決勝という舞台では得てして勝者は讃えられ、王者として祭り上げられる。多くの場合、内容云々は問われず結果が評価される。しかし今回のケースは違うだろう。この対戦で今後の欧州サッカーの流れを決めると言っても過言ではない。片や王道中の王道を突っ走り片っ端から記録を更新するバイエルン、片や今季最大のサプライズを提供しているドルトムントは王道寄りの邪道。

数年前から今日までバルセロナのようなパスサッカーが王道中の王道とされてきた。その流れに沿って多くのビッグクラブはそのスタイルを模倣してきた。バイエルンもそのチームの一つであるだろう。また我が国日本代表も確実に意識しているはずだ。

しかしバイエルンは「本家」バルセロナを準決勝で粉砕したことにより、パスサッカーは新たな局面を迎えたということをヨーロッパに示した。ボールを大事にするというスタンスは崩さぬまま、時には個人の能力を生かした仕掛けや一人一人の対人戦の強さを生かした守備はプレミアリーグのそれと類似しているがクオリティは世界でもトップオブザトップである。

一方ドルトムントは王道寄りの邪道と表現したが、それは無論彼らの得意な攻撃方法ゆえである。 彼らの1番の武器は王道であるはずのポゼッションとは対照的な速く正確なショートカウンターである。得点パターンの多くはこの形であるが、フンメルスを中心に後ろから組み立てて崩すというパターンも持っていることが邪道の中で王道寄りとした根拠である。しかしそれは「あくまで邪道」のはずだった。

この大舞台で勝ったのはバイエルンであった。

前半バイエルンはドルトムントのカウンターを恐れるあまり、いつも通りのビルドアップができずドルトムントが終始主導権を握る。しかしそこで得点を奪えなかったドルトムントはやはり前半に多くの情熱を注いでいたのか、後半プレスは弱まる。するとバイエルンはいつもの姿を少しずつ取り戻し何とか勝利を収めたのだった。

この結果からやはり邪道は王道には勝てない、邪道は流行らない、と結論づけることもできる。 が、果たして本当にそうなのだろうか?

確かに王道としたバイエルンはこの試合ではほんの少しの間しか見ることができなかったとはいえ、バルセロナをも超えるパスワークを持っている。

しかし今回の得点シーンを思い出してほしい。

1点目はノイアーのロングボールをトップのマンジュキッチが巧みなポストプレーで落としてという形で、2点目も最後方からロングボールを中央のリベリーが収めてという形であった。 これらは王道としたバイエルンの攻撃パターンというより、邪道のドルトムントの攻撃パターンといえるだろう。過去のコラムでも紹介したレヴァンドフスキ→ロイスorゲッツェといった例のあれである。

邪道は王道に屈したかもしれないが、邪道は流行らないと言い切ることができるだろうか? 答えはNoだ。

もちろんバイエルンの激しいプレスと圧倒的なポゼッションは世界のスタンダードとなったといえる。これから多くのビッグクラブはこのスタイルをベースとし、追いつけ追い抜けと試行錯誤を重ねていくのだろう。しかしドルトムントのアイデンティティでありバイエルンも見せた縦への速さこそ、世界が模倣すべきスタイルなように筆者は考える。

バルセロナが数年そうであったように今後もバイエルンのスタイルは王道であり続けるだろう。そしてドルトムントのショートカウンターというスタイルもまた別の王道として歴史に刻まれていくのだろう。


筆者名:平松 凌
プロフィール:トッテナム、アーセナル、ユヴェントス、バレンシア、名古屋グランパスなど、好みのチームは数あるが、愛するチームはバイエルン。
ツイッター:@bayernista25

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