ベトナム独特のカルチャー

――指導にあたって難しさなどはありましたか。

まずいい点からいえばサッカー協会がすごく力を持っていて、招集の権限が強かったですね。Vリーグ(ベトナムリーグ)に有無を言わせず日程も決められました。そういう意味では代表はやりやすいという環境にあったと思います。

難しさでいえば東南アジア全般に言えますが、スケジュールですね。例えば日本なら半年後に大きな大会がある場合はミーティングをして、ベニュー(開催地)も決まっているし、対戦相手もこの辺と対戦する。そういう中でキャンプをいつからやって、いつ移動してどこと練習試合をしてというミーティングの後からブッキングし始めますよね。東南アジアはそれができないんです。

――なぜですか。

文化ですね。いまの会長さんは日本人のことも分かってくれたので「分かった、分かった」と言って結構やってくれました。ただ彼らの考え方からすると、例えばキャンプが半年後にある場合、一応ミーティングはしてスケジュールを立てるんですが、10日前ぐらいにまたもう1回集まって…。結局なにも準備してないんですよね(苦笑)。

そうなると練習試合の相手も思うように組めなくて、飛行機がブッキングできない、ホテルが空いているのか分からないことがありました。8割方大丈夫なんですけどね。それは私がタイに行っても、その他の東南アジアのインドネシア、マレーシアの人たちに聞いてもみんな一緒ですね。(逆に)日本はそこがきっちりしていると思います(笑)。

――カルチャーギャップがあると難しいですね。

そうですね、それはありました。ただ例えば選手が練習に来ない、遅れるも一応覚悟していたんですけど、そういうことはなかったです。練習は普通にできました。だから選手に問題があるというというより、どちらかというとクラブや協会の計画、準備の仕方が大きく違いました。

そういう文化で彼らは生活しています。日本人からするとトラブルなんですけど、彼らにとって日常なんで別にトラブルでもなんでもない。だんだん慣れました(苦笑)。

――直近のタイU-20代表の監督も似たような感じでしたか。

変わらないですね。ギリギリまでスケジュールが決まらない。「やる、やる」といって「結局いつやるんだろう?」みたいなスケジュールの立て方ですね(苦笑)。

――ベトナムでの印象深いエピソードを教えてください。

日本人もそうかもしれないですけど、韓国人だったら(遠征先などに)キムチを持ってくと思うんですよね。どこの国もそうだと思うんですけど、ベトナムの選手たちは「カップラーメンを持っていって夜中に食って寝る」という習慣がありました。

当然スポーツ選手にとって良くないと思うんですが、普段そういう慣れているものをダメというわけにもいかないし、しかも(遠征先の)海外だからストレスもかかるだろうから…。例えばカタールで1ヶ月くらい行ったときもいいホテルで食事しても、ベトナムの食事はかなり特殊なのでストレスが彼らにかかっていく中では、「そこはしょうがないんだろうな」という思いがありましたね。

最初にスズキカップがあったときはハノイで地元開催でしたけど、日本人のトレーナーが1、2ヶ月の間来てくれました。彼からは「彼らは外に夜食をその辺の露店に食べに行っている」、「昼ご飯に路上の食い物屋で食ってナマのものに当たったらやばいんじゃないですか?」というアドバイスもあって、「その辺は気を付けなさいよ」と(苦笑)。ダメとは言わないんですけど、そういうことを話したような記憶があるんですよね。彼らにとって日常なので問題ないと思っていたんでしょうね。日本での常識だと、キャンプ、遠征中は生ものは出さないようにしていますので。

あと彼らは車じゃなくてバイクに乗る。例えば多分Jリーグ、ブンデスリーガは選手がバイクに乗ることを禁止しているはずなんですよね。そういうのもちょっと気になったりはしましたけど、「しょうがないだろうな」というところもありましたね。