勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなしという言葉があるが、この日の敗戦はバイエルンの選手たちに不思議感をもたらしたのかもしれない。現に試合後ミュラーは「後半は不思議な感じだった」とコメントしている。途中までは明らかに自分たちのペースでゲームを進めていると感じていながら、崩されたとも言い難い形で失点をしての逆転負け。選手たちも何が起きていたのかよくわからないまま試合が終わったようであった。何が起きていたのだろうか?
まず試合前のメンバー表を見ればわかる通り、シティはフラットな4-4-2というトレードマークを捨て、中盤を一人増やした4-2-3-1を採用したのだった。これは当然中盤での数的不利を生まれさせないためのものであり、ボランチに比較的守備的なフェルナンジーニョとハビ・ガルシアを並べたのは相手のパス回しに粘り強く対応できる人材が欲しかったのだろう。実際幾度となく彼らは身体を張り、巧みなテクニシャンたちと渡り合った。序盤に連続して2失点したものの、バイエルン得意の中盤の細かいパスワークから奪われたものではなく、一本のロングパスとCKから生まれたものであった。またオフェンス面では、2人のボランチが気の利いたスルーパスやビルドアップのスイッチとなる楔のパスを入れることは少なかったが、バイエルンの中盤の選手たちの気をいくらか引きつけ、シルバがより快適にプレーできる環境を整えたと言えるだろう。そのシルバが3点すべてに関わったのは偶然ではないはずだ。後ろに2人もいるからこそ、彼が思い切って前に飛び出していけたのだろう。
前半一瞬のすきをつかれ1点を返され、後半に向かったバイエルンはますますの深みにはまっていく。パスは回せると自信があった選手たちはやり方を変えなかったが、いかんせんいつも戦っているブンデスリーガの中盤の選手たちとはレベルがけた違いであり、シティは何度かバイエルンのパスを捕まえはじめ、高い位置でバイエルン相手にパス回しを拙いながらも挑戦し始める。それが結果的にPK奪取に繋がったという見方もできる。勿論大いに判定の不満はあるが。バイエルンはというと前半簡単に2点を奪った相手に攻めあぐね、何度となく相手のセットされた守備陣につっこんではボールロストを繰り返した。前半の感触から得点はいつでも奪えるという精神的余裕がバイエルンの選手たちにはあり、必要最低限の力しか出さなかったのかもしれないが、前半からいつものごとく中盤を完璧に支配したわけではなく、後半の結果は予想できるものであった。そうなれば選手たちの動きはどんどん鈍くなり、くだらないミスでピンチを招き、失点する。ペップ・グアルディオラのチームの負け方の典型であった。決して不思議な負けなどではなく根拠のある負けであったことは確かである。連覇が簡単ではないことをシティが示したのだった。しかしペップは敗戦後も「国内でも欧州の舞台でも勝つことがいかに難しいか知るために皆には負けが必要だったのかもしれない」とポジティブなコメントをしている。しかしこの敗戦の意味を選手たちが理解できなければ、前人未到のCL連覇というのは夢にしかなりえないだろう。本当の意味でバイエルンがシティの選手たちに感謝する日はくるのだろうか。
もう少し見てみよう。
筆者名:平松 凌
プロフィール:トッテナム、アーセナル、ユヴェントス、バレンシア、名古屋グランパスなど、好みのチームは数あるが、愛するチームはバイエルン。
ツイッター: @bayernista25