キーボードを叩く指がいつもより軽いのは、結果と内容が私をいつもより満足させるものだったからに違いない。

3連敗はなんとしても避けなければならないユナイテッドはヴィラパークへと乗り込んだ。多くの日本人は香川の欠場を悲しんだが、全てのユナイテッドサポーターはある男の名前がベンチにあること気が付いた。あるものは歓喜し、あるものは目から汗を流し、あるものは彼のチャントを懸命に歌い上げた。ダレン・フレッチャーの名前がそこにあったのだ。

この試合はざっくり3つのポイントがあったと私は見ている。

1:持ち駒を正しく活かしたユナイテッド

2:守備ブロック形成に課題

3:フレッチャー復帰の意味

以下、順を追って見ていこう。

【1:持ち駒を正しく活かしたユナイテッド】

選手の長所を最大限活かすかチームとしての決まり事を優先するかは、マネージャーによって異なる。もちろん共に最大限発揮されるのが理想だが、現実はそうもいかないことが多い。

この日最大限に活かされたのはウェルベックだ。2ゴールという結果を出したことも素晴らしいが、チームとして彼を徹底的に活かしたことが3−0に繋がったといっても過言ではないだろう。

ギグスとクレヴァリーのセンターハーフではやはりビルドアップに不安が残る上に、バイタルエリアの守備もあまり期待はできない。この日はルーニーがかなり下がってビルドアップに参加することで負担を分散していたが、それもウェルベックを活かしてチームも活きたことが大きい。

ルーニーもギグスもロングボールを前線のスペース目掛けて蹴ってウェルベックを走らせた。ボールを拾えなくとも、追いかけるスピードはプレミア屈指のウェルベック相手にはヴィラも相当手を焼いていた。しなやかにすごい速さで走るウェルベックを相手に、後ろ向きにボールを追いかけ処理しなければならないヴィラの最終ラインではどちらに分があるかはお分かりだろう。仮に拾えなくても、後ろ向きで処理するボールが前にコントロールされて跳ね返される可能性はあまり高くない。走る距離が長ければ長いほどヨーイドンでウェルベックが最終ラインを千切る可能性は高く、序盤にバタついて以降はポゼッションの数字以上にユナイテッドが主導権を握っていた。

20分しないうちにウェルベックが二度ネットを揺らしたことで試合展開はかなり楽になった。その後もウェルベックは動きにキレを見せ続け、この日のマン・オブ・ザ・マッチは誰の目にも明らかであった。

ウィングで起用されることもあるウェルベックだが、彼は足下にボールを欲しがる傾向がある。その割にその技術は要求度とのクオリティにギャップがある。ここはプロの世界であり結果が義務付けられているのだから、プレーに好き嫌いを持ち込んで失敗するなど言語道断。いくら好きな教科でもテストで点が取れなければマズイことと変わらないのだ。もちろん本人のモチベーションは大事だが、この日彼の長所を上手く活かすことで足下にもボールが入りやすくなっていたことを考えれば、彼自身が自らの長所を活かすということにより懸命になることを期待したいものだ。

【2:守備ブロックの形成に課題】

3点取って数字上は楽に勝てた様に見えるが、実際はヒヤヒヤな場面も少なくなかった。もちろんメンバーを見て守りきれるとは思っていなかったが、今後順位を上げていくのであれば流石に守備にテコ入れをしないと厳しい。

今現在の選手の特徴などを考えれば、繋ぐよりもシンプルにウィングを活かすフットボールをしたほうがいいと私は考えているが、そうでなくてもきっちりと守るためには強固なブロックを組織的に作る必要がある。ブロックをしっかりと形成し奪いどころを狙って統一すれば、素早いカウンターにも移行しやすい。マンマーク気味に近場の選手を捕まえるだけの流動的な守備では、カットインやダイアゴナルなランや後ろからの飛び出しに対応できず、しばしば嫌な形に持ち込まれて相手に主導権を渡してしまうことがどんな相手にも見られることはいい傾向ではない。ギグスなどは時折味方のポジショニングに関係なく、中途半端なマークで中央のスペースを相手に与えてしまうことがあり、この日もバイタルエリアを相手にプレゼントすることが何度か見られた。

ウィングには縦への推進力を持った選手が何人もいる。また現状を見れば相手によっては割りきってカウンター主体で戦うことも必要だろう。悲観的ではなく、ブロック形成が質を伴ったものに仕上がれば上位に返り咲くことは難しいことではない。あくまで最終目標は勝ってタイトルを取ることである。手法へのこだわりと現実を見る作業は同時でなければならない。

【3:フレッチャー復帰の意味】

フィル・ジョーンズがセンターハーフで起用されていた時に、三列目から飛び出す動きでチャンスを作っていたが、この日はトム・クレヴァリーがやっとその動きをしてくれた。3点目はまさにその形であり、継続していければ非常に良いものになるだろう。

しかしこの日の主役を上げるとすればウェルベックと共にダレン・フレッチャーを上げるしかない。冒頭で述べたように、ユナイテッドを愛する者たちは、彼の復帰を心待ちにしていた。

この一年、人生の半分以上をユナイテッドに捧げているこのスコットランド人の離脱は、戦力的に非常に痛かった。球際に激しく、献身的な動きで中盤を駆けまわる姿は試合を見ていれば彼がゴールを決めなくとも素晴らしい選手であることを十分に理解させるものだった。その彼が難しい病を患い、引退の可能性もあると発表された時には無神論者の私でさえも神はひどいことをするのだな、と考えてしまった。

一度は復帰したものの再度離脱。彼のストレスは想像をはるかに超えるものに違いない。しかしそれでもピッチに戻ってきた。香川の加入がきっかけでユナイテッドの試合を見るようになった人たちはおそらくフレッチャーのプレーがどのようなものかは知らない人がほとんどだろう。だがこの日見せたプレーを見ていれば、彼が素晴らしい選手であると分かるまでにそう時間はかからないはずだ。

フレッチャーのプレーがまた見られる幸せを感じながら、彼の復帰が起爆剤となってくれることを願うばかりだ。下部組織から数えればギグスの次に在籍年数の長い選手だ。やはり下部組織出身の選手は他の選手よりも思い入れが強い。そんな選手がチームの苦境を救うなんて、サポーターとしては実にたまらないシチュエーションだ。

さあ祝杯のペースが上がることを願おうじゃないか。シーズンはまだ折り返してもいないのだからね。


筆者名:db7

プロフィール:親をも唖然とさせるManchester United狂いで川崎フロンターレも応援中。
ツイッタ ー: @db7crsh01

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