奇跡を呼び込む「最後の一押し」

最後の一押し。例えばPSG対チェルシーではジョゼ・モウリーニョがFWを次々と送り込む人海戦術で最終的に勝利を得たように、終盤にゴールが欲しい時間帯での采配に決まった答えがある訳ではない。「FWを増やすのは意味がない」という意見も散見されるのだが、実際成功例もある以上何ともいえないというのが正直なところだ。しかし、今回追う場面でカルロ・アンチェロッティが選んだのは、左サイドバックであるマルセロの投入だった。イスコの投入でモドリッチに底を任せ、ピルロのように使っていった辺りもアンチェロッティ「らしい」名采配といえるが、個人的には最も効果的だったのはマルセロ投入だったように感じた。

59分に投入されたマルセロだったが、純粋なサイドバックというより中央寄りにプレーすることによって、ディマリアを外に出していく。これが結果的に奏功し、堅牢なアトレティコの4-4ゾーンがスライドした際に一瞬生まれる穴を上手く狙っていくようになっていったのだ。シンプルに図で説明すれば、下のような状態だ。

普通のサイドバックであれば、ディマリアのサポートとして外を広げるところだが、マルセロはその攻撃力を生かしてもう1人のMFのように攻撃に加わった。彼が狙っていたのはアトレティコの中盤がスライドして生まれた狭いスペースで、ディマリアを外に残して相手の意識を分散させることで攻撃の起点として何度となくこのスペースから仕掛けていったのだ。

面白いことに、このようにサイドバックを中盤の間に走り込ませてスライドした守備陣を崩す、という手は以前も使われたことがある。使っていたのはハインケス時代のバイエルン・ミュンヘンである。ロッベンとリベリーが右サイドに流れ、相手の中盤をそちらにスライドさせて極端に寄せておいて左サイドバックのアラバが「中央へ走り込んでスペースを使う」という手は2013年、CLのユベントス戦で見事に嵌った。動画を見れば解るように幸運が重なって得点にも繋がっているが、「中央に走り込むサイドバック」というのは面白いオプションとして印象に残っていた。

相手の意表を突く、という意味でマルセロを終盤の大切な時間帯に中盤のように使ったことは非常に効果的だった。バイエルン・ミュンヘンの成功例のように、この戦術は決して終盤に使うだけにとどまらない可能性も秘めている。そういった意味で、W杯でこの戦術を応用したチームが現れるかどうか、注目しながら見守って行きたい。

最後に。このCL決勝はここ数年間の中でも最もレベルが高く、素晴らしい試合だった。この試合を見れば、スペインリーグがテクニックだけのリーグなどということは出来ない。素晴らしい献身的な姿勢を見せた両チームは、相手を運動量で押し潰す三冠時のバイエルンを思い起こさせた。価値のある試合を見せてくれた2チームに拍手を送り、筆を置くことにしたい。


筆者名:結城 康平

プロフィール:「フットボールの試合を色んな角度から切り取って、様々な形にして組み合わせながら1つの作品にしていくことを目指す。形にこだわらず、わかりやすく、最後まで読んでもらえるような、見てない試合を是非再放送で見たいって思っていただけるような文章が書けるように日々研鑽中」
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