【コラム】「第17節　マンチェスター・ユナイテッド対ウェストハム　右サイドからの爆撃と演出家ルーニー」

ユナイテッドのイケイケ具合が戻ってきた。というよりも失礼ながらハマーズに思ったほど手応えが無かった試合でもあった。とはいえ選手がこの過密日程の中でエネルギッシュにプレーする姿はやはり気持ちがいい。

【躍動の右サイド】

試合を通してユナイテッドの右サイドが躍動し終始相手を制圧し続けた。バレンシアとラファエルはともに何度もアップダウンを繰り返し、相手を押し込み続けることでユナイテッドの最終ラインをいつもより押し上げることに一役をかっていた。楽に戦えていた要因の一つはここにある。

ラファエルは復帰間もないころはリズムに乗り切れなかったものの、前節あたりから徐々に取り戻し始め、この試合ではバレンシアとの連携で何度もサイドを盛り立てた。バレンシアもサイドバックで使われたり、ベンチにいたりするなど常時絶対的ポジションを確約されていたわけではないが、ここ数試合のパフォーマンスは素晴らしい。

明らかなのはこの2人の呼吸が合ってきていることだろう。バレンシアはほぼ右足しか使わないため、上手く対応されると球離れが非常に悪くなる。しかし最近は上手いことラファエルのサポートがあるので妙に持ちすぎることはない。以前はサポートをもらっても自力で強引に突破をしかけることがあったのだが、そういったプレーもここ数試合あまり見られない。お互いのリズムが呼応しあうかのようにイメージするスペースを一致させ快適にプレーし、サイドから相手を力技でゴリゴリと押し込んでいく。もう少しクロスの精度が伴ってくると、文句のつけようがないのだが、これは今後の課題として良くなることを期待したい。

【好調ウェルベック】

前節も好調だったがこの日もウェルベックが生き生きしていた。私なりの見方では、やることをシンプルにした結果だと見ている。変に足下でこねくりまわさずに、シンプルにスペースに走り込む動きを意識するだけで劇的に良くなった。この日も「最前線」でプレーしたウェルベックだが、目の前の広大なスペースは彼にとって遊び場であった。そのしなやかな動きを狭いスペースで活かすには少し無理があったことは彼もわかっているのではないだろうか。ともかく彼は広いスペースがあってナンボの選手であることははっきりとし、彼は自身の活きる術を徐々に身につけつつある。もちろんチームメイトもそれを上手く活かすようになってきていることは言うまでもない。結果が出ているのだから尚更だ。正直なところ、先制点の場面では左足で打ちに行ったところ外すだろうな、と思っていた。結果は良いコースに打ち込んでネットを揺らしたのだが、ノッているとはこういうことなのだろう。いや、それよりも疑ってすまんかった。脚を痛めたようで後半早々に下がったが軽傷であることを祈りたい。

【何でも屋ルーニーの真骨頂】

バレンシアやウェルベックが非常に素晴らしい動きをしていたが、彼らにパスを供給していたのはルーニーだ。正確なミドルレンジのパスでサイドや前線に展開し、ハマーズの守備を見事に拡げていた。もちろんパサーはレシーバーがいて成立し逆もまた然りだ。両者が上手くプレーすることでハマーズは終始押し込まれたのだ。

この日のハマーズは深くまでしつこく追いかけまわしてくることはなく、比較的楽にビルドアップが行えた。とは言えクレヴァリーとジョーンズでは些か不安ではあるので前節同様ルーニーがセンターハーフの位置まで下がりパスを展開していた。下がることでルーニー自身はゴールから遠ざかるが、相手に必要以上に追われない上に、ミドルレンジのパスでウェルベックやバレンシアを活かして高い位置を保てていた。

この関係性が上手くいっている間は香川の出番はそう多くはないだろう。ビルドアップだけならまだしも、このようにサイドに正確なボールを供給しウィングを活かすことにかけては現状ルーニーの右に出るものはいない。香川もできないわけではないだろうが、同じプレーを考えた時には流石にルーニーに分がある。もちろん香川には香川の良さがあるし、彼の出番が全くないわけではないが、今のところこのいいサイクルをわざわざ壊す必要はないので、誰かが怪我で離脱しない以上は強引に香川を使う理由が見えてこない。過密日程ゆえにターンオーバーで出場機会はあるだろうし怪我人も相次いでいるので出番が無いわけではないだろうが、目標は勝ち点3の積み上げであって香川を起用することではない。日本人から香川のプレーする姿を望む声が上がることは当然だと思うのだが、私自身は香川個人のファンではないのでそういった声に理解はあるものの賛同はできない。香川も駒の一つに過ぎない。楽しみ方は人それぞれなので、私のコラムもその様な視点のものだとお考え頂ければいい。正解は人それぞれに用意されているものだ。

一時期復調するかと思いきやリーグ戦でつまずきけが人も相次いだ。しかしここにきて再度リズムを取り戻しているように見える。もちろん相手が相手というのも関係している感は否めない。まだまだ残る後半戦でアップダウンは避けられないだろうが、いい流れはそのままに徐々に積み重ねていけばいい。

短期的な成功も大事だが、ユナイテッドは長期的な成功を望んでいる。しっかりとした土台なくしてそれはやってこないだろう。ファーガソンの築いた土台の上にモイーズが自ら底上げする土台をきっちりと築き上げなければならない。楽しい道程か辛く苦しい過程になるかは分からないが、ローマもマンチェスターも1日にして成らないのだ。