――実際にハノイFCを率いることになって現地に足を運び、練習や試合を重ねた中でその印象に変化はありましたか?
「来てみて思ったのは、一昔前の日本に似ているということ。ベトナムサッカーで伝統的に行われきた、所謂守ってカウンターという形から脱却したい気持ちがあるのかなと。僕のような日本人指導者をハノイFCが求めていたのも、その一つなのかなと思います。そういうサッカーを植え付けた上で勝たせる監督が求められていて、そこの部分を期待されていると思います。
クラブや協会というよりも、選手たちからそれを強く感じますね。選手たちの特徴として、身体が大きかったり、フィジカルに優れたりというスタイルではないので、カウンターよりもポゼッションを意識して、ボールを動かしながら連携で崩していくような本来の日本が得意とするサッカーを目指している。それは来てみて初めて感じたことではあります。選手たちは素直で、監督がやろうとすることを頑張って実践しようとしてくれるし、指導者としてはやりがいがある。そこも日本と似ていると思います」
――ハノイFCは、昨シーズンまで指揮されていた鹿島と同様、常に優勝争いが期待されているチームですが、今シーズンは黒星が先行しています。就任に際して今シーズンのほぼ全ての試合を観たとのことですが、チームが抱えている問題点は何だと感じていますか?
「開幕後すぐに(ボジダル・バンドヴィッチ)監督が退任され、そこから正式な監督を置いてなかったという話なので、クラブ全体の方針が定まらない中、ここまでずるずる来たんだろうなというのがあります。色々な戦術的なこともありますが、まずは方向性を定めて、選手間でしっかり共有することで改善されると思います。
現代サッカーがどのように成り立っているのか、選手たちはまだ感覚的に持っていない。従来の守ってカウンターでは、4局面の整理がつきやすいですが、ここにポゼッションでボールを動かすという作業が入ってくると、4局面の繋げ方がとたんに難しくなるのが現代サッカーで、それぞれの局面に色々な判断が生まれる。各局面をどう整理したら、コンパクトさを維持しながら、ベトナム人選手が躍動するのかを選手たちがまだ体験していないというのが、課題にあります」
――岩政監督としては今後、このチームにどんなエッセンスを加えていきたいとお考えですか?
「言葉で言うなら、ポゼッションしながら相手を圧倒して敵陣でずっとプレーし続けるようなサッカーです。それが世界のサッカーを変えてきたと思いますし、それを実現した指導者が各国のサッカーを変えてきている。これが十数年にヨーロッパサッカーから始まったサッカー界の潮流です。
それをやり切るだけの土壌があるクラブに来させていただいたので、単にボールを動かすだけでなく、相手を崩しきって何度も得点し、例え相手にボールを奪われても敵陣で即時奪還して攻め続け、常にタイトルを取り続けるというところまでクラブを発展させる。これが僕の目標であり、やろうとしていることです」
(後編へ続く)
【インタビュー】「欧州に出られないことを悲観せず…」岩政大樹が考える“日本人指導者”の未来(後編)