◎切り札はやっぱりこの人?

FIFAが取りうるもう一つの可能性は、「大事な試合はやはり欧州の審判で」と考える事です。

審判の選出方法を改革した2006年以降、3大会で各大陸連盟の主審がどの段階の試合をどれだけ担当したのか、主審1人当たりの担当試合数を示す折れ線グラフと一緒に並べてみました。

<図1>2006年ドイツW杯の大陸連盟別主審担当試合数
(カテゴリー別=左軸・棒グラフ、平均担当試合数=右軸・折れ線グラフ)

<図2>2010年南アフリカW杯の大陸連盟別主審担当試合数
(カテゴリー別=左軸・棒グラフ、平均担当試合数=右軸・折れ線グラフ)

<図3>2014年ブラジルW杯の大陸連盟別主審担当試合数
(カテゴリー別=左軸・棒グラフ、平均担当試合数=右軸・折れ線グラフ)

これを見ると、各大陸連盟は明らかに3つのグループに分かれます。2010年にはニュージーランドから呼んだ2人のうち、今回はナイジェリア-ボスニア・ヘルツェゴヴィナ戦を担当したピーター・オレアリーには回らなかったオセアニアのOFC、それにアフリカのCAFは、担当試合数も少なく、決勝トーナメントでの起用はブラジル大会で1回戦のベルギー-アメリカを吹いたアルジェリアのジャメル・ハイムディだけです。

一方、たとえいろいろな対立があっても、FIFAはやはり、最後にUEFAを頼ります。それは1月のコラムでも出した1998-2014年の大陸別主審数と、2006年以降の3大会での決勝トーナメントでの試合割り当てを見ればすぐに分かります。

<図4>1998-2014年W杯の大陸連盟別主審選出人数

<図5>2006-2014年W杯の決勝トーナメントにおける大陸別の主審割り当て


※図中の黄色い☆は決勝、灰色の☆は準決勝を担当した連盟。

2002年のトラブル後、2006年大会からは審判の質の確保を目指してきたFIFA。<図1>~<図3>でも分かるように、UEFA出身の審判には決勝トーナメントで重点的に割り当てるようになっていました。2006年は他大陸審判枠の大幅削減への見返りもあってか、準決勝以上の4試合は全てUEFA以外(3位決定戦は日本=AFCの上川徹主審)でしたが、2010年には準決勝でハンガリーのカッシャイ・ヴィクトル、決勝ではイングランドのハワード・ウェブが登場しました。今回も既に終わった14試合の半分、7試合でUEFAからの主審が担当し、CONMEBOL・AFC・CONCACAFの3連盟を引き離しています。

そして、今回も参加しているハワード・ウェブは<表1>の通り、まだ2試合しか登場していません。GLのコロンビア-コートディヴォワールと、決勝トーナメント1回戦のブラジル-チリ。少なくとも「欧州の笛」に慣れているKickerではそれぞれ2.5点と1.5点という非常に高い評価を受けていましたし、現在残っている15人の中でGLを1試合しか担当しなかったのはウェブと西村の2人だけ。何か突発的な事態のために、FIFAは最後に切り札を取ってあるのではないでしょうか。

ただし、今まで2度、W杯の決勝を担当した主審はいないのです。ウェブの実績は申し分ないだけに、それがかえってネックになるのでは。なので、あくまで「何かあった時の緊急要員」という扱いでしょうが……。


2010年のW杯後に公開されたドキュメンタリー映画、「レフェリー 知られざるサッカーの舞台裏」。
EURO2008での判定を巡って批判されたウェブが主役。

【次ページ】過去の一覧から改めて予想する