結果と流れを見れば、「ユナイテッドらしさ」が戻ってきた、といえるのだろうか。展開は確かにエキサイティングだったことは間違いない。

【軽い失点と噛み合わせの悪さ】

序盤から攻勢に出る、と思いきや、5分も経たないうちにクラウチに押し込まれてしまった。

ナニは序盤から不用意なミスパスでボールロストを繰り返し、復帰したクレヴァリーは、フェライニとの競争などないように、アグレッシブさはどこ吹く風。 エブラ以外のバックラインは確かに若かったが、序盤はこの2人の軽いプレーから早々に失点を呼び込んでしまった。

とは言え、追いつき逆転する時間も十分に残っていた。「タレント」は前線に揃っている。早目に追いつき躍動する姿が見たかったのだが、やはりうまくはいかない。

不協和音とは言わないまでも心地の良い攻撃ではなかった。うまく噛み合っていないとはこのことだろう。香川はフリー気味にポジションを取り、ルーニーも香川を気にしながらプレーしていたが、スコア上リードするストークは無理をせずに中盤を下げ、人数を掛けて自陣のエリアを潰していた。ボールポゼッション率はユナイテッドが高い数字を示していたが、ミドル中心でオンターゲットは0だったことは、うまくいっていなかったことを表している。

ポゼッションを強めて全体をコンパクトにしたいところだったが、そういかなかったのはストーク側にはクラウチがいたからだ。もちろん中途半端にポジショニングをしても良いボールが上がってしまえば、高さがあるとは言えないユナイテッドの最終ラインはやられてしまう。事実、カウンターからエブラとクラウチがマッチアップしてしまった場面は、胸で折り返され、失点もののシーンだった。思わずやられた、と言葉が出かけたところでネットが揺れていないことに気が付いたが、あれが決まっていれば試合の結果はストークが持っていったかもしれないものだった。

同点に追いついたボールはナニからであったが、それ以外の場面では実に見苦しいプレーが続いた。おそらく彼は「活かされる」側のプレーをもう一度やりなおす必要がある。クレヴァリーもコンディションが上がっていないのか分からないが、彼自身の良さを自分で理解していないようなプレーに終始していた。小気味の良さがどこにも感じされず、リズムらしいリズムを生み出せずにいた。

【もがく香川】

チャンピオンズリーグで良い感触を得た日本人はもがいていた。ファン・ペルシーが復帰することでスターティングラインナップから外されると予想されたが、11人の中に名前を連ねた。週中の試合のラスト10分程、トップ下で見せた輝きは今後を明るくするものかと思われたが、ファン・ペルシーとルーニーを同時起用する限り、左サイドに押し出されることに変わりは無かった。

ピッチに立たないことにはどうしようもなく、この2トップとの共存バランスを見つけられれば素晴らしいことになるだろう。この試合でそれを探るように左サイドに固定せず、フリー気味にポジションをとってバランスを見つけようとしていた。だが改めて左サイドでは輝けないことを示す形となってしまった感は否めない。

プレイステーションなどの中であれば、“1+1+1=3”という答えになるのはそう難しいことではない。しかし現実ではこれを導き出すことがいかに難しいか、という例を私もみなさんもいくつも見てきている。

ファン・ペルシー、ルーニー、香川、ナニ、攻撃的な能力で言えば、世界でも上位に入る能力を持つ選手たちだ。しかし、「誰と、どの位置で、どの様に」プレーさせるかで、足し算で答えを求めたはずが引き算になったり掛け算になったりする。バルセロナがイブラヒモビッチを獲得した時には1試合で10点でも取る気なのだろうか、と思ったものだが現実はそう上手くはいかなかった。逆に、このような狙いが上手くいった時には、ピッチもスタンドもTV越しにも幸せが訪れる瞬間である。だからフットボールは難しくも楽しいのだ。

香川は前の試合で、ルーニーと2人で縦の関係になることで素晴らしいリズムと化学反応を生み出していたが、この試合の様な横の関係では上手くいっていない。ファン・ペルシーもゴールこそ決まってはいるが、ボールロストも少なくなく、本調子とは言えない。香川はボールを巧みに扱い、確実性の高いプレーをサラッとやってのける技術がある。ただし、それは「安全地帯」として使われるべきものではなく、「フィニッシャー」「スイッチャー」としてゴールに迫るために使われるべきものだ。そしてそれはやはりトップ下でなければ最大限発揮できないものだろう。

独力突破のナニやCFの2人はチャレンジ性のあるボールを入れられてゴールに結びつけるのが仕事だが、香川にまでそれをさせれば安定が取れなくなるおそれがある。故にチャレンジせずに、ボールを落ち着けたいところでボールが香川に回ってきてしまうことが多い。

皆さんも思っていることかもしれないが、香川は「横のチャンスメーカー」ではなく、「縦のフィニッシャー」である。左サイドにいる以上はどうしても「チャンスメーカー」的な色が強くなってしまう。現状、ルーニーとファン・ペルシーがFWとして同時起用される限りは、香川が輝き切ることを望むのは難しいだろう。つまり、ルーニー、ファン・ペルシーの2トップを取るか、1トップ+香川トップ下を取るか、という選択になってしまう。もちろんこれにチチャリートやウェルベック、ヤヌザイが絡むわけで、チャンピオンズリーグの1試合だけではまだまだ十分ではない。

【スイッチを入れたヤヌザイ】

試合に戻って、前半のうちに追い付きはしたが、直後にアーナウトヴィッチに素晴らしいFKを叩きこまれてビハインドで後半を迎えることになってしまった。結果から見れば、これが2点取らないと勝てない状況を生み出し、早めのヤヌザイ投入を呼んだ様に思われる。そしてそのヤヌザイが素晴らしいプレーでチームのギアを入れ替えた。

ヤヌザイが素晴らしいと言っても何がどう素晴らしいのか?私は、ボールスキルの高さと自分の形に持っていく深さ、だと見ている。以前のコラムにも書いたが、まず圧倒的な自信をもってボールを扱っている。滅多なミスタッチはない。そして今のところ、誰に対しても自分の形でプレーしている。自らの間合いや、得意な形に持ち込むところなどは若手のレベルではない。香川もボールを上手く扱うが、ヤヌザイはそれを上回っているように見える。交代で入ってから10分も経たないうちにストークにイエローカードが3枚も飛んだ。ヤヌザイが出させたカードもあり、既に「ボールを持ったら危険人物」のオーラがプンプン漂っている。

相手を警戒させるばかりではなく、味方にも下手なボールの奪われ方をしないということで、前に出て行くチャンスを与えていることは見逃せない。つまりヤヌザイにいい形でボールが入れば、高い確立でチャンスになるので思い切って動こう、という選択肢を味方に与えているのだ。こんなに頼もしいものはない。

かくして勢いづいたピッチとスタンドはここがシアター・オブ・ドリームスであることを思い出し、攻勢を強める度にボルテージを上げていった。CKからルーニーがヘッドで上手く合わせ追いつき、エブラからのクロスを職人芸と言えるマークの外しから、チチャリートがヘッドで叩き込んで逆転。スタンドは久しぶりに湧き上がった。

 

 

【クラブを愛する者、フットボールを愛する者】

悪い流れを払拭するような逆転劇だった。試合終了後に気持よく眠れた人も、興奮して寝付けなかった人も、ニヤニヤしながらそのままバルセロナ対レアル・マドリーを視聴した人もいるだろう。終わりよければ全て良し、と言いたいところでもあるが、先発メンバーでの噛み合わなさはやはり見過ごせない。

もちろん勝ってナンボの内容であるし、そうやってこれまでやってきたユナイテッドではある。ユナイテッドを愛する1人のサポーターとして喜びたい気持ちと、1人のフットボールを愛する者として、上手く噛み合わなかったもどかしさが衝突している。2つが両立することは現時点では欲張りなのかもしれないが、私はとても欲張りな人間である。愛するクラブがただ勝つだけでは物足りないのだ。酔うならば勝ち点3とその内容に酔いたいものである。今のところヤヌザイという美酒が私を酔わせているのは間違いない。


筆者名:db7

プロフィール:親をも唖然とさせるManchester United狂いで川崎フロンターレも応援中。
ホームページ:http://blogs.yahoo.co.jp/db7crf430mu
ツイッタ ー: @db7crsh01

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