Champions League。

欧州フットボールにおいてクラブの覇を競うこの大会は、戦術の最高峰、最先端の潮流が見られる場でもある。

各国の代表が競い合うW杯と比べて、チームに戦術を浸透させる準備の時間が十分にあり、尚且つ比較すると指揮官のレベルも高い。欧州ベスト16クラスにもなれば、多くの指揮官が十分な経験を積んでおり、国内ではトップクラスの指揮官と評価される傾向がある。そういった観点から見れば、当然の帰結とも言えるだろう。

今回は、PSG対チェルシーの初戦(1stレグ)を題材に、PSGの中盤が仕掛けた「緩急」について考えていきたい。攻撃的なフットボールでプレミアを席巻している、ジョゼ・モウリーニョの新生チェルシーを相手に試合をコントロールしたPSGは、一体どんな罠を仕掛けたのだろうか。

相手にプレッシャーを与える「急」。

まずは、いくつか解りやすい場面を紹介しよう。

チェルシーのサイドバックが高い位置を取ると、3トップのウイングであるラベッシ、カバーニが両翼である程度マークに付けるポジションに下がる。それに合わせて、セスクがDFラインに近い位置まで引いていく。中盤である彼がサイドバックより下がったポジションを取るこの場面、普通であればフリーで受けられることが多いが、ここでPSGの3センターの1人であるヴェッラーティがプレッシャーに出ている。

チェルシーの得意とする低い位置での組み立てを簡単には許さない。

これが、PSGの送った1つの重要なメッセージだった。ここにプレッシャーが強くかかり過ぎれば、後ろが疎かになるし、逆に全くプレッシャーが無ければ全体を押し上げて攻撃しやすい状況を作り出すことが可能。だからこそ、PSGは緩急を付けるように適度なプレッシャーを目指した。常にプレッシャーをかけるのではなく、時には下がり、時には厳しく潰しに行く。

これも似た場面と考えて良さそうだ。セスクがDFラインの前でボールを受けるが、ヴェッラーティが迎撃するようにプレッシャー。チェルシーのラインは低く、セスクの位置でボールを持つことで時間を作って、ラインを上げていくプレーを地道に妨害している。

時には3トップのラインを超えてまでプレッシャーをかけている辺り、PSGの積極性が伺えるはずだ。

この場面ではヴェッラーティは、ラミレスを見ている。解りづらいが首を振ることでセスクの位置も確認しており、その位置であればラベッシが追いつけると見ているようだ。このようにヴェッラーティは、セスクが下がった時以外でも、中盤の高い位置での守備を担当する意識が強かった。

これは典型的な迎撃。この迎撃によって、「セスクに前を向かせない」という最も重要な仕事をこなした場面だ。マティッチは、組み立てをセスクに任せて前に出て行こうとしており、完全にセスクがプレッシャーをかけられた事で困っている。

イブラはラミレスへのパスコースを封じており、これによってバックパスしか出来ないことに。そうなってしまえば、当然ラインは上がらない。

今まで挙げた例が「緩急」の「急」となった部分と言えるだろう。底に落ちていく選手に厳しめに当たっていくことによって、彼らに考える時間を与えない。これによって、チェルシー全体の押し上げを阻害したのだ。

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