理想のスタジアムと未来への希望

ここで会見予定時間は過ぎ、岡野さんは控室に下がります。ほとんどの記者も外に出て、ブルーインパルスの登場を待っていました。ところが、ほどなく岡野さんが再びミックスゾーンに登場し、今度は通信社の記者と一対一で話し始めました。

「文部科学省の官僚に言った事があるんですよ。僕の理想はモナコですって。」

「それって、スタッド・ドゥですか?」と横から入った私の投げかけは、やっぱり中途半端で生半可。ASモナコの本拠地は「スタッド・ルイ・ドゥ」、ルイ2世スタジアムなのですが。

「そう、あれは素晴らしいですね。ビルの上にスタンドとフィールドがあって、気軽にスポーツを楽しめる環境が揃っています。あれが私の理想なんですけどね……」

あんな荒れたパスにも岡野さんは丁寧に返して下さいましたが、オチが待ってました。

「でも、文部科学省の人に返されました。『先生、それは無理です。モナコには地震がないんですよ』。」

ASモナコの本拠地、「スタッド・ルイ・ドゥ」。地上から8.35mの高さに1万8523人収容の陸上競技場、その下に屋内運動場と屋内水泳場を作った総合スポーツセンター。

日照のために南西側のサイドスタンドだけは開け、それ以外は全席を屋根で覆い、2機の大型スクリーンもあるこのスタジアムは1985年完成。画像はいずれもASモナコ公式サイトより。(http://www.asm-fc.com/en/

外からは戦闘機の轟音が響き、会話を聴き取りづらくなりますが、岡野さんの話は続きます。

「日本でスタジアム整備を考えると、どうしても縦割りの壁に苦しみます。一番予算を持っているのは建設省だったのですが、ここの補助金を使うと医療施設が作れません。なので、使い勝手が悪くなるんです。」

レストランやショッピングセンターなどでも同じ事情で、なかなかスポーツ団体の希望は通らなかったという説明の後で、こう続けました。

「ただ、今回は文部科学省が担当になって、比較的自由に予算を使えるようになりました。その点では非常に期待しています。試合の無い時でも人が集まるような、ウェディングなども出来るような広く親しまれる場所にしたいですね。」