辛くも、というべきか、FA杯にてユナイテッドはシティとのダービーに勝利をすることができた。印象の初頭効果と新近効果も手伝って、そういった印象をお持ちのかたが多いのは否めないだろう。
一発勝負のカップ戦の抽選ということもあり、この段階でマンチェスター・ダービーが行われることになった。ユナイテッドとしては、リーグ戦で味わった大敗の雪辱を是が非でも行いたいところだ。対するシティにも、ここで更にユナイテッドを叩くことができたら、勢いがつくと考えていたことだろう。もしかしたら、両チームの指揮官や選手たち以上に我々サポーターやファンが燃えていたかもしれない。
しかし、それは予想外の出来事で一旦それどころではなくなった。通常、試合の一時間ほど前に先発とベンチ入りするメンバーが発表になるのだが、サンダーランドに移籍したはずの背番号22がベンチメンバーに記入されている。
“#22 scoles”
これは現実か?夢ではないのか?私はこの名前を確認した数秒後にとてつもない鳥肌と震えに襲われた。衝撃的とはまさにこのことを言うのであろう。 この段階で、言える状態にあった感嘆文は吐き尽くし、歓喜と驚きであふれたTwitterのタイムラインを追いかけた。嘘ではないのだ。現実なのだ。赤毛の天才がピッチに帰ってきたのである。
一部では、くすぶっている将来有望な若手の契約や既存選手の出場機会などの観点から、どうなのだろうといった声が上がったが、そんなことはもはやどうでもいいほどに気持ちは高揚していた。
以前のコラムでも指摘したとおり、ユナイテッドはこの男の引退によって大きなものを失った。実際この試合が行われる少し前の報道でも「けが人続出のユナイテッドは現役復帰させるのではないか」といったことが囁かれていた。だが、まさかこのタイミングでとはだれも思わなかっただろう。知らなかったのは私達だけではなく、チームメイトでさえ知らなかったことが試合後のルーニーの口からも明らかになっている。チームに帯同して、ドレッシングルームで着替えていると思ったら、背番号22番が目に入り、皆唖然としたそうだ。おそらく知っていたのはコーチ陣と、Twitterを見るかぎり、元背番号2くらいであろう。
シティの本拠地であるにも関わらず、ベッカムやキーンなどの雛鳥が集結したこの試合で復帰するとは、出来過ぎたシナリオだ。 元々、大きな怪我で引退したわけではなく、コーチを務める傍ら、キャリントンで黙々とボールを蹴り続けており、練習では未だにボールを失うことはなかなかお目にかかれないらしい。ギャリー・ネヴィルというボールをぶつける的がキャリントンからいなくなったくらいで、スコールズが変わるわけなど無いのであった。
普段はネガティブなことを考えがちな私も、試合開始までの一時間は負けた時の創造など全くできないないほどに、スコールズがピッチに立った時のワクワク感を抑えることができなかった。あの天才的なパスやゲームメイクがまた見ることができるのかと思うと、気持ちを抑えられるわけがない。
日本時間の22::00、キックオフ。
シティの実力はたしかに本物であることは認めざるを得ない。前回とは異なり、しっかりと守備から入ったユナイテッドは押し込まれながらもゴール前で跳ね返し、徐々にペースをつかもうとしていた。
前半10分、ルーニーのヘッドでユナイテッドが先制。その後もユナイテッドが受けてカウンターという構図で試合が進むかと思った矢先、中盤でボールを奪ったギグスがナニへスルーパスを送る。コンパニが両足を投げ出し、タックルをしてボールを処理しようとしたが、ナニの加速度的なスプリントとほぼ同時であった。しばしば問題のあるジャッジで有名なクリス・フォイはホイッスルを吹き、ポケットから赤紙を頭上に掲げた。早い時間であること、ナニに直接的な接触がなく、怪我などもないこと、ボールに行っているように見えること、などから、イエローが妥当なのではないかといった見解も数多くあったこのジャッジだが、プレミアでもおそらく5本の指に入るであろうナニのスプリントもあって、コンパニのタックルは意図がなくともフォイの目の前では危険であったように見える。昨今、両足でのタックルは非常に厳しく取り締まられている傾向にあり、怪我があろうがなかろうが、危険行為をみなされていることが多い。怪我になった場合に非常に危険な怪我が少なくないからだろう。
この判定によって残りの80分をビハインドで守備の要がいない10人で戦うことを強いられたシティと、先行するユナイテッドではどちらが有利であるかは明白であった。
ウェルベックのアクロバティックなボレーやルーニーのPKを押し込んだゴールもあり、前半で3点をリードすることができた。前回の1-6という屈辱的なスコアを吹き飛ばすようなゴールを期待するものは多かったが、4点差がセーフティーリードの最低ラインだと考えるものにとっては、もう1点を何処で取るのか、ということが問題であった。なぜならば、シティは元々カウンターのチームであり、その鋭さと威力は今のプレミアでは一番であると考え、コンパニ退場後も、幾つかの鋭いカウンターを見せていたことや、ユナイテッドがやはりカウンターも受けることが得意でないことが挙げられる。また、前半で2点差以上リードした場合のユナイテッドは後半に精神的支柱の不在や若さゆえ気が緩むのか、非常に散漫になることが少なくない。失点するタイミングによってはまだもつれるだろうと考えていた。そしてそれは現実にやってきた。
シルバを下げ、勝負を投げたかのようみえたマンチーニであるが、実際には効果的なカウンターを産み出すための布陣のためであった。48分にコラロフの見事なFKでシティが1点を返すと、ユナイテッドは攻めるのか受けるのかがピッチ内で統一できずに、曖昧な動きを繰り返す。それを引き締めるためなのか、サー・アレックスは30分を残した段階で、赤毛の天才をピッチに送り込み、半年遅れのスコールズの18シーズン目が開幕した。蛇足かも知れないが、見慣れない22番というのは初めてではなく、トップチームデビュー2年目の1995-96シーズンにつけていたことがある。しかし次のシーズン以降は我々が慣れ親しんだ18番である。
半年も実戦から離れていたのだからという心配は早々杞憂に終わることとなった。全く問題ない。むしろ周りが、彼のリズムについていけてない方が目立つ。リズムよくボールを捌くスコールズに対して、受ける側のリポジショニングや準備が整っていないのだ。おそらくバルセロナの試合を見ている方であれば、スコールズのみが正しくプレーしているように見えただろう。そして、それと同時にスコールズは唯一無二であることを半年ぶりに感じることとなった。
そのせいか、微妙にリズムが掴めないユナイテッドは、エヴラのスローインをスコールズがリターンで戻したところを、ミルナーが掻っ攫って中のアグエロへ送り、押し込んだシティが追い上げるにふさわしい泥臭いゴールで1ゴール差に迫る。カメラがスコールズを抜いたことで、やはり復帰早々試合勘が、といった解釈をされがちであるが、リプレイを見れば、リターンのボールを素早く受けなかったエブラのミスであることは明らかである。
勢いと共に1点リードしていることはもはや関係ないほどにシティの勢いに飲まれかけたユナイテッドであったが、その中でもスコールズは相変わらずであった。サポーターはあのリズムと視野で黙々と裁くパサーを待っていたのだ。
ジョーンズのハンド疑惑もあったが、フォイの角度からは全く見えず、言わせてもらえば、その前のプレーで、明らかにバレンシアがペナルティボックスの中で倒されたシーンにホイッスルはなかった。
このように、「良→悪」といった内容の推移では、冒頭で触れたように、やはり不満な気持ちを持ってしまうことが多い。しかし、プレミアリーグで4番目のイエローカードコレクターである赤毛の天才の復帰を勝利で終えられたことは、やはり格別なのである。
本当に、ジンジャー・プリンスが帰ってきたのだから。
※選手表記、チーム表記はQoly.jpのデータベースに準拠しています。
筆者名 | db7 |
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