プレミアリーグにおいて、アーセナルの指揮官アーセン・ヴェンゲルの次に在任期間が長かったブレンダン・ロジャースの解任に伴うユルゲン・クロップのリバプール就任は、ヨーロッパのフットボール界を大きく揺るがした。

多くの選手達が代表戦に出かけ、新聞としてはネタが少なくなりがちなインターナショナル・マッチウィークに飛び込んだビッグニュースに、英国紙、ドイツ紙だけでなく、ヨーロッパ中のフットボールジャーナリストが嬉しい悲鳴を上げたのである。

モチベーターとしても高い評価を受ける若き指揮官は、「我々は、変わらなくてはいけない。成功を疑う者から、信じる者に変わらなくてはいけない」と力強く宣言し、リバプールの街に早々に熱狂をもたらしている。

「私は24時間、7日全てをリバプールに費やす男になる」という就任前日の言葉通り、リバプールに到着した次の日にU-18チームの視察に訪れたことも若きドイツ人指揮官がサポーターから愛される1つの要因だろう。寝癖を直すこともなくU-18のチームを真剣な瞳で見つめる姿からは、フットボールへの果てしない愛を感じさせる。

ドルトムントを率い、ヨーロッパの舞台で実現した美しい御伽噺<おとぎばなし>を、リバプールの地で再現することを多くのサポーターが信じているのだろう。UEFAチャンピオンズリーグの舞台に戻ることだけでなく、彼らはその先に広がる遥かなる未来を夢見ている。

トッテナムの指揮官ポチェッティーノは、試合前にこう語っている。

「クロップは素晴らしい指揮官で、ドルトムントでは明確なアイディアと共にプレーしていた。準備期間が短くても、哲学をある程度チームに浸透させてくるだろう」

「志向するフットボールが似ている」と語るアルゼンチン人の若手指揮官は、準備の時間が大きな障害にならないことを自らの経験から知っていた。

今回は、ユルゲン・クロップのデビュー戦となったリバプール対トッテナム・ホットスパーの試合を題材として、彼の戦術的特異性について考察していこうと思う。

ドルトムントにおいて、彼が加えた小さな変化は欧州のフットボールを大きく変えていった。それはまるで、「1匹の蝶の羽ばたきがテキサスで竜巻を引き起こす」バタフライ効果の様に。

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