今年の5月12日、日本中の注目を集めたブラジルW杯の日本代表メンバー発表。アルベルト・ザッケローニ監督が想定された名前を次々と読み上げていくなか、まさしく「サプライズ」として2013年のJ1得点王、大久保嘉人が23人の枠に滑り込んだ。その選考には賛否両論があったが、大久保は本大会で全3試合に出場。ゴールこそ決められなかったものの相手チームの脅威になる働きを見せた。
ただ、そのプレーにはどこか“やりづらさ”、“歯がゆさ”がうかがえた。もちろん、大会直前でチームに加わった影響は大久保と他の選手いずれにもあったに違いないが、「ボールを動かしながら相手を崩す攻撃的なサッカー」という日本代表のスタイルは、大久保にとってクラブで慣れ親しんだものであり、実際そのコンセプトに沿ったプレーを意識しているように見えた。
そうした中で、彼の“感度の高さ”が目立っているように感じられたのは何故なのか――。
この疑問を年内に少しでも解決するため、大久保が所属する川崎フロンターレの監督、風間八宏氏が立ち上げたことで知られる「トラウムトレーニング」の講習会を先日取材してきた。
場所は東京都町田市、町田駅から徒歩1分のビル屋上にあるフットサル場「FUTBOL SALA 町田(フットサラ町田)」。少年サッカーの指導者などが参加しやすいよう、この日の講習会も日曜日の20時から始まった。
トラウムトレーニングとは、「もっとサッカーがうまくなりたい、もっとサッカーを楽しみたい」という子どもたちのために、“才能を制限しない場"あるいは“才能を発見し、引き出す場"として立ち上げられたサッカースクール(※講習会ページより引用)。
川崎の風間監督が筑波大学蹴球部を率いていた際のヘッドコーチで、風間監督退任後は蹴球部トップチームの指揮を執る内藤清志氏が総監督を務め、全6回の今回の講習会でも講師を担当している。ちなみに、トラウム(Traum)とはドイツ語で「夢」の意味である。
第3回となったこの日のテーマは『受ける』。内藤氏が「キャッチボール」と呼ぶ2人での対面パスからスタートした。
まず印象に残ったのが、細かい部分に徹底的にこだわることである。出し手なら、どこからボールが回転しだすのが味方にとって一番受けやすいかなどキックの質。受け手なら、いかに選択肢を増やすボールの置き方ができるかというトラップの質だ。
現在の川崎のサッカーを構築するにあたり、土台となる部分の“こだわり”は他のメディアなどでたびたび報じられ、実際に川崎の練習でもその様子を見ている。ここでは、「具体的に何を求めるか」を分かりやすく伝えていた。
また、「受けたボールをそのまま40メートル先の別の味方にも出せるか」というスケール感を伝えることにより、トラップでボールとともに身体を「セットする」ことの重要性を強調。受け手の技術と意識が向上すれば、出し手側のスキルやミス、多様なグラウンドコンディションに左右される面も必然的に小さくなる。