しばしば圧倒的なポゼッションを誇るチームが派手に散る度に『ティキ・タカの死』や『ポゼッションサッカーの終焉』と言われ、ソリッドなカウンターと華麗なパスワークを持ち合わせたハイブリッドなチームが最近は目に見える結果を出してきた。引き出しの多い幅のあるチームが勝つべくして勝っている現状だ。

多くの人が知っているようにこれまでスペインはバルセロナ流のフットボールを代表に上手く落とし込み、ポゼッションサッカーの最先端として走っていたが、さきのブラジルW杯ではオランダやチリの強度の高いマンマークによりスペインらしさは封じられて惨敗を喫した。そして彼らのフットボールはスタイルに囚われすぎたある種の異端として認識されるようになった。W杯での屈辱と同時に時代を築いたポゼッションサッカーの申し子でもあるチャビ やシャビ・アロンソ、ビジャといった柱が代表引退を表明した今、スペイン代表は文字通りリスタートを切ることに。

新たな代表を率いることを期待されているイニエスタを欠いた直近のフランスとの親善試合は敗れ、ラ・ロハを率いるデル・ボスケに疑問の声は当然のように集まった。連携の拙さが目立ち、結果の出ないジエゴ・コスタの起用にも風当たりは強くなっていく中、欧州を熱狂させるEURO予選は始まりを迎えた。過去35試合EURO予選負けなしという圧倒的なデータがあったが、あの日から失った信用を取り戻す為にホームの観衆の前でピッチ上で表現できるか。スペイン代表にとってはただの予選の1試合ではなかったはずだろう。それ以上の重みがあったのは想像することも難くない。

マケドニア相手に自分たちのスタイルを誇示する必要がスペインにはあったのだ。

【ホームで示したスタイル 新しい風】

結果から見れば5-1の完勝。バルセロナの新星でもあるムニルに誇り高い赤いシャツの袖を通させるほどの余裕を見せたものだった。マケドニアの守備を破綻させたスペインの見事な新たな門出には相応しい結果である。試合について述べていこう。

スタメンはカシージャス、セルヒオ・ラモス、アルビオル、ジョルディ・アルバ、フアンフラン、ブスケツ、セスク、コケ、ペドロ、シルバ、パコ・アルカセルの11名。スタメン発表時は誰しもが従来の4-3-3だと思っていただろう。しかし、試合が始まると予想は裏切られる。パコ・アルカセルとペドロの2トップにその下にシルバを置き、底にブスケツ、その斜め前の両側に位置するようにセスクとコケによるダイヤモンドの布陣であった。

対するマケドニアは5-3-2(スペインの4-3-3の横幅対策で5バックを採用したが予想は外れる)でキックオフ開始から前からプレスをかけるものの、セルヒオ・ラモス、アルビオル、ブスケツ、降りてくるセスク、コケ、両SBのサポートもあって、数的優位を保ちながら中途半端なプレスをかけたマケドニアの穴を使って容易にボールを回す。基本的にスペインは両SBを高く位置させて、底にいるブスケツ、セルヒオ・ラモス、アルビオルの3枚(ブスケツが前の方に出ていったならファンフランがするすると戻る)を残し、60%を超えるポゼッションで相手の攻撃機会を減らして、ボールを失っても早いネガティブトランジションでリスクマネジメントを図っていた。するとマケドニアは前からプレスをかけることを止めて、自陣撤退してスペースを消すようにしていたが、2トップのパコ・アルカセルとペドロがコンパクトにさせることを阻むためにラインを上げさせないように裏を取る動きをして、シルバからスルーパスを何度も引き出す。

スペインはなるべく時間を作れてキーパスの出所となり、狭いエリアでも窮屈さを感じさせないシルバに気持ち良く攻撃のタクトを振らせるためにオープンな状態に上手く持ち込ませようとする。コケ、セスク、ブスケツのコンパクトなダイヤモンドでボールを引き出すように降りてきたらそこをすぐに埋めたりとバランスを失わずに誰もがポジションチェンジをしてジョルディ・アルバやペドロのサポート(逆サイドのフアンフランはバランスを取り、パコ・アルカセルはCB付近に)も駆使して小さなパスでボールを動かし、時間を作りゾーンディフェンスを行っているマケドニアのDFの背後にポジショニングして、ゾーンの境目で間受けを運動量もあって黒子に徹することが出来るコケを中心に潤滑的に行い、シルバを何度もオープンにさせた。シルバが降りてきたらセスクがトップ下に入り、ラストパスの出所をシルバだけではなく照準を絞らせないようにする工夫もあった。

そして執拗な中央突破でサイドへの意識を薄くしたら、トップ下の位置にいたシルバが2トップにボールを供給するとマケドニアのCBの脇に顔を出して、高い位置を取ってWGのように横幅を作っているジョルディ・アルバと連携。シルバの居たところにコケかセスクが空いているバイタルに入って、ジョルディ・アルバのダイアゴナルな動きを引き出し、SB-CB間を抉ってマイナスのクロスを多く供給させる場面が多く観られた。

マケドニアがボールを持った時は、パコ・アルカセルとペドロがワイドに開き、シルバが真ん中に入って4-3-3にしてプレッシングラインを上下。マケドニアがビルドアップでSBを使って前にボールを運ぼうとするときはジョルディ・アルバといったSBが積極的にプレスを掛けて牽制していた(コケがSBの位置に入る) 。底にいるブスケツが潰し切れず、相手にドリブルなどで剥がされた時やサイドの薄いところはアルビオルがカバーに入って危険回避をするなどで、速いトランジションと距離感の近いダイヤモンドのポジショニングもあって整理されたようなバランスの良さが目立っていた。

デル・ボスケはW杯で無惨に敗れたスペインの美学をよりポゼッションを高めることで支配し、中央突破に磨きをかけることを選んだのである。決定力不足やW杯の結果で失った信頼はスペインの不変的なこのスタイルでしか取り戻せないと言わんばかりに。この一試合はラ・ロハのティキ・タカが新たに確かな一歩を踏み出したのと同時にポゼッションサッカーの終焉という雑音を払い除けるための戦いへの幕開けを予感させるものだった。

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