トッテナムが中央を固めたもう1つの理由。

当然中央が念入りに封鎖されることになれば、アーセナルはサイド攻撃に移行していくことになる。実際、アーセナルは試合を通して45本のクロスを放っている。

これが、アーセナルのメンバー構成を見た上でのポチェッティーノの選択だった。まずは、シンプルにアーセナルのサイドバックがセンタリングを得意としているタイプでは無かったということが1つだろう。実際キーラン・ギブスは積極的に攻め上がり、多くのクロスを蹴ってはいたものの、チャンスに繋がる回数は少なかった。カラム・チェンバースは本職がCBであることもあって攻撃参加回数自体が少なく、試合の中で狙った2本のセンタリングも成功していない。

■キーラン・ギブス

■カラム・チェンバース

当然、長身で空中戦を得意とするフランス人FWオリビエ・ジルーの不在も1つの理由だ。どちらかというと立体的な空中戦よりもスペースへの突破を得意とする新加入のウェルベックであれば、エリア内に侵入されてもCB陣でしっかりと抑え込める。更に、CBとしてプレー出来るフランス人MFカプエの存在がトッテナムにおいて空中戦における保険となった。状況に応じてDFラインに入ることで守備をサポートする彼の働きで、CB陣が積極的にボールにチャレンジ出来るようになり、何度となくアーセナルのセンタリングを跳ね返していったのだ。

アーセン・ヴェンゲルの策。ウェルベックがもたらした新しい武器

一方でアーセナルは、前線に起用したウェルベックの運動量を生かす方向で戦術を微調整していた。

イングランド代表でも活躍するダニー・ウェルベックは、豊富な運動量と桁違いのフィジカルを生かした前線からの守備にも定評がある。マンチェスター・ユナイテッド時代には、CLにおいてバイエルン・ミュンヘンを苦しめたように、彼の前からの守備貢献は既存のFWであるジルーやポドルスキにはない新たな武器だ。彼がCBをキッチリ抑えてくれることから、アーセナルは一気に両サイドバックに狙いを定めた。ダニー・ローズとカイル・ノートンは両者とも前に上がっていく勢いで勝負するタイプで、後ろで組み立てを助けるのが得意なタイプではない。そこにラムジーとウィルシャーの2人を走らせ、トッテナムが攻撃する時間を奪い取る。また、このスタイルは同時にアーセナルの選手達の弱点を補うという効果もあった。ラムジーとウィルシャーは、フィジカルコンタクトを厭わず、激しいボール奪取を好むプレイヤーである一方、中盤の底でのポジショニングなどにはミスも少なくない。だからこそ、中盤の底ではなく高い位置で2人の特性を生かそうとしたのである。

前半4分の場面は印象的だ。前線に4人が残り、ウェルベックがバックパスを妨害に走る。そして、右サイドバックがボールを持つと共に一気にチャージをかけている。ウェルベック、エジルに加えて、ウィルシャーやラムジーの推進力を生かして前から仕掛けていくことで、相手のサイドバック陣を狙い撃った。この策の狙いは「トッテナムのボールを高い位置で奪うこと」だけでなく、相手にボールを持たせる時間を極限まで減らし、後半で勝負をかけることでもあった。実際、後半アーセナルは満を持してアレクシス・サンチェスを投入。終盤に疲労したトッテナム守備陣を切り裂き、何度となくチャンスを作り出している。

ポチェッティーノにとっての誤算は、アーセナルが前線から積極的にボール奪取を狙ったことだろう。運動量を必要とする守備戦術を選択したことから、自分たちがボールを持っている時には休む時間帯も作りたかったところだったはずだが、そういった時間がサイドバックへの厳しいプレッシャーで奪われてしまった。とはいえ、ノースロンドンダービーは2チームの指揮官が相手を尊重し、様々な策を尽くしたという意味で非常に興味深い試合となった。アーセナルも後半に攻撃のギアを上げることを念頭に置いていたとはいえ、前半に完璧に近い形で抑え込まれたことは誤算だったはずだ。

今回は1-1という結果に終わった両者の対戦。願わくは、この2人の指揮官によるノースロンドンダービーが長く続いていかんことを。


筆者名:結城 康平

プロフィール:「フットボールの試合を色んな角度から切り取って、様々な形にして組み合わせながら1つの作品にしていくことを目指す。形にこだわらず、わかりやすく、最後まで読んでもらえるような、見てない試合を是非再放送で見たいって思っていただけるような文章が書けるように日々研鑽中」
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