【見えない光】

悪い流れを断ち切るには何よりも勝ち点3が良い薬となることは、ご承知の通り。ホームで迎えたこの一戦は勝たねばならないものであった。

先制こそするものの、流れ自体が「良い」と言い切ることはできない。代表戦明けでコンディションが完璧でない選手がいたのも確かだが、それでも勝ちへの欲望はどのようなコンディションであろうとも出さなければならない。

ともかく、悪いなりにも勝ち点3を積み上げることができればいいのだが、それを望むには時期尚早だということがはっきりした。コンスタントに勝ち切ることはこんなにも難しい。

【自信が無い、怖さが無い、そして舐められる】

攻守に怖さが無い。貪欲にゴールに迫り、一にも二にもゴールネットを揺らすことだけを考えている選手があまりに少ない。ファン・ペルシーもルーニーもそうだった。チーム全体でそうだった。リスクを冒して攻めるということを忘れてしまったようなのだ。

チャンスは確かに作っていたし、相手に決定機を与えることもそう、多くは無かった。しかし、相手を押しこむような怖さは感じられない。

シンプルに前を向いて、最短距離でゴールを陥れようと考える者がいないかのように、縦への推進力はどこかにいってしまった。ルーニーはコントロールと消極的、という言葉を混同するかのようにバックパスに終始した。前を向く前に楔のボールをセンターハーフに落としている。

前にガンガンこないのなら逆にこちらがガンガン前に行ってしまえ、と言わんばかりに、ビルドアップがうまくいかないユナイテッドに対してサウサンプトンは前から追いかけてきた。

フィットしきれないフェライニは攻守ともにイマイチで、ルーニーもしばしばボールロストを繰り返していたこともあり、センターラインでのミスの多さが、ポゼッション率にも攻撃に関する数値にも全て現れている。

攻守に渡って選手間の距離が悪い。遠いとか近いではなく悪いのだ。攻撃時にはパスコースを生み出すようフリーランやオフザボールの動きは少なく、タイミングも悪いのでパスコースが非常に少ない。 そのような状態がビルドアップから続けば自ずと前にボールを運ぶことはうまくいくはずがない。守備では、前からCF二人が追いかけるものの、二列目三列目も前からいかないので最終ラインも上がらない。間延びした状態では唯でさえ緩く寄せの甘い対人のディフェンスが楽々パス&ゴーで振り切られてしまっていた。

失点シーンまでは防いでいた最終ラインも、単独で見ればそつなくこなしていたように見えるが、全体の守備で見れば機能していたとは言いがたい。

時に人数を掛けて奪い、攻撃に転じなければならない場面がある。そうすべき場面で挟み込めば楽にショートカウンターに持ち込めそうなところを、1人で守りに行ってしまい、激しく寄せるわけでもなく簡単に前を向かれて、ボールは前に運ばれていた。

何度も書くが、開幕したころに見られたハイプレスはどこにいってしまったのだろうか。ほんとうにここが不思議でならない。

怖さがないのは自信が無い故のものと見ている。大胆かつ冷静にゴールを期待させるようなプレーはあまりに少ない。手詰まり感の強い仕掛けにパス選択。もちろんそうでないプレーもあったが、パスの流れが良くないので後手のプレーが多い印象だ。自信というものは結果と手応えがなければなかなか出てくるもので はない。今はどちらもない以上、強引に結果を出してくれるストライカーに頼りたいものだが、そうもいかない。

そうこうしているうちに、そのチグハグっぷりから相手に期待感を抱かせ、舐められる始末だ。相手クラブにとって、オールド・トラッフォードでユナイテッド相手に戦うことは、非常に困難なことだったのだが、それも昨シーズンまでの話のようであり、今は何くわぬ顔をして立ち向かってくる。これが現状なのだ。

選手がのびのびプレーし、相手を戦う前から萎縮させていたのは、マンチェスター・ユナイテッドという名前ではなく、サー・アレックス・ファーガソンだった、ということを改めて思い知らせてくれた。

【光るヤヌザイ】

チームに突っ込むべき点は尽きないが、ポジティブな面を見るとすれば、ひとつはオフサイドが増えた点だ。積極的に相手のラインの裏を取ろうとすることで牽制し続けたことは、スペースへのランニングを意識して行っていることの現れでもある。もちろん、相手を完全に押しこむまでには至らなかった点は改善しな ければならない。そしてやはりヤヌザイの名を出さないわけにはいかない。試合前に5年の契約延長が発表され、多くのユナイテッドを愛する者たちを安堵させた至宝は、この試合でも光っていた。

綺麗なサイドチェンジにドリブルでのチャンスメイク、スペースを突くスルーパスに、機をみたミドル、ボールに絡んだプレーでは間違いなくこの試合の主役と化していた。実に堂々とボールを扱い、先制点のきっかけとなる見事なスルーパスは圧巻。時に消える時間帯もあったが、チームが活かしきれていない印象が 強かった。数々のチャンスメイクの質はさることながら、完全にエブラを従えて左サイドからのアタックの質を上げた。ヤヌザイが左でボールを持てば、躊躇なくエブラがその脇を駆け上がっていく。既に長くプレーしていたかのようにリズムが合っている。

またカウンターを仕掛けるときも、シンプルに良いタイミングでクロスを入れており、不調ながらも強力なCFの2人を活かすにはこれが最も敵にも味方にもわかりやすい、と見て取れた。

他のチームメイトよりもコンディションの良さと何よりも「やってやる」、という自信と気持ちに溢れ、飄々と相手を交わしにかかる姿に頼もしさを感じずにはいられなかった。ユナイテッドで最も優れたパフォーマンスを見せたのは若き18歳だったと、多くの人が思ったことだろう。

【やはりユナイテッドらしさとはファーガソンらしさだったのか?】

マンチェスター・ユナイテッドは苦境から立ち上がってこそ、マンチェスター・ユナイテッドである。幾度と無く叩きのめされてきたが、その度に立ち上がってきた。不屈の闘争心はどんなことがあろうともピッチで表現しなければならない。サポーターが熱気あふれるチャントを歌うのは、オールド・トラッフォード で激しく戦い続けるクラブのためである。

ファーガソンは何よりも負けることを嫌い、貪欲に勝利を追い求めた。時には間違うこともあったが、それを素直に受け入れることもあった。全ては勝利の為に、クラブの為に。

ファーガソンが就任したことと今とでは時代背景も、ユナイテッドのポジションも大きく変化した。ファーガソンとて、今であればクビになって仕方のない成績だったこともある。しかしそれに耐え、タイトルを積み重ね、次第に絶対的強者として、プレミアのみならず世界から尊敬された。それと同時に、その歴史と 偉業は、相手と時には審判団をも威圧するのには十分だった。戦力以上に戦う前から相手に優位に立っていたのは、サーの偉大さと言うこともできる。

マンチェスター・ユナイテッドは四半世紀以上に渡って、より正確に言えばタイトルを積み重ねてプレミアの絶対強者として君臨し続けた10数年間に渡り、この恩恵を後ろ盾に戦ってきた。

ライアン・ギグスとて、クラブのマネージャーとしてはモイーズが「二人目」。大いに依存していたことは誰がどう見ても分かることだ。「ファギー中毒」から抜け出すのは容易ではない。強烈な劇薬だった。その劇薬からの依存を断ち切るには、同じくらい強力なものか、徐々に効果が抜けるのを待つしか無い。特に 後者には時間がかなり掛かることは言うまでもない。

世間のバッシングと同じくらい、モイーズがユナイテッドにとって「適切」な監督ではないのか、と問われると、まだまだ時間が足りないだろうと思う。いくら酷い采配をしたとしてもだ。

あえて野球に例えるが、野球少年に対して、同じアドバイスを「イチロー」がする場合と、「草野球同好会の監督」がするのとでは説得力と安心感、信頼度がまるで違う。仮にそのアドバイスがまったく違うものであり、「草野球同好会の監督」が正しいことを、「イチロー」が間違ったことを言ったとしても、野球少 年はおそらく「イチロー」のアドバイスを鵜呑みにするだろう。しかも間違ったアドバイスだとしても、信じて疑わないことが好パフォーマンスにつながってしまうかもしれない。

決して、モイーズが「草野球同好会の監督」レベルだと言いたいのではない。ただ、ファーガソンとはそういう存在なのだ。実績と結果を出し続けるカリスマは、こういうものなのだ。そうした存在の前には、如何なるマネージャーとて比較されれば劣るものとなってしまう。世界一のマネージャーの後では仕方がない 。

モイーズが論理的に「間違いではない」采配を振るっていても、どこか自信がないように見えてしまうことを選手は感じ取っているように見える。ファーガソンの帝王学から脱却するためには避けて通れない道なのは間違いない。故にピッチに立つ選手達は、どこか堂々としている様子がない。ファーガソンという威光 の後ろ盾があった頃と無い今では、百戦錬磨のタイトルホルダーでさえ、このようになってしまう。

選手だけではなく、モイーズ本人もそのジレンマに陥っているように見える。ただしこれも仕方がないことだ。考え過ぎは良くないと言われても、考える他に何をすればいいのだ、と言われてしまえばそれまでである。モイーズ自身が自分に与えるプレッシャーは、周囲の想像できるレベルでは済まないだろう。それを 差し引かずに安直な批判を繰り返すことは避けたいものだ。とはいえ、些か見逃せない采配のズレが見られるのも事実である。そこはもちろんプロである以上指摘されてしかるべきものである。

【モイーズのミスはどこにあったのか?】

ボルツの好セーブや、バーに何度も防がれた場面は確かに不運であり、二点目が取れていれば、もっと楽に試合が終わったことだろう。しかし先制後、追加点を取り切る姿勢だったか、と言われると疑問が残る。如何なるコンディションであっても、コントロールするよりも止めを刺しにいかなければならない。まして や完全にコントロールできる状態でなかった状態で、ライアン・ギグスを投入したことは個人的には間違いだったと言いたい。

確かに、ナニは審判の判定に納得が行かない場面が増えて冷静さを欠きつつあった。そして二点目をまったく取りにいかなかったわけでもない。投入されたギグスは右サイドに入り、少しリズムを欠いたピッチを落ち着けてコントロールしにかかろうとする。しかしギグスは左サイドを駆け上がって「ナンボ」の選手で あり、相手を押し込み、サイドからクロスを上げることで自チームの最終ラインを引き上げる生粋の左ウィンガーなのだ。押し込まれた状態での守備は平均以下であるし、右に配置されたことで、縦に突破される心配が無い相手にとってみれば、前からプレスをかけてくれと言わんばかりのきっかけを与えてしまった。交代 カードを切るのであれば、今期初出場となるが、同じ右利きであったザハか、ウェルベックを右で使った方がよかっただろう。

この交代がうまくいかなかったことで、この日良くなかったフェライニからウェルベックへ交代が行われた。ベンチにセンターハーフがいない状況では、当然ギグスがセンターに回る。ヤヌザイが右に、ウェルベックが左に構えたがこれもまずかった。ウェルベックが相手を攻守に渡って押し込んでくれればよかったの だが、ボールキープ出来る選手ではなくロストが少なくない。その上足下でボールを欲しがる。ウェルベックが最終ラインを下げられなければ、必然的に前から来ていたサウサンプトンは脚が動く限り前にくる。一度広大なスペースに抜け出し後はシュートだけ、の状態に持ち込み掛けたが、ボールの置所が悪く待望の追加 点を得るチャンスを台無しにしてしまった。移行、消極的な動きが目立ち始め、裏に抜けないことで相手に中盤を押し返されはじめるきっかけを与えてしまった。となれば、守備力のないギグスが守る中央は、キャリック1人で守っているのと変わらなくなっていた。

ウェルベックが決めていれば一気に勝負あった、の状態までいっていたかもしれない。モイーズに運がなかったと言えばそう言えるのだが、逆に盛り返されるきっかけを与えてしまった。

90分が過ぎる前に良くなかったルーニーを下げ、守り切るという意味合いだったのだろうがスモーリングを投入した。スモーリングが最終ライン、ジョーンズが一列上がって、ギグス二列目へとポジションを上げた。もちろんこの時点までは勝っていたし、あのセットプレーそのものはいかなる場合でもおこりえるもの だった。中盤を押されていたことからジョーンズ一列上げて押し返そうとしたこと自体に間違いはないように思える。しかし、交代ごとにギグスはポジションを変え、役割は不透明になっていった。こうした選手がひとり出ると、周りの役割も徐々に明確でなくなっていく。

守り切りにいって追いつかれたので、再度相手ゴールに迫る勢いは無くそのままタイムアップの笛が鳴った。

交代一つ一つの意図は間違っているわけではないが、狙った効果が出ているとは言えない。また、その場その場の探り探りな采配が逆にリカバリーの交代策を呼んでしまい、交代策の流れとしては良いとは言えないものになってしまっている。

全てがミスだったとは言えない。ただ、それが積み重なって結果が出なければミス扱いとなるのは当然だろう。ファーガソンとて沢山のミスを重ねたが、それ以上に沢山の結果を積み重ねた。いきなりモイーズにその境地に達しろというのは酷な要求だろうが、結果は結果であり容赦なく突きつけられるのは現実だ。

ブレイクスルーポイントがいつ訪れるのかは分からない。次の試合で来るかもしれないし、来年になってもやってこないかもしれない。それでも前に進まなければならないし、そうやって戦って来たのは今に始まったことではない。先人たちの偉大なる一歩も、全てが明るい一歩から始まってはいないのだから。

個人的なことだが、アルコールを摂取する頻度が非常に減っている。もちろん試合結果が影響していることは言うまでもない。やけ酒をするタイプでもないのである意味では健康的なのだが、精神衛生上が健康ではないので悩ましいところだ。

キリキリしないモイーズの顔が見られるのはいつになるだろう。その日が1日でも早く訪れることを願うばかりだ。


筆者名:db7

プロフィール:親をも唖然とさせるManchester United狂いで川崎フロンターレも応援中。
ホームページ:http://blogs.yahoo.co.jp/db7crf430mu
ツイッタ ー: @db7crsh01

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