前編で説明したように、フランス人FWベンゼマが見せた華麗な動き出しが閉ざされたユベントスの守備を抉じ開けた。チリ人MFアルトゥーロ・ヴィダルを誘い出し、喉から手が出るほど欲しい先制点を手にしたレアル・マドリード。世界屈指の攻撃力を誇る彼らが、ここからユベントスの守備陣を蹂躙する展開もあるかと思われた。

カルロ・アンチェロッティが率いる白い傭兵集団の牙が、「CL最強の盾」とも称されるユベントスのDFラインに傷をつけたかに見えた。

しかし、マキシミリアーノ・アッレグリはカルロ・アンチェロッティとの読み合いの中で策を練っていた。彼は、前半のフットボールの中でアンチェロッティからのメッセージを、どのように受け取ったのであろうか。そして、それに対して彼が導き出した返答とは。

それを読み解いていくためには、前半でのレアル・マドリードの守備を説明することから始めよう。

ユベントスを誘い込む、カルロ・アンチェロッティの甘い罠

レアル・マドリードは、縦に出ながらの潰しで存在感を発揮できるセルヒオ・ラモスとラファエル・ヴァランの2人をCBに起用。ポルトガル代表CBペペを外してまで、アンチェロッティは機動力に勝るコンビを選択した。

それには、ユベントスの攻撃陣の特性が深く関係している。

カルロス・テベスとアルバロ・モラタの2人はどちらかという万能型のFW。プレーの幅は広いが、圧倒的なスピードで裏に勝負をかけるようなプレーや、ドリブルによって1人で相手数人を引き離していくようなプレーをこなすタイプではない。中央からオーバーラップを見せる中盤も、スピードやドリブル能力に優れた選手がいる訳ではない。

だからこそ、カルロ・アンチェロッティは積極的に2枚のCBでFW2人を食い止めていく策を採用する。当然リスクはあるものの、機動力のあるCBを揃えることで裏への走り込みを潰していくことが可能という判断である。

本来はDFラインのすぐ前で守備のバランスを取るべきクロースが高い位置に出て、相手を潰しに行ったのもそれに関連している。DFラインと中盤の間で相手のドリブルを誘い、機動力のあるCBで迎撃。中盤の戻りで挟み込んで潰し、そこから更に波状攻撃を仕掛ける策だ。

例えば相手にアリエン・ロッベンやリオネル・メッシがいたら、アンチェロッティは違った策を採用する必要があるはずだ。圧倒的な加速力で裏を狙う全盛期のフェルナンド・トーレスの様な選手も、この策を打ち破る可能性が高い。

「CBで足を止めれば、中盤で追いつくことが出来る」「裏で勝負されてもCBで対応が可能」というタイプの攻撃陣だという判断で、カルロ・アンチェロッティは勝算を持って博打を打つ。

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