実に後味のよろしくない勝ち点3だ。スコアからは読み取りにくいが、親近効果(終末効果)を語るにはもってこいの試合展開だった。つまり後半が酷かったということである。

【緩いフラムとセンデロスをカモった前半】

前半は今季一番のパフォーマンス、というよりもフラムのディフェンスがあまりにも緩すぎてそうなった、と言う方が適切かもしれない。最前線からもったりとしたディフェンスのフラムは最終ラインと中盤の2ラインも緩く、ユナイテッドにとって実に心地良いスペースを提供してくれていた。そもそもベルバトフに前線から追いかけろ、なんてことが難しいことはユナイテッドサポーターならよく存じ上げているはずなのでなんら驚きは無かったのだが、それでもあまりに無策だろう、と敵ながらにマルティン・ヨルを疑った。得点シーンを振り返っても全てセンデロスが同じように裏を取られており、センデロスのハイライト動画を見させられているような気分だ。最も、裏を取られる前にセンデロスがどうにも出来ない状態が多かったことは一応述べておく。

得点シーン以外でもユナイテッドのオフェンスは良かった。先制点は、ファン・ペルシーがタメてルーニーが裏に抜け出すという形からの得点であったが、ルーニーがパスを出す形が多かった今までに比べれば、逆の形はなかなか見られなかったのでいい試みであった。その他にも、ファン・ペルシーとルーニーがいつも以上にサイドに流れていたりするなど、オフェンスの幅 が少し広がった様にみられたのは好材料だった。復帰後、いまいちなプレーだったクレヴァリーはこの日らしさを取り戻して活発に動きまわった。中盤起用されたジョーンズと共に、動きの量でリズムを刻んでいた。ただし、センターハーフの位置は高く、ポゼッションを保つことに貢献したのに比べて最終ラインの位置がいまいち低く、しばしば若いセンターハーフと最終ライン との間においしそうなスペースをフラムに与えてしまっていたことは少し気になった。失点こそ無かったがネットを揺らされてもおかしくないシーンが幾つかあったことは見逃せない。

前半の半分を経過する前に3点のリードを手にしたことで、かなり楽になったと思ったのだが、やっと目を覚ましたフラムが徐々に荒さのアクセルを踏み込んでいったのはこのあたりからだった。徐々にボールマンに対するチェックが厳しくなり、複数人でボールを奪いに来るフラムに対して徐々にではあるがリズムが整わなくなっていた。もちろん修正の範囲内ではあったのだ が、痛む選手が出てくるなど、勝っているのにスッキリしない空気がこの時から漂っていた感は否めない。クレヴァリーにいたっては自分からプレーを切って自らの不調を訴えた。試合後のコメントでは物が二重に見える状態だったようである。結局点差もあって、ラファエル、クレヴァリー、エヴァンスが後半開始を前に交代し、フェライニ、香川、スモーリングが入った。

【まるで別チームな後半】

冒頭に示した様に、後半は実に酷いものだった。もちろん一気に3枚替わるという不可抗力が働いたことは考慮しなければならないが、それを差し引いてももう少し上手くやってくれよ、と言いたくなる出来であった。

出だしからバタつきボールが落ち着かない。ユナイテッドがピッチのバランスが見いだせなければ当然流れはクレイヴン・コテージの主の元へ。最終ラインで凌いでクリアするも点差から余裕をもってカウンター狙い、といった形では決して無い。むしろ点差が足枷となり、点差を維持するのか、きっちり守りぬくのか、それとも4点目を狙って止めを刺しにいくのか、が不明確であった。64分に1点返され、ピッチはさらに統率が取れなくなる。主審は前半から流し気味に笛を吹くことはあまりなかったが後半は更に顕著になり、なりふり構わずボールを奪いにくるフラムを後押しした。

ビルドアップが得意とは言えないフェライニとジョーンズの相性はこの日最悪に近く、工夫のないビルドアップとボールレシーブでは、状況を変えることは出来なかった。香川やルーニーがポジションを下げてボールを受けても、キープなのか攻めるのかの意思統一がままならない状況では、いらないボールロストが増えるだけで、流れは悪化していった。誰かがボールを持っ てもサポート無く無駄なボールタッチが増えていけば、ボールに圧力をかけるフラムにとってはこの上ない好都合であった。後半はスムーズにボールを繋げた記憶がほとんど無い。

【求む、吠える人材、キャプテンシー】

前半はフラムのディフェンスが緩んでいたと述べたが、後半はユナイテッドの意識が緩みっぱなしであった。勝ち点3を得たことに間違いはないわけだが、後味が良くないことは変わらない。いくらリードしているとは言え、劣勢を跳ね返したり、状況を逆手にとる賢さが見られなかったのは残念である。もちろんまだそこまでのチームではない、と言われてしまうと仕方ないの だが、それにしても押し込まれては押し返せないという現状はなんとも言えない。気迫だけ見せても敗けてしまっては意味がないが、空回りすらしない熱が帯びていなかったのも事実だ。この点でルーニーは感情をコントロールし過ぎている。爆発させる必要はないが、適度な熱さはあってもいいのだ。ファン・ペルシーもカッとすることはあるが、イライラからくるものであり、チームを鼓舞するような熱さではない。

無理に熱くなれとは言わないが、少なくともチームを取りまとめる「プレー」が出来る選手いないとささやかれて長いことになる。行き過ぎて追い出されたロイ・キーンまでとは言わないが、ギャリー・ネヴィル以降、キャプテンらしいキャプテンはいない。クリスティアーノはキャプテンシーを持っていたわけでは無かったが、ユナイテッドでの晩年は良くも悪くもエゴイスティックにゴールへと迫る「プレー」と「姿勢」をピッチに立つ限り示し続けた。そうすることでたとえ押し込まれていても、「攻める」というチームの意思が崩れることはあまり無かったと記憶している。

ボールを保持し賢くプレーしたいのならば、いかなる状況でもそれを可能にするだけの修正力と対応力がなければならない。今現在の完成度でそれを求めるのは難しいことなのかもしれないが、少なくとも「こういうプレーがしたいという意思」を強く発信・浸透できる者が必要だ。無いものねだりかもしれないが、ビジョンがボヤケたままでは良い結果は望めない。悪い時に何が出来るかで真価が問われる、とよく言われるが、この試合はその意味では良くないものだった。この言葉を終盤にヤヌザイを蹴り、踏みつけたサーシャ・リーターに300回ほど耳元で叫んでやりたい気分だ。

3点取るまでは非常に良かったことは誰もが認めるところだし、決して見ていないわけではない。しかしスッキリしない。まだまだ順位表の中央に名前があるせいかもしれないし、試しに買った酒がいまいちだったせいかもしれない。深みとコクが出てくるにはまだまだ。試行錯誤しながら勝ち点3を積み上げていけばいつかブレイクスルーできるのだろうか。こうして秋の夜長に考えることは尽きずに、今日も睡眠不足を引き起こす。

【試合ハイライト】

  (権利元の都合により埋め込みコードの掲載を取りやめました)

【ヤヌザイ×リーター】

 

 


筆者名:db7

プロフィール:親をも唖然とさせるManchester United狂いで川崎フロンターレも応援中。
ツイッタ ー: @db7crsh01

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