ティエリ・アンリとの2トップにより、アーセナルの黄金期を築き上げた元オランダ代表のFWデニス・ベルカンプ。

彼は現役時代に“アイスマン”という異名で知られたが、その名の通り、その鋭い眼差しと背筋が凍るほどの冷徹なプレーぶりで対峙したDFを無慈悲にも“死”に追いやった。

特に有名なのはボールを止める技術、この世界では「トラップ」と言われるものだ。今回は、彼がDFを地獄へと葬り去り、世界を震撼させた3つのトラップをその哲学とともに紹介しよう。

冷徹なまでのリアリスト

「トリックは好きじゃないんだ」

敵を欺く足技や派手なフェイントはサッカーにおける魅力の一つであろう。

ベルカンプも数々の伝説的なプレーで観衆を酔わせたが、実は彼の哲学はそんな価値観とは全く相容れぬものだった。

こちらは1996年11月、トッテナムとのノース・ロンドン・ダービーでの一幕だ。

見てほしいのは最後の場面(1分10秒~)。右サイドから送られたクロスはやや長いものだった。しかしベルカンプは、まるで手で操るようにボールの勢いを殺し、それと同時にDFを“瞬殺”。宿敵からあっさりとゴールを決めてしまったのだ。

「私の試合はファーストタッチ、コントロール、パス。“芸術のための芸術”はつまらない」

ただ止めることが得意な選手であれば珍しくはない。機能美を徹底的に好むリアリストの彼は、トラップの先に繋がるプレーにこそ価値を見出していたのである。