熱い戦いが繰り広げられている今回のEURO。すでにポルトガル、ドイツがベスト4の切符を手に入れ、残る2つの切符をフランス対スペイン、イングランド対イタリアの勝者が手にすることとなった。

大小様々なトピックが今大会でも生まれたが、中でもアズーリ(イタリア代表の愛称)が披露したサッカーは新たなアズーリの形を観る者に示した。

特に、グループリーグ初戦のスペイン戦での戦いぶりは多くの人が驚きを感じただろう。

今回の当コラムでは進化したアズーリの姿に迫っていきたいと思う。

・新機軸の3-5-2

世界王者のスペイン代表との初戦で指揮官プランデッリは大胆な戦術を採用した。

上図がスペイン戦でのスタメンである。予選を8勝2分の無敗で通過したアズーリは予選を主に4バックで戦っていたが、本大会で3バックを使ってきたことには驚かされた。

これだけでも十分驚きを感じた訳だが、更に驚かされたのは本来中盤の選手であるデ・ロッシのセンターバック起用とジャッケリーニの抜擢である。

デ・ロッシはパスセンスと守備力を高次元で兼ね備えた現代的なミッドフィルダーであるが、プランデッリは本来ボランチのデ・ロッシを3バックの中央で起用した。筆者は3バックの中央にデ・ロッシではなく、ユヴェントスでボヌッチ、キエッリーニと鉄壁の最終ラインを形成したバルザーリを使うべきだと考えたが、実はこのデ・ロッシのセンターバックが大きな鍵を握っていたのだ。

・ピルロとの“ダブル・レジスタ”

デ・ロッシの本業はボランチであり、ボヌッチ、キエッリーニ、バルザーリといった屈強なディフェンダーと比べるとやはり守備面で劣る。だが、デ・ロッシには前述した守備者とは違った武器がある。それは卓越したパスセンスだ。

アズーリにはピルロという世界屈指のレジスタがいるため、デ・ロッシのパスが目立つことはあまり無い。しかし、デ・ロッシのパスワークはピルロに勝るとも劣らないレベルのものである。実際、スペイン戦ではピルロ、デ・ロッシから放たれる正確なロングパスが相手ディフェンダーの脅威となっていた。

また、足元が確かなデ・ロッシが最終ラインに入ることで、後方から試合を組み立てることが可能になった。スペイン戦のボール支配率は60%対40%とスペインに分があったが、支配率でスペインを上回る、あるいは互角の時間帯もあり、その後の試合ではしっかりと支配率を高めながら試合を進めることができていた。(クロアチア戦の支配率が52%、デ・ロッシを中盤で起用したアイルランド戦が60%)

アズーリのメンバー表を眺めると、中盤の選手にテクニシャンが多い。ブランデッリは予選からピルロ、デ・ロッシ、マルキージオ、モッタ、モントリーヴォといったボールプレーヤーを活かしたサッカーを展開し、結果として無敗で予選を通過した。そのサッカーに新たな可能性をもたらしたのがデ・ロッシをセンターバックで起用する3-5-2であると言えるはずだ。

・抜擢に応えたジャッケリーニ

また、スペイン戦が代表デビューとなったジャッケリーニは迫力あるプレーで大抜擢に応えた。右サイドのマッジョとともにアップダウンを繰り返し、攻守両面でチームに活力を与えたプレーぶりは称賛されて然るべきだろう。

3バックのシステムでは、ウィングバックの働きが勝敗を分けるといっても過言ではない。ウィングバックは豊富な運動量が必要なポジションであり、試合の展開に応じて様々な動きが求められる。このポジションの選手がガス欠を起こした場合、そのサイドの主導権を相手に渡すことになってしまうのだ。

スペイン戦の立ち上がりはアズーリが主導権を握ったが、この最大の要因は両ウィングバックにあった。試合開始から積極的に攻め上がり、スペインの両サイドバックを押し込むことに成功。筆者はアズーリのこれまでの伝統から引いて守るものだと考えていただけに、最終ラインを高く保ち、アグレッシブにプレスを掛ける新生アズーリの姿に新鮮さを感じた。

・3-5-2の課題

スペイン戦、クロアチア戦を3バック、同じスタメンで戦ったアズーリだが、課題もあった。

サイドアタックをメインとするクロアチアとの一戦では、ウィングバックのマッジョ、ジャッケリーニとピルロ、ボヌッチ、キエッリーニとの間でマークの受け渡しが曖昧になるシーンが散見された。(特にフリーで駆け上がって来る相手のサイドバックに対するマークが曖昧だった)失点シーンもマッジョがクロアチアの左SHプラニッチのケアに気を取られ、左SBストリニッチにフリーでクロスを挙げられたことが原因だった。このマークの受け渡しに関しては改善が必要なポイントだと言えるだろう。

・プランデッリの選択に注目

グループリーグ突破のために勝ち点3が必要だったアイルランド戦では、従来の4-3-1-2で戦い、2-0の快勝を収めたアズーリ。そして、準々決勝の相手はD組を一位通過したイングランドとなった。

イングランドはクロアチアと同じくサイドアタックを有効活用するチームである。それだけに、クロアチア戦でサイドアタックに対する課題が見えた3-5-2ではなく、予選を戦った4-3-1-2をプランデッリは選択するのではないだろうか。

3-5-2というシステムを採用するチームは世界的に見ても少なく、対策に手間取る相手は多いだろう。そしてなにより、ハマった時の強さは非常に魅力的である。スペイン戦、クロアチア戦では、相手陣内に7~8人の選手が侵攻し、攻め立てるシーンが何度もあった。3-5-2は前線に掛ける人数が多く、攻撃は非常にダイナミックで迫力がある。また、守備の場面では選手間の距離が近いため、奪われた直後に出足の鋭いプレスを掛けることが可能だ。しかし、前述したようにウィングバックが疲れて機能しなくなった場合や、相手のサイドアタックに押し込まれ、5バックのようになってしまうこともある。このように、メリット、デメリットがはっきりした難しいシステムなのだ。

イングランド戦では前述したように、4バックを使うことが予想されるが、個人的には玄人好みの3-5-2で試合に臨み、観る者を楽しませる好ゲームになることを期待したい。

2012/6/23 ロッシ

※選手表記、チーム表記はQoly.jpのデータベースに準拠しています。


筆者名 ロッシ
プロフィール 『鹿島アントラーズと水戸ホーリーホックを応援している大学生。ダビド・シルバ、ファン・ペルシー、香川真司など、足元が巧みな選手に目が無いです。野球は大のG党』
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