クロスの本数でいろいろとネタにされているが、それを必要以上に引き立てているのは終了間際に追いつかれてしまったせいだろう。残念ながらこれもフットボールの面白いところでもある。

ヴィディッチの退団決定、ミュンヘンの悲劇のメモリアルデーなど、一週間に色々とあったが週末は勝手にやって来る。相手はフラムだ。

前回の対戦では前半にセンデロスをカモにしたものの後半で悪くなり後味が悪い試合だった。しかも今回、相手のマネージャーはレネ・ミューレンスティーンだ。ユナイテッドを知り尽くしている人物の1人である。彼のコメントもまたユナイテッドとモイーズを叩く良い材料となっている。

フラムはベルバトフを冬に移籍させたが、メンツを見ていればなぜテーブルの一番下に居るのかが不思議なクラブだ。レネだけに限らず元ユナイテッド組が数名。試合が始まると非常にやりにくい展開が赤いユニフォームに訪れる。

【ドン引きフラムの狙い】

試合を観た方はお分かりだと思われるが、フラムはドン引きだった。カタルーニャのあのクラブに言わせればアンチ・フットボールと呼ばれてもいいものだった。これがクロスを大量に放った理由の一つだ。

ほぼハーフコート自陣に引きこもり、ボックス内に常に5人はいた。最低でも5人だ。多い時には7人いた。ボックス内でなくともディフェンシブサードに10人いることも珍しくなかったのだ。ボックスの中は常に白かった。

戦術的にこれを真っ向から否定する気は毛頭ない。立派な戦術のひとつであるし、一歩間違えればオウンゴール大量生産の可能性がある。リスクは低いわけではない。さらに言えば非常に整備された「ドン引き」であった、と元アシスタントマネージャーを褒めるべきだろう。

サイドライン以外のアタッキングサードにてボールを持てば、ダイレクトで繋がない限り前と横と後ろからボールを狩りにやってくる。ドン引きしてもラインをあまり乱さずに複数人でチェックをしかけることで、ボールマンに自由にプレーをさせることはあまりなかった。クロスは上げさせてもボックス内の人衆が阻んでくれる。同じかそれ以上の人数がボックス内になだれ込まなければどうにかなると踏んだのだろう。もちろんカウンターがある以上そんなことができるはずがない。5−4か5−3のラインで引いていたフラムの白い壁は非常に困難であった。

【クロス総数80本以上は悪なのか】

映像の俯瞰で観てもボックス内にあの人数だ。実際に平面でみたらボックス内は白い邪魔者が無数に見えるだろう。皆さんがフットボールプレイヤーならばこれを想像していかに難しい状況かがお分かりいただけると思う。コーナーキック時に近い状況ではあるが、攻守がその時ほど同数ではない。

バルセロナのように崩せれば苦労はしないが、あのレベルのダイレクトプレーはなかなかユナイテッドには難しい。共通しないビジョンを前提に細かいパス交換はミスとしてカウンターを与えるきっかけになる。そういったこともあって大量のクロスになったのだろう。もちろん効果的でないただの放り込みもあったが、明確なクロスも何本もみられた。タラレバや理想を言えば横からのクロスだけではなく、縦の出し入れをもっと行って揺さぶるべきだった、もっとミドルを打っていくべきだった、などと言えるのだろうが、これを実際にピッチでやるには口で言うほど簡単ではない。クロスのみと言われても、クロスが一番シンプルな方法、可能性がある攻撃方法であったことを否定は出来ない。コーナーキックになればセットプレーでの得点も期待できる。実際に10本を得ており、惜しい場面の何度かあった。問題はクロスの質ではなく、クロスまでに持っていく形と速さだった。

ドン引きされているとはいえクロスに持って行く過程において、サイドにボールを運ぶまでの手数とテンポがかかり過ぎているために、フラムの最終ラインが待ち構えてからのクロスになってしまっていることが多く見られた。以前、シンプルにサイドアタックでいいのではないか、という趣旨の文をコラムに載せたが問題はここだ。早目に深い位置からクロスを入れたり、ファーを意図して折り返しを押し込む、といったクロスもあったが、それ以外の駆け引きがうまくいかなった。押してもダメなら引いてみろ、と言いたくなるところだが、引いても出てきてくれないのでは難しい。もっとも、そこをどうにかするのが指揮官の大きな仕事の一つではあるのだが。

【攻めないことが攻めに繋がる】

実際には苦しみながらも勝ち越して勝ちゲームだったが、最後の最後でミスが出て追いつかれてしまった。失点は2つともミスからである。

最初の失点はフレッチャーのマークミス。ヴィディッチがボールサイドに釣り出されて空いたスペースに走りこまれてしまった。実にシドウェルにとってはごちそうなスペースだっただろう。

思い出したくないベントのゴールはヴィディッチのクリアミスから、キャリックが一瞬緩んだところを後ろから掻っ攫われてしまった。デ・ヘアにすれば悪夢だ。フラムのシュートはこの日6本、うちオンターゲットはこの時の2本とシドウェルのゴールのみなのだから。攻めないことが相手を苦しめ効果的なチャンスを生み出す。ポゼッションが75%−25%、シュートは31−6、パスコンプリートは598−136、アタッキングサードでのパスは実に282−44、であった。しかし結果はドロー。フットボールの非常に面白い部分ではあるが、今回は私を楽しませるものではなかった。

おそらくサー・アレックスがマネージャーの席に座っていれば勝てた試合だっただろう。ただしやり方はさほど変わらずに勢いで押し切る形ではないかと思われる。モイーズのやり方に批判が集まり、単純だと言われることを否定する気もない。クロスがダメならさらにクロスを、そして圧力をかける交代策であったことは事実だ。ただ、チャンスの回数と質を考えれば大量得点でもおかしくはなかった。フラムにも余裕があったかと言えばそうではない。もちろんユナイテッドに余裕が無く見透かされている感が漂っているのは間違いないだろう。紙一重の結果がついてこないことが悪循環を生み出しているとも言えなくもない。その紙一重がとても分厚いのか薄いのか、それがサー・アレックスとモイーズの差なのか。

結果を出してナンボの世界であるからモイーズを必要以上に擁護するつもりはない。結果が出なければ英国中のみならず欧州中から批判と中傷の嵐にあう、それがマンチェスター・ユナイテッドというクラブの存在の大きさを表している。ただしこの日、“We’ll never die”と叫び掲げたことを忘れてはならない。どんな苦しい状況にあろうとも、この言葉を胸に何度でも立ち上がる。それがマンチェスター・ユナイテッドである。


筆者名:db7

プロフィール:親をも唖然とさせるManchester United狂いで川崎フロンターレも応援中。
ツイッタ ー:@db7crsh01

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