ダブルを許し、首位陥落

シティ相手にシーズン二度目となるリーグでの敗戦、すなわちダブルを食らったということになるのだが、それ以上に首位を明け渡してしまったことがなによりも痛いものとなった。

第35節、ユナイテッドはエヴァートン相手に、まさかの撃ち合いをドローに持ち込まれ、勝ち点差は3。この試合に関しても山ほど言いたいことはあるのだが、それは置いておくことにして、シティはホームにてユナイテッドを迎え撃つ絶好の機会に恵まれた。この時点で得失点差はシティのほうが大きく上回っており、勝利し勝ち点で並べば首位に返り咲く。

対するユナイテッドは、前節でチェックメイトをかけるはずが、まさかの逆王手を許す機会を与えてしまった。とはいえ、引き分ければ勝ち点差3は維持され、残りに試合をなんなく処理すれば、ということになっていた。

ホームで勝利が必須のシティ、ドローでもいいユナイテッド。ここに選択の妙が隠される危険性を危惧した。

サー・アレックス・ファーガソンは試合前の会見にて、メンバーが決め切れないことを吐露している。いくつかのパターンがあるが、どれで行くか決めかねていると。対するシティは、前節のウルヴズ戦のメンバーそのままに、おそらく考えられるベストメンバーで望むことにためらいはなかったはずだ。

ユナイテッドファンからは当然のように嫌悪され、シティファンからも失望をかったものの、ピッチに帰ってきたテベスはテベスだった。そして、チームの調子を握っていたダビド・シルバも調子が戻し、それとともにチームも息を吹き返した。シーズンの序盤の快進撃とはメンバーもフォーメーションも異なるが、この試合に関しては選ぶメンバーには選択の余地がないくらいベストなメンバーで臨んだシティ、そして、自分たちで受けに回らざるを得なくなったユナイテッド。ここが最大のポイントであった。

今年のユナイテッドは大きな若返りを図ったのはみなさん見てお分かりだろう。無論ゲームマスターであるスコールズの復帰は大きな衝撃であったが、全体的な若返りは見て取れる。各国リーグの首位争いに絡んでいるクラブで25歳以下の若手が多いクラブはドルトムントかユナイテッドくらいではないだろうか。しかし、チームとしての若さを露呈する場面が少なかった訳ではない。もう少し賢く戦うことが出来ただろう、という試合はリーグとは別にヨーロッパの舞台で幾度もさらけ出してしまった。

話が逸れたが、この試合、ファーガソンは受けに回ることを選択した。絶好調から少し調子を落としつつあったバレンシアをベンチに置き、パク・チソンを先発させ、ギグスを中盤に置き、ルーニーのワントップという4-2-3-1という形で望んだ。対するシティは前節通りの4-4-2。もちろん見かけだけのフォーメーションではなく、非常に前線の4枚は流動的に動くので、この数字はあまり意味を持たないのかもしれない。大敗したダービーで、シティにセンターを人数的にも掌握されたことをうけて、サー・アレックスは中盤を増やしたのかもしれない。ボールを持てていれば、この形で良かったのかも知れないが、これは見事に裏目に出ることになった。

キックオフ後、予想通り受けに回ったユナイテッドであったが、それ以上に空回り感がいつになく漂っていた。バリーやヤヤに対してパクはボールを追いかけていた、ここまでは全く問題なかったが、一人で追いかけるのには無理がある。同じく二列目にいたギグスはその点においてはマイナスであり、ギグスの分の守備をパクが行なっているように見える他なかった。そして、それが連動した守備として機能することはこの試合で見られることはなかった。ナニやギグスはボールを追い掛け回す選手ではない。キャリックもスコールズもしかりだ。そしてルーニーもこの試合ではその役割を追わせるわけにはいかない。このメンバーであれば、ボールを保持出来なければ意味がないのだ。この点においてはボールに対してハードワークバレンシアを起用していれば、パクの空回り感は多少なりとも軽減できたであろうと予想する。ではなぜユナイテッドはボールを保持出来なかったのだろうか。

チームの好調を支えた大きな存在

ユナイテッドが3月まで好調を保っていた要因としてバレンシアとスコールズの存在がある。スコールズ復帰を見れば、明らかであるが、ユナイテッドはこのゲームマスターがいるといないとでは、別の試合をすることになる。ピッチに立っているのであれば、ボールを触らないスコールズは、遅れたタックルを見舞うセンターハーフに成り下がってしまう。彼にいかに快適にボールを触らせられるかが、主導権を握る生命線であり、そうしなければいとも簡単に押し込まれる。今シーズンに限ったことではなく、相手からすれば、スコールズを試合から消し去ることがユナイテッド攻略の糸口なのである。クリスティアーノ・ロナウドがいた頃は、凶悪な破壊力を誇ったカウンターがあったために、主導権が握れなくてもどうにかなっていた部分が大きかった。しかし、昨シーズンと今シーズン、チームのオプションとして、完成されたカウンターはどこにもなく、単発のカウンターで終わることがほとんどであった。

復帰以降好調であったバレンシアは、縦への推進力の塊であり、相手を押し込むことで、三列目のスペースを作るのに非常に貢献していた。スペースのある状態で伸び伸びゲームメイクするスコールズを止めるのは非常に困難であり、年齢など関係ないことを見事に証明することになった。すなわちこの組み合わせはユナイテッドがリーグで負けなかった時期と見事に連動しており、ELの敗退の一因もスコールズをあえて外したことに見ることができる。

結果論ではあるが、この試合、まずそのバレンシアをベンチに置く選択がミスであったと言うことができるのであろう。確かに連戦で少し疲れが見えてきた段階であったが、スコールズとの補完性に替えが効かなかったのは明白であった。ナニよりも、ということではなく、ギグスよりもバレンシアであった。そして、相手を押し込めなかった以上に相性の悪さを露呈したのがシティの前線である。

スコールズを活かすことが、ユナイテッドの攻撃を活かすための最良手段であることは復帰後を見ても明らかである。先述したように、彼をピッチで消すことが、相手にとっては鍵となる。つまり前からチェックを仕掛けて、タイトにスコールズをチェックしていれば、ユナイテッドは舵をとれなくなり、リズムは崩壊していく。例えばチェルシーであれば、前線からドログバやトーレス、マタがあの位置でスコールズを追い掛け回すことは無いだろう。スコールズに与えられるスペースは非常に大きく、彼はリズムよくゲームを構築していく。しかし、テベスやアグエロ、シルバ、高い位置を保っていたヤヤ達によって、スコールズは気分良くボールを触ることは出来なかった。スペースに走り込む選手がいないユナイテッドのカウンターは冴えることのないまま、押し込まれ続けていた。

押し込まれ続けて、守備に奔走する状態でのギグスはリスクでしかない。以前にもコラムで指摘したことがあったが、守備時の位置取りが非常に曖昧であり、左サイドにいても中央にいても、他の選手にとっては迷惑以外の何ものでもない。この日は序盤の中央にいる時から左サイドに移っても、エヴラやキャリックらの負担になり続け、パクの空回りを助長することになってしまった。左サイドをシルバとサバレタに上手く使われていたところなどまさにそうで、常に後手に回っていた。もちろん、ボールを保持していれば有効な選手ではある。彼そのものを否定することではない。しかし、使い方というものを誤ると、こうなってしまうということを昨年のウェンブリーでの敗戦から学ばなかったのはベンチであった。ギグスとパクの二人ではヤヤを止めることは出来なかった。ここにパクだけに責任を押し付けることは無責任であることを指摘しておく。

しかし、ユナイテッドも耐えていた。エヴァンズの欠場をそこまで感じさせなかったスモーリングとファーディナンドのセンターバックコンビ、そして、デ・ヘアは押し込まれながらも凌いでいた。テベスとアグエロも要所ではしっかりとプレーしていたが、そこまで快適にプレーしているようには見えなかった。いくら攻めようとも、ゴールという結果がついてこなければ全く価値をなさない。その点において、前半最後のセットプレーは非常に大きなものとなってしまった。

押し込まれながらも、前半をスコアレスで終えられれば、勝利が必要なシティは焦らざるを得ない。その点であのコーナーキックまでは想定内であったとも言えるし、それが実現出来れば後半はユナイテッドペースに持ち込めたのではないだろうかという「タラレバ」が頭を過る。結果的にはセットプレーでの失点で最悪のハーフタイムを迎える羽目になった。無論セットプレーでの失点はやむを得ないものであり、あの場面を検証しても、コンパニをマークしていたスモーリングの対応に特別な非はないだろう。ああいう場面は幾度と無く起こるものだ。惜しむらくは、ファーディナンドに反応してもらいたかったということだろう。

後半の立ち上がりから空回りし続けるパクに替えてウェルベックを投入し、2トップにすることで、ルーニーの孤立を防ごうとした。しかし、ウェルベックもまた前から追える選手であるがそれに追随して追う選手が二列目にいない。ラインをあげようにも、奪える気配は無く、逆にテベスとアグエロに対して、大型のユナイテッドディフェンダー陣がスペースを与えることはリスクでしか無い。シティはルーニーへの苦しい楔のボールをケアし続けていればよく、そこからのカウンターが目立つ後半となった。こういった展開では、ナニが個人技で打開することがしばしばあるのだが、なぜだかナニの足元にボールがなかなかいかない。クリシの対応が特別素晴らしかったとは感じられず何度失敗しようと、こういう時はナニの個人技にかけてきた試合もある。それが全くボールに関与することがなければ、ボールを持ってなんぼのプレーヤーである故、怖くはない。こうして後半は二列目の三人が消えること招いてしまった。

連動しないプレーが続くユナイテッドに対して、中盤ではヤヤが君臨したシティは主導権を握り続けた。ここでまたも選手交代を試みるのだが、ベンチはバレンシアとスコールズを替える判断を下した。この試合消えているギグスを残し、苦しいながらも、パスをさばいていたスコールズを下げて、ギグスを中盤に持ってきた。守備のリスクはますます増大し、ヤヤにさらなる自由を与えた。ここで替えるべきはギグスであったはずだ。少なくとも今シーズン、ギグスとキャリックのセンターハーフが機能した記憶は私の脳内にはほとんどない。バレンシア投入で多少なりとも相手を押し込めればスコールズが活きるスペースが生まれた可能性は低くないだろうし、それで連勝を支えてきたはず。冴えなかったナニの交代に関して異論はないが、やはり自爆とも取れる交代策には疑問が残った。

選手交代は上手くいかずに、下がってきたルーニーも効果的にプレーすることはなかった。サイドが押し込めずに、シュートまで持ち込めないのだ。苦しいプレーが続き、シティは苦しむこと無くマンチーニらしい選手交代で逃げ切ることに成功した。

残すは最終節

2009-10シーズンは、怪我人とコンディション不良によって、チェルシーに掻っ攫われたが、今回はそういった懸念材料は無く、自ら招いた結果ということも出来るだろう。シーズン終盤の大一番で、二試合続けての失態。これではタイトルは微笑まない。

ダービー終了時点での勝ち点は83。過去数シーズン見ても特別に少ない方ではない。むしろ昨シーズンの優勝勝ち点を既に超えている。と考えれば、そこまで酷いシーズンでは無いとも取れるのだが、リーグ戦における優勝とは、どんな勝ち点だろうと2位のクラブよりも勝ち点が1でも多ければ優勝である。同じ勝ち点であれば得失点差の多いほうが上に行く。

若手選手の増加や、コンペティションの多さから、いろいろな組み合わせを用いるのは当然だ。ローマとウェンブリーでバルセロナに力の差を見せつけられての敗戦は、サー・アレックス・ファーガソンに新しい刺激を与えた。しかし、ターンオーバーの弊害に、チームが成熟しきらないという弊害をもたらしたことも避けては通れない。コンディションのいい選手を使う、としていくつかのパターンを試してきたが、これがベスト、と呼べる布陣が今期のユナイテッドにはなかなか無かった。そしてそれに近いものだとしても、相手に合わせる形になってしまい、今節のような結果を招くことになったとも言えるだろう。もちろん怪我という予期できない現象に左右されることもあるが、中途半端な戦術で自分たちを見失っているようにも感じる。特に、ベテランと若手のバランスが極端になっている今年のチームにおいては、勢いよりも、そのベクトルがまとまりきら無い試合も何度かあった。優れた戦術を持っていたとしても、それを実行させる手段が稚拙であれば、うまくいくことはない。

ファーディナンドやスコールズが上手くまとめきれているときはいいが、そうでなくなった時、今年のチームは狙ってドローが取れるチームではない。ファーガソン自身もそうであるように、器用でないのに器用ぶるような感覚。ディテールがないチームを勝たせてきた部分は素晴らしく評価されるところだが、良くも悪くもクリスティアーノ・ロナウドが在籍していた時期の方が、カルロス・ケイロスの手腕もあったのか、ハッキリとわかりやすいチームであった。選手もベンチもファンも、同じベクトルに向かっていたように思える。今のチームは非常に賢くプレーしようとしすぎだ。ピッチの中に熱を感じることは以前よりも少なくなったような気がする。ロイ・キーンやギャリー・ネヴィル、ロナウドらが、激しくピッチで情熱を、勝利への、ゴールへの渇望を表現していたころとは少し違う。それもバルセロナに二度も敗戦を味わった故なのだろうか。

この試合を終えて、「強いものが勝つのではなく、勝ったものが強いのだ。」という言葉が頭に浮かんできた瞬間、今シーズンはいつものユナイテッドとは違うな、というシーズン中に感じ続けた感覚が全身をフッと駆け抜けた。

このコラムを書き上げた時点で、第37節を終え、残すは最終節のみ。共に勝利を納めたとしても、得失点差でシティが優勝する可能性については言うまでもない。なにせ得失点差は8もある。ユナイテッドはアウェーで、「出身者」が数多く在籍するサンダーランド。シティはホームで熾烈な残留争いに身を置くQPR。ファーガソンは「教え子」、マーク・ヒューズの「アシスト」を期待しているようだが、果たしていかに。泣いても笑っても、シティが有利に変わりはない。

一つのクラブを愛するということ、それは共に喜びも悲しみも楽しみも悔しさも共有することである。全ては週末、最終節、一斉キックオフだ。

どんな結果が出ようとも、私がビールを飲むという予定調和は変わることはないだろう。

※選手表記、チーム表記はQoly.jpのデータベースに準拠しています。


筆者名 db7
プロフィール 親をも唖然とさせるManchester United狂いで川崎フロンターレも応援中。
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