まず6月27日。世間が連日のEUROに夜中湧いている頃、バイエルンファンの頭の上に疑問符が浮かんでしまうようなニュースが届いた。

「バイエルンがクロアチア代表FWマリオ・マンジュキッチを獲得」

その当時EUROで得点を重ね一躍時の人とまではいかなかったとはいえ、夏の人気銘柄になりうる可能性のあった彼ではあるが、バイエルンにとってそんなことはまったく関係のない話であるはずだった。なぜならバイエルンには、マリオ・ゴメスという押しも押されぬエースかどうかは大いに疑わしいが、数字においての実績は申し分のない選手がいるからだ。

だがこの理由だけならかつてのツートップを復活させる発想も無論ある。ただ、それは考えづらかった。ゴメスとマンジュキッチのタイプはあまりにも酷似しているからだ。身長も近い彼らはポストプレーヤーとしての能力が高く、空中戦で脅威を与えることやシュートの正確性からゴールの近くで勝負ができたりなどという共通点がある。このような選手たちを2人並べるメリットよりデメリットのほうが多いのは明らかだ。最もゴメスは身体の大きさの割にポストの技術は低くヘディングも得意ではないのだがそれはまた別の話。

あくまでこれから述べることは筆者がEURO2012だけを観戦し彼に抱いていた印象なので全く正確ではないことを先に伝える。

①彼が大会であげた得点は全てPA内でありそれもかなりの至近距離からのものが多くシュートへの持っていき方の巧みさが見られないワンタッチストライカーであったこと。
②身長の通りハイボールに強くポストプレーヤーとして優秀である一方で戦術上なのかもしれないが中央に留まる傾向が見えたこと。

これらからゴメス劣化版という印象を受けバイエルンに必要であるとは毛頭思わなかった。

ここまでいろいろ御託を並べたが、私たちファンの心配は全くの杞憂に終わり首脳陣はしっかりと本質が見えていたようだ。プレシーズンマッチを観てみるとマンジュキッチの身長から勝手な先入観からタイプを決めつけていたことを痛感した。明らかにポストプレーを主な役割とする見た目にも関わらず再三裏も狙う姿勢を見せ、もちろん身体を張ったポストプレーから味方を生かすという視野の広さを見せた彼から新たなバイエルンの可能性を感じることができた。思えば前チームでマガトにウィングをやらされていたので動きが多いのは納得できた話なのだが。またプレシーズンでのロッベンやミュラーの好調ぶりからも彼が与えた影響を窺うことができる。

まず、昨季、ロッベンはお得意のカットインがまったくはまらず不調に陥った。それは彼のアスリートとしての能力の低下からということも否めないが、戦術上の問題もあった。ゴメスが中央に居座り、ロッベンがカットインするスペースがなく中央で渋滞が起こり対応されやすくなっていた問題だ。

しかし、マンジュキッチが入ることによって、CFにも関わらずサイドに開くことを厭わない彼のおかげでロッベンが気持ちよくプレーし好調だったように感じる。ミュラーにしてもそうだ。彼は豊富な運動量でポジションチェンジを繰り返して相手をかく乱しゴールを陥れる選手であるのでゴメスの特性は不都合である。そもそもミュラーがブレークしたときはハードワーカーのオリッチがスタメンであったのでマンジュキッチがスタメンに定着すればミュラーは再びセンセーショナルな活躍を見せるだろう。これらを印象づけるシーンとしてスーパーカップのドルトムント戦での2点目を挙げる。マンジュキッチのポストプレーから中に入ってきたロッベンが裏に抜け最後はミュラーというものである。昨季、ロッベンが中央から裏に抜けるシーンはあまり見られなかったことを考えると大きな変化であり、おそらくマンジュキッチのキープ力から「裏に抜ける」というオプションができたことを意味するのだろう。そして、マンジュキッチが入ることで生まれた攻撃の選択肢は、シーズンに入ればまだまだ見られるはずだ。

対ドルトムント5連敗を止め、昨季の雪辱を胸に貪欲にタイトルを目指しシーズンに向かうドイツの雄を今季も見逃せない。

※選手表記、チーム表記はQoly.jpのデータベースに準拠しています。

筆者名 平松 凌
プロフィール トッテナム、アーセナル、ユヴェントス、バレンシア、名古屋グランパスなど、好みのチームは数あるが、愛するチームはバイエルン。
ツイッター @bayernista25
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