぎたことが、期待を集めすぎているのかもしれない。そういった意味でドルトムントは理想的な環境であるとも言えただろう。香川がユナイテッドに加入してからまだ半年も経っておらず、この点においても、安易に評価を下すことがいかにくだらない不毛なことか、ということがおわかりいただけるだろう。
日本代表も辞退し、ひと月ほどプレミア仕様の身体を作り直す「適応期間」をこの時期にもらったと思えば、復帰後の香川を観ることは非常に楽しみでもある。故にまだ焦る必要はないと考える。
2. システムと競争
一番心配されているのはここだろう。といってもシーズン序盤のユナイテッドの出足の悪さは今に始まったことではないし(去年は例外)チームも選手もコンディション(特に核となるルーニー)がイマイチな状態から始まればそりゃ否が応でもうまくはいかないものである。
そもそも香川は他の選手と異なり、戦術の幅を広げるために獲得された特殊枠の選手であって、そこを探っているチームと選手のコンディションが一致しなければいきなりインパクトを残す活躍をすることなど不可能だろう。ドルトムントではここが決定的に違った。
香川は一人で打開する選手でも無いし、打開できる選手でもない。言うまでもなく連携とサポートを必要とする選手である。ハマれば強いが、そうでなかった時の弱さというものは、同じような小柄なタイプであるマタやシルバ、アザールといった選手と比べると厳しい。つまり、そこに時間がかかるのは当然であり、ここにもすこし長い目で見る必要があるだろう。
さて、システムと競争に関しては好調チチャリートのお陰で、色々と話題に上がるが、シーズン通して好調というのは難しく、時期によって好調な選手が入れ替わり立ち代わりでチームに貢献すればいいわけである。全ては「チームが勝つことが最優先」なのだから。
今のところファン・ペルシーがトップに位置し、ルーニーがその下を支える様な形が一番機能しているように思われる。しかしこれとて万能ではなく、チチャリートがヒーローとなった先日のアストン・ヴィラ戦のように、引かれてカウンター狙いとされた際には、香川が活きるのではないかと思われる。怪我の前に見せた香川とルーニーとファン・ペルシーの前線3枚、という形を、ルーニーとファン・ペルシーの関係が試合ごとに良くなっている今、あらためて見たいと感じさせられる。そういった意味で、怪我以前のシーズン序盤の出来で判断するのは早すぎる。夢を持って考えてみよう。このルーニーとファン・ペルシーの良好な関係が更に進んで、そこにプレミアとユナイテッドと理解し難いスコティッシュ・イングリッシュ慣れてきた香川がさらなるケミストリーをもたらしたとしたら、よだれダラダラである。「未完成」という言葉には夢がある。
3. 復帰後は
もちろん、香川が復帰してもフィットしない可能性もゼロではないが、あまり悲観しすぎる必要も無いだろう。不利な環境や起用法があったとしても、ルーニーを超えられず、サー・アレックスを認めさせるまでの地位を確立するパフォーマンスをピッチ上で発揮できなかればそれまでである。人にもよるだろうが、筆者にとっては香川が活躍するよりもユナイテッドとしての勝利の方がはるかに重要だ。
香川とて、ユナイテッドがさらなる栄光を勝ち取るための一つの駒に過ぎないし、そういった競争なしにユナイテッドのこれまでの栄光は無いといってもいい。もちろん私は一人の日本人としてそれを乗り越えて香川が輝くことを願っているし、しかしながら一人のユナイテッドサポーターとして「優勝こそが絶対」という気持ちもある。理想はもちろん2つの同時達成であることは言うまでもないが・・・。
このコラムで何が結局言いたかったというと、私の年間のうどんの消費量が増えそうなことではなく、チームとして成熟してない開幕のパフォーマンスしか見ていないのに、決めつけてお話することは不毛ではないか?ということだ。もちろんそうなってしまうのも香川にかかる期待故なのだろうが、ここは暖かくじっくり待ちましょうよ、と。
香川が出た試合を観た人ならお分かりでしょう。香川はユナイテッドの中で誰よりも「両足」で精度の高いプレーをする。彼ならきっと出来る。
筆者名 | db7 |
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プロフィール | 親をも唖然とさせるManchester United狂いで川崎フロンターレも応援中。 |
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