初めまして、古家政夫と申します。この度、Qolyさんでコラムを書かせて戴くことになりました。Jリーグ、プレミアリーグ、リーガ・エスパニョーラ、セリエA、エール・ディヴィジを中心に気になったチームやゲーム、選手について書いていこうと思います。 稚拙な文章ですが、御付き合いのほど宜しくお願い致します。



欧州サッカーのシーズンも残り僅かとなってきた。各リーグ優勝争いやCL、EL権の争奪戦が激化している中、例年以上に盛り上がっているリーガ・エスパニョーラ。昇格してきたクラブが好順位までに登り詰め、ファンの脳裏にしかと爪痕を遺すことも珍しくないリーグでもあるが、今季はなんといってもビジャレアルを語れずには終われないだろう。

昨季2部に降格、再出発を図るためにロッシやディエゴ・ロペス、ボルハ・バレーロ等を売却。1年でプリメーラ・ディビシオンに無事復帰したが、夏にセナらを放出してベテランではなくカンテラを活かしたチームを文字通り一から作り始めた。

そのチームを任されたのがマルセリーノ・ガルシア・トラルである。ラシン・サンタンデールやセビージャ等を指揮した経歴の持ち主で〝新しきラファエル・ベニテス〟とも呼ばれる戦術家。マルセリーノ監督はインタビューで「バルセロナのようなフットボールをするには金がかかる」と仰っていたが、筆者自身は今シーズンのビジャレアルも決してひけをとらない魅力的なフットボールを展開していると考えている。それはどういったものか、以下にビジャレアルのフットボールについて記そう。

【ビジャレアルの戦術と課題】

マルセリーノのフットボールは基本的に堅守をベースとしたものであるが、最終ラインは高く定められおり、中盤との距離感が非常に密なことが多い。今季のビジャレアルもそういったマルセリーノの教えがきっちり練り込まれている。

戦術システムは熟成された4-4-2のプレッシングサッカーの一言に尽きるだろう。以前のビジャレアルといえばポゼッションサッカーのイメージが強いと思われるが、明らかにダイレクトプレーの頻度が増した。とはいっても、ポゼッションを切り捨てた訳でもなく、相手や状況によってボール支配に拘らず展開力のあるフットボールに切り替えられる強みも特徴の一つと言える。なにより統率力が際立つ高い位置からのショートカウンターは切れ味抜群である。そして、バイタルエリアに近づいた時のコンビネーションのスピードはリーガの中でも一際輝いているように筆者は思う。それを可能にしているのが徹底的に選手達に叩き込まれたマルセリーノの戦術だ。

トップ2枚を務めることが多いドス・サントスとウチェが中盤に降りてきては、トリゲロス、ブルーノといったテクニカルなダブルボランチで中央に厚みを作り、攻撃の舵を切る。ブルーノとトリゲロスがやや縦関係になり、ブルーノの浮いたポジショニングが相手のマークを惑わし、そのスペースを利用してビルドアップを促進させることが多い(ブルーノが運動量の多いピナとコンビを組むときはよりこの動きが顕著に)。相手ブロックがスライドするよりも速くにワイドなサイド攻撃がモットーであり、前線の2枚がサイドに流れて受け相手DFを誘い出し、その空いたスペース、具体的には相手のSBとCBの選手間を抉るようにSBでもあるヨキッチやハウメ・コスタがオーバーラップを仕掛けて、相手CBを引っ張り出してブロックをずらし、そこを突く、というシンプルかつ非常に組織力の光るフットボールが特徴だ。

また前線の2枚でもあるウチェやドス・サントスは裏抜けの意識も高く、SHのカニやモイ・ゴメスのとこで多くの起点を作った場合、相手が早くにそこを潰してくるが、その空いた背後をウチェ等が常に狙う動きをすることで、SBやボランチから素早くボールを供給し敵陣深くに侵入して相手に脅威を与え、結果を出してきた。

一見、完成度の高いフットボールを実践しているが当然課題もある。それが特に浮き彫りになったのはアウェーでのグラナダ戦とエスタディオ・デ・メスタージャで行われたバレンシア・ダービーであった。

先ず前者はドス・サントスが不在であり、前線の選手が中盤に降りてくる頻度が減りミドルサードでのパス回しがいつもより距離感が悪く効果的では無かった点を挙げたい。前線の裏を抜ける意識ばかりが先行してしまい、中距離パスが増えて簡単に弾き返されるという単調な試合運びになってしまった。若いタレントが躍動するチームなのでそのまま『若さ』が出た試合だった。

次にバレンシアとのダービーであるが、この敗戦はバレンシアのスカウティングの結果と言える。バレンシアは4-1-4-1のシステムを敷き、ビジャレアルのパスワークを分断させてはウチェやドス・サントスがサイドに流れて受ける場面を全く作らせなかった。

そして、ビジャレアルのプレッシングを上手く掻い潜られてはオリベル・トーレスとハウメ・コスタの間延びしたスペースを効果的に使われ、フェデを中心に危険な場面を何度も作られた。そうして右サイドが押し込められ、SBのオーバーラップが生命線でもあるビジャレアルは狙った攻撃の形が出来ず、ズルズルと試合の主導権を明け渡すことになった。ダービーまでのここ数試合、一貫してシステムは4-4-2のままだったがサイドの人員などを変更していたこともあるだろう。ボランチが狙われたSHとSBの間のスペースをケアするようなポジショニングを取るのか、それともSBがより押し上げるべきなのか、もっとSHが降りてきた方が良いのか、という約束事がチーム全体に浸透していなかった点と守備時の個人での対応力の脆さを露呈した試合だったと言える。

【天才オリベル・トーレス】

 

今季のビジャレアルは序盤に多くのポイントを稼ぎ、レアル・マドリーやアトレティコ・マドリー相手に勝ち点1を分け合うといった目覚ましい躍進を遂げ、チームのキーマンでもあるファンタジスタのカニの負傷離脱という打撃の際にも若手が台頭。チームは好調を維持して回っていた。何とも嬉しい誤算が続いていたが、それ以上に大きなサプライズを与えてくれたのがオリベル・トーレスの加入である。

冬のマーケットでアトレティコから出場機会を欲してレンタル移籍してきた弱冠19歳の青年はアトレティコのカンテラが生み出した至宝だ。密集地帯をまるで苦にしないキープ力に広い視野とそのプレーの選択能力とその正確性はまさに非凡なセンスの一言。ダイナミックな展開力にまるで七色に蹴り分けられるかのようなパスはピッチを広く使う事を容易にし、味方からの信頼もすぐに得た。ベティス戦の途中出場以降、即座にアキーノやモイ・ゴメスとのレギュラー争いに加わり、右サイドを主戦場としてコンスタントに出場してはビジャレアルに新たなアクセントを付けている。

モイ・ゴメスやアキーノが出ていると4-4-2のワイド感が増すが、オリベル・トーレスは中でのプレーを好むようで2人よりも中央に絞る動きが多く、持ち前の技術を駆使して敵陣のサイドの深い所へダイナミックにボールを供給。またキープ力の高さがより際立つ中央では厚みのある攻撃を作り出す等とプレーの幅広さが目立つ。フィジカル面ではまだ物足りなさは否めないが、それは今後の課題として長い目で見た方が良い。もし改善され、より経験を積み天才的な技術に磨きがかかった時を考えるだけで胸が躍るはずだ。

この記事を書いている時点でビジャレアルは7位に位置している。一時期はCL権を争っていたが、ここ10試合で2勝と大ブレーキが響き徐々に順位を落としており、怪我人の続出やサスペンションの影響でフルメンバーがなかなか揃わない苦しい現状だ。

しかしそれでもEL権は目と鼻の先であり、現実味が帯びつつあるのもまた事実である。来季、欧州という荒く広大な海に〝黄色い潜水艦〟は挑めるのか。三強による優勝争いも気になるが、是非ともこちらにも注目して欲しい。きっと貴方を虜にするだろう。


筆者名:古家政夫

プロフィール:初めてフットボールに触れたのは98年仏W杯から。Jリーグ、プレミアリーグ、リーガ・エスパニョーラ、セリエA、エール・ディヴィジを観戦する日々を送る。各リーグに好きなクラブが存在する為、困ったことに『心のクラブ』が一つではない典型的なミーハーを自負する。
ツイッタ ー:@505room

【厳選Qoly】日本代表、「初招集」と驚きの「電撃復帰」があるかもしれない5名